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047_僅かな希望


「さっきフィオラが呼び出していた生物に乗って逃げるのは?」


「クリスタを見ていたのね。確かに、もう一回くらいならぎりぎり召喚できるわ」


「それなら――」


「だけど、逃げ切るのは不可能よ。絶対に追いつかれる」


 はっきりと言い切るフィオラは確信があるようだった。


 空を飛ぶ龍より早く移動できる人間なんて普通なら信じられないが、シオンと対峙していたフィオラの言葉なら信じられた。


「そうなのか……というか、あれより早く走れるって、人間じゃないだろ」


 愚痴を零すのは時間の無駄であるとわかっていても、ブレッグは文句を言わずにはいられない。


 そのとき、あることが気になり、ブレッグは木々の隙間から空を見上げる。


「ん? でも、もし追いつかれたとしても、空を飛んでいれば手出しできないんじゃないか?」


「それも無理。シオンは空を歩けるから」


「……嘘だろ」


「本当」


 ブレッグは自分の認識が間違っていたことを理解する。


 これから相手にするのは人間ではない。


 人という種族を超越した何かなのだと己に言い聞かせた。


 しかし、だからといって諦めるわけにもいかず――


「じゃあ、奇襲だ。この森なら隠れられる場所をいくつか知っているから、不意打ちで倒すのは?」


 提案者であるブレッグ自身も奇襲が成功する確率の低さをわかっていた。


 しかし、このまま逃げ続けるよりも生還できる可能性が高いという計算だ。


「一か八かという考えね。私が気を引けばブレッグが一撃を入れることができるかもしれないけど……」


 途中まで言っておきながら口籠るフィオラは何かを懸念していた。


「一応聞いておくけど、ブレッグは武器とか持ってるの?」


「大したものじゃないけど、これなら」


 ブレッグは道を切り開くのに使っていた短剣をちらつかせる。


「予想はついていたけど、それくらいしかないわよね」


「やっぱり、これじゃあ歯が立たないか?」


「歯が立たないとか以前に、肌を傷つけることすらできないわ」


「……だよな」


 流石にこれだけやり取りを続けていれば、ブレッグも驚かなくなる。


 攻撃が通じないなら逃げるしかないが、逃げても追いつかれるという八方塞がりの状況。


 それがわかっていたから、フィオラは逃げることを諦めていたのだと思い知らされる。


「だけど、悪くないわね……奇襲」


「そうか?」


「それ以外に選択肢がないともいえるけど」


 フィオラ視点でも成功する可能性は低いのだろう。


 しかし、悪くないということは、可能性がゼロではないという意味でもあり、ブレッグは僅かな希望を見出す。


「やろう。フィオラが悪くないと判断したのなら、俺はこの奇襲に全てを賭ける。絶対に……何があっても成功させよう」


 意気込むブレッグに対し、フィオラは最後の確認を行う。


「ねぇ、今ならまだ遅くないわ。ブレッグ一人だけなら確実に逃げることができるのよ」


「まだそんなことを聞くのか? 何回聞かれても答えは変わらない。二人でこの窮地を脱するんだ」


「頑固なのね」


「お互い様だろ」


 ずっと張り詰めた表情をしていたフィオラの口元が緩む。


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