046_弱音を吐く姿
「けほっ……けほっ……」
「大丈夫か!?」
「気にしないでいいから……そんなことより、手を放して!」
「駄目だ! このまま街まで逃げよう!」
フィオラのか細い手を強く握り、薄暗い森の中を疾走する。
木の枝や背の高い雑草が2人の進行を妨害する度、ブレッグの手に握られた短剣によって切り開かれる。
「逃げ切るのは無理よ。必ず追いつかれるから」
「それなら俺が囮になるから逃げてくれ!」
「どうやって囮になるの? 一秒ですら時間を稼げるか怪しいでしょ」
「だとしても! 君には逃げて欲しいんだ」
俯きながら弱音を吐くフィオラの姿を見たくないブレッグは強く言い放つ。
「私なら大丈夫。シオンは私を殺すつもりはないみたいだから」
フィオラは内出血を起こしている自分の首を触り、シオンに握り締められていた箇所を確かめる。
――その怪我で、何が大丈夫だっていうんだよ。殺されない保証もないだろ。
痛々しい少女の姿に目を背けたくなる気持ちをブレッグはグッと堪える。
「もう一度、私が戦うわ。時間を稼ぐことに集中すれば、ブレッグが逃げる時間くらいは戦い続けられると思う」
「……俺が逃げた後は?」
「捕まるかもしれないけど、隙を見て逃げるわ。相手も人間なんだし、必ずどこかでミスを犯すはずよ」
「…………」
フィオラの言葉が嘘であることをブレッグは見抜くが、返す言葉が見当たらなかった。
2人の間に沈黙が流れる。
ただひたすらに森の中を走り続けた。
そして、最初に口を開いたのは――ブレッグだった。
「先に、一つ謝りたいことがある」
「え?」
驚いた様子のフィオラはブレッグの横顔を見つめる。
「戻るのが遅くなってごめん。フィオラが時間稼ぎをしていることに気付けなかった」
「……いいのよ。ブレッグと一緒に戦っても勝てる見込みはなかったから」
フィオラの正直な言葉にブレッグの心は傷ついたが、事実であることを認める。
「でも、どうせ謝るなら、もう一つ謝って欲しいことがあるわ」
「は?」
まさかの追撃に今度はブレッグが驚く。
「私の考えに気付いたならどうして戻ってきたの? そんなこと、望んでないのに……」
ブレッグが駆けつけたことで、シオンの魔の手からフィオラは間一髪のところで逃れることが出来た。
しかし、そのせいで今は二人分の命が危険に晒されている。
もしもブレッグが戻ってこなければ、少なくとも一つの命は助かったはずである。
「それは……」
ブレッグは自分の感情と向き合う。
無謀であるとわかっていながら、なぜフィオラの元へ向かってしまったのか。
素直な自分の気持ち、それは――
「フィオラが命の恩人だから」
「噓でしょ」
「……嘘をつきました。ごめんなさい」
「もういいわ。誤ったところで現状が変わるわけじゃないんだから」
――謝罪を要求してきたのはそっちじゃ……
ブレッグは理不尽さを感じながらも、その言葉だけは口にせず我慢した。
「それで、何か考えはあるの? 仮に街へ到着したところで、余計に被害が広がるだけよ」
フィオラの発言にブレッグは強い喜びを感じる。
つんけんしてはいるが、一緒に逃げる方法を考えてくれているのだ。
となれば、フィオラの期待に応えねばなるまい。




