049_色素が失われた世界
フィオラの身長と同じくらいの高さがある蕾は真っ白な色をしている。
「これは、あなたに見せたことがなかったわね」
フィオラは蕾にかざした手をさらに近づけると、蕾の中心部が輝き出す。
大地から養分を吸収するように根に近い方から徐々に色付き、薄紫色の花弁がゆっくりと花開く。
それと同時に、ブレッグは周囲の景色が変化していることに気付く。
辺り一面の植物からは色が失われ、みるみるうちに枯れ果てていったのだ。
樹齢百年はくだらないであろうも立派な古木も、力強く咲いていた名も知れぬ花も、土に塗れた雑草も、全てが等しく枯れていく。
山から命が失われていく中、色素が失われた世界で一輪の鮮やかな花が咲こうとしている。
「……綺麗」
光悦とした表情でシオンは花を見つめる。
「たった一つの花のために、他の全てを犠牲にするのね。でも、それでいい。それだけの価値がこの花にはあるのだから」
シオンが言わんとしていることはブレッグでも理解できる。
光を放つ大きな花がフィオラで、その他の植物を村人に例えたのだ。
「やっぱり、私たちは姉妹ね」
「……一緒にしないで欲しいんだけど」
「どうして? この山に生息していた昆虫も動物たちもみんな死ぬのよ? 体は小さくても命の大きさは人間と同じだと思わない?」
「その言葉には同意するわ」
「含みがある言い方ね。事が済んだら全てを元通りにするとでも言いたいの?」
「……その通り。だから、あなたとは一緒にしないで!」
蕾の輝きは段々と強くなり、目を開けていることを苦痛に感じるほどの光に包まれた。
やがて、その光が花の中心部に収束すると、薄紫色の巨大な花が開花していた。
その花は蓮に酷似している。
花弁の真ん中は色が薄く、縁に近いほど色が濃い。
文句のつけようがないほど完璧で美しい花の中へとフィオラは躊躇なく踏み入る。
そして、花の中心に突き刺さっていた細身の長剣を引き抜くと、長剣の重量を確かめるように軽く一振りし、切っ先をシオンに突きつける。
エメラルドグリーンの刀身が夕陽を反射して煌めく。
「終わりにしましょう。今度こそ、あなたの凶行を止めてみせる」
「凶行って……酷い物言いね。私はフィオラを助けたいだけなのに」
「その言葉、聞き飽きたわ」
フィオラは態勢を低くして脚に力を溜めると、まるで閃光のように目にも止まらない速さで駆け出した。




