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040_樹木の龍


 強く輝く魔法陣から飛び出した巨大な生物はシオンを殴り飛ばす。


 シオンの身体は樹木をなぎ倒しながら凄まじい速度で飛ばされ、やがて民家に衝突して停止した。


 フィオラの目の前で巨大な翼を羽ばたかせる存在。


 それは、御神木を体現したかのように荘厳でいて、禍々しい威圧感を放つ龍だった。


 鱗の代わりに樹皮で身を包み、巨大な翼は枯葉と枯れ枝で構成されている。


 シオンを吹き飛ばした大樹のように太くて長い腕は、力なくだらりとぶら下げていた。


 神とも悪魔とも表現し難い龍を従えたシオンは崩れた民家に近づく。


「出てきなさい」


 フィオラの言葉に反応するように、民家の残骸は光の粒子へと変わりシオンが立ち上がった。


 頭から流血しているシオンは敵意丸出しの龍に向かって語り掛ける。


「あなたと会うのもいつ以来かしら……クリスタ」


「あいつの話を聞く必要はないわ。早く終わらせて!」


「ゴアアァア!!!」


 フィオラの言葉に同意するかのように、クリスタは空高く飛び上がり、シオンに向かって滑空する。


 巨大な腕を振りかぶったクリスタに対し、シオンは右手を前に突き出した。


「無駄よ!! 『理』が使われる前に叩き潰す!」


 そして両者は衝突する。


 瞬き一つせず見つめていたフィオラは驚愕した。


 シオンの姿が消えていたことに。


「いったいどこに!?」


 どこかに吹き飛ばされたというわけでもない。


 となると、残された選択肢は少ないわけで――


「まさか……!」


 フィオラが空を見上げると、飛行中のクリスタの腕に彼女の姿を見つけた。


 シオンは脚力だけを使って駆け上るように腕から背中へと飛び移っていく。


「振り落として!!」


 クリスタの背中に掴まりながら下界を見渡すシオン。


「いい眺め。そういえば、昔、この子の背中に乗ったこともあったわ」


 クリスタは自身の背中を長い腕で叩くが、シオンは跳んで避ける。


 次にシオンが着地した場所はクリスタの後ろ首だった。


「いい子だから、今は大人しくしていてね」


 クリスタの耳元で囁いたシオンが右手で頭部に触れると、クリスタの首から上が光の粒子となって消えた。


「クリスタ!!!」


 フィオラの叫びも虚しく、活動を停止した胴体は自由落下を開始する。


 燃え尽きかけている流れ星の如く光の粒子を振り撒きながら落ちて行き、地表に到達することなく消え去ってしまった。


「そんな……」


 打ちひしがれるフィオラの前に降り立つシオン。


 音もなく軽やかに着地する彼女の身のこなしは、落下の衝撃を完全に殺していた。


「全ての手を出し切ったわね。それでも私を超えることはできなかったと」


「くっ……!」


 フィオラは急いで魔法陣を再展開するが、あっという間に距離を詰めたシオンによって握り潰され砕かれる。


 依然としてシオンの頭から血が流れているが、その程度で動きが鈍る様子はない。


 そして、シオンの魔の手によって首を掴まれたフィオラは足が地面から離れた。


「が……はっ……」


 逃れようと抵抗するが、首を掴むシオンの手はびくともしない。


「暴れないで。フィオラと違って私は殺すつもりがないから」


 シオンは優しく微笑みかける。


 フィオラは力いっぱいにシオンの腹部を蹴るが、それでも意に介していない様子だ。


「逆にあなたの命を救うつもりよ。この村の人達には悪いけど、犠牲になってもらいましょう」


 気道が塞がれて呼吸が出来ないフィオラは手や足に力が入らなくなり、抵抗が弱くなりつつあった。


「フィオラは嫌がるかもしれないけど……でも、命あっての物種。死んでしまっては意味が無くなるの」


 朦朧とした意識の中、掠れた瞳で睨みつけることがフィオラに出来る最後の抵抗だった。


「大丈夫。私も一緒に罪を背負うから」


 この言葉を最後にフィオラの意識は途切れる。


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