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037_開戦


「もう動いていいかしら?」


 草原に横たわるように拘束されていたはずのシオンはいつの間にか起き上がっており、全ての蔦が引き千切られていた。


 両腕に力なく纏わりついていた残りの蔦も引き剝がされる。


「大切な話をしているみたいだったから静かにしていたのだけれど、それでよかったわよね?」


 ブレッグが逃げるとき、わざと見逃してあげたとでも言いたいのか。


 余裕のあるシオンの態度がフィオラは気に食わないでいた。


「それにしても、最後の別れがあんなので良かったの? 私も鬼じゃないわ。ちゃんとお別れする時間くらいあげたわよ」


「……最後じゃないわ。あなたを倒して再会するもの」


「うふふ、そういうことにしておきましょうか」


 口元に手を当てて上品に笑うシオン。


 立ち振る舞いは貴族の令嬢そのものだ。


 シオンがフィオラに視線を戻したとき、姿が消えていることに気づく。


 刹那、シオンの背後に回り込んでいたフィオラは回し蹴りを繰り出した。


 シオンは前屈みになるように上半身を折り曲げる。


 渾身の蹴りは白髪を捉えるだけで、空振りとなった。


「まったく、せっかちなんだから。もう少しお話を楽しみましょうよ」


 屈みながら背後のフィオラを見つめるシオン。


 口元が背中に隠れているせいで表情は読めない。


 フィオラが態勢を取り戻そうとしたとき、シオンの白い手が首元に向かって伸びる。


「……くっ!」


 辛うじて身体を引いて避けることに成功するが、中途半端な態勢から回避行動に移ったせいで僅かによろめいた。


 その隙を逃すシオンではない。


「捕まえた」


 再び魔手が迫る。


 細い指はただならぬ存在感を放っており、プレッシャーに押し潰されそうになる。


 そのとき、シオンの後頭部を巨大な影が殴りつけた。


「がぁっ!!」


 倒れそうになったシオンの両腕を2つの影がそれぞれ掴む。


 それらの影の正体は、二足歩行で立っている大樹だった。


 人を模して造られていはいるが、顔はくしゃくしゃで不細工なうえ、腕や脚も所々不自然に曲がっている。


 魔物と見紛われてもおかしくない存在だが、腕のような太い枝をくねくねと動かしてシオンの身体を支えていた。


「そのまま支えてて!!」


 可愛らしい声を持つ上官からの命令に、2本の大樹は姿勢を正す。


 枝をシオンの腕に深く絡ませて命令を遵守していると、シオンの腹部に重い前蹴りが直撃した。


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