044_想いを紡ぐための器
2人が小さく笑い合った後、フィオラが手にしている短剣の刀身をシオンは指先でそっとなぞる。
「この短剣ならフィオラを守ってくれると思ったのよ」
「業物だからってこと?」
「それもあるけど……一番の理由はお守りね」
「お守り?」
世界どころか次元を渡り歩いてきたフィオラは、お守りに然した効力がないことを知っている。
しかし、シオンが何を思っているのか、何を願っているのかという観点では強く興味を惹かれた。
「この短剣はね、褪色者の想いを紡いだ象徴なのよ」
それだけ言われても何のことかわからず、フィオラは顔に疑問符を浮かべる。
「ほら、私たちっていつ死ぬかわからないじゃない? 任務は危険なものばかりだし、寿命はすごく短いから。だから、自分の想いを紡いでもらうための器として用意されたのだと思うわ」
「つまり、褪色者の間で代々受け継がれていたってこと?」
「その通り。ついでに言っておくと、ある代で紛失したのを頑張って探し出したのよ」
えっへんと胸を張っているシオンの横で、フィオラの頬を一滴の汗が伝う。
――なんか、とんでもないものを受け取っちゃった。
今更返却するつもりはないが、軽い気持ちでものを受け取ることがないように自分を戒める。
特に、これから会う要人には細心の注意が必要だ。
己の陣営に引き入れようと、甘い言葉で誘惑してくるに違いないのだから。
「あと、この短剣はただの武器じゃないのだけれど……それは使ってみてのお楽しみね」
「ふーん、まぁ、よくわからないけど期待しておくわ」
フィオラは短剣を鞘に納めると、心臓に近い位置にあるローブの内ポケットにしまう。
それを見て満足した様子のシオンはパチンと手を叩く。
「さてと、引き留めて悪かったわね。色々喋ったけど、とにかく私はフィオラが機関に加入することを歓迎するわ。これからもよろしくね」
「はい。ご期待に沿えるよう日々邁進してまいります」
「え?」
王命を受けた騎士のように頭を下げたフィオラにシオンは動揺を見せた。
フィオラは重厚な扉と向き合い両手で軽く押すと、見た目に反して簡単に開いた。
そして、歩き出す前に振り向いて一言。
「ふふ……なんてね」
シオンは何も言わない。
ただ、微笑みながら歩み続けるフィオラの背中を見つめていた。
ほどなくして会場から歓声が沸きあがるのだった。




