045_シオンの独り言
気を失ったフィオラは全身が脱力していた。
脚は地面から離れ、首を掴む白い腕がギリギリと締め付ける。
やがて、完全に抵抗できない状態にあることを察したのか、首を絞める力が緩められた。
眠っているかのような穏やかな表情にシオンは一人語り掛ける。
「必ず、私が救ってみせる」
その言葉には凄みがあった。
シオンの瞳にはフィオラしか映っておらず、その漆黒の瞳の奥には狂気といえるほどの強固な覚悟が込められている。
「邪魔をする者は誰であろうと排除するわ。国家だろうが機関だろうが関係ない。私たちの邪魔をするなら全て消し去ってあげる。だから、フィオラは安心して。そして、私の代わりに人並みの幸せというものを享受してくれると嬉しいわ」
しばらくじっと見つめていたシオンは、力の抜けた優しい笑顔を見せる。
「うふふ……気絶しているから何も聞こえてないわね。それじゃあ、まずは村人たちを殺して回りましょうか」
そのときだった。
突如、シオンの顔面に向かって飛んできた火球が直撃した。
火球は弾け、大きな爆発音と伴に周囲を黒煙が包み込んだ。
「フィオラ!!」
シオンの手から離れ、崩れ落ちるように倒れたフィオラへブレッグは駆け寄る。
視界が不明瞭な中、気絶したフィオラを抱え上げると、シオンへ向けて炎の壁を発現させた。
次の瞬間には、シオンの視界が轟々と燃える真っ赤な炎で遮られる。
身じろぎ一つせず、目の前で起こる事象をシオンはただただ受け入れていた。
そして、呆れた様子で溜息を軽く吐き出す。
「ブレッグね。フィオラを置いて逃げたくせに、また戻ってくるとは思わなかったわ」
火傷どころか髪の毛一本すら燃えていないシオンは、炎の壁の向こう側にいるであろうブレッグへ問いかける。
「何しに来たの? フィオラのお友達だから見逃してあげたというのに。もしかして、自殺志願者だったりするのかしら」
冗談めかしてはいるが、シオンの笑顔には悪意が含まれていた。
「私と戦うの? それとも逃げるの? はたまた交渉でもしてみる?」
一向に返事は返ってこず、シオンは落胆するように肩の力を抜いた。
「はぁ、逃げたのね。つまらないわ。これ以上割って入られても嫌だし、殺してしまいましょうか。フィオラが悲しむのは辛いけど――」
そのとき、シオンはある異変に気付き、視線をキョロキョロと動かして炎の揺らめきを追いかけた。
「これは……幻影の類なのかしら。初めて見たわ」
異変の正体を確かめるように、炎の壁に何度も触れる。
シオンが来ているドレスの裾が炎に接近するが、燃えることはない。
「うふふ、面白い力を持っているのね」




