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035_色の抜けた髪


「フィオラは……関係ないだろ」


「あら? もしかして、フィオラから聞いてないの? 私たちの寿命のこと」


 ――寿命?


 その言葉にブレッグは胸が締め付けられるような錯覚を覚える。


 もしも普通の人と寿命が異なっていたとして、出会って一日も経っていない相手に話す話題ではないだろう。


 そういう意味ではブレッグが聞いていなくてもおかしくない。


 ブレッグは縋りつくようにフィオラへ視線を送るが、フィオラは相変わらずシオンを睨みつけたままだった。


 ブレッグの動揺を読み取ったのか、シオンは嬉しそうに微笑む。


「ふふ、その様子だと聞いてないわね。きっと、優しいフィオラのことだから、ブレッグに心配させたくなかったのよ」


 その笑みが何を意味しているかはシオンのみが知る所だ。


 しかし、ブレッグの視点では『秘密を共有できないほどの交友関係』を嘲笑されているようで、シオンが憎く思えてきた。


「……寿命については何も聞いてない。 けど、シオンが村人を殺したこととは関係ないはずだ!」


「関係あるわよ。だって、フィオラはもう直ぐ死んでしまうんだもの」


「何を、言って……」


 ブレッグは自分の耳が信じられず聞き返す。


 ――フィオラが死ぬ? そんなの嘘に決まっている。


 シオンは悪戯に嘘をつくような人物ではないことをなんとなく把握していたが、それでも信じたくない気持ちが勝る。


「その髪。だいぶ色が抜けたわね」


 どこか悲しそうに、物憂げな視線をフィオラへ送るシオン。


 もちろんフィオラが返事をすることはなかったが、代わりに薄緑色の髪が風に吹かれてなびいた。


「今の色も素敵だけれど、昔の色も元気いっぱいって感じがして可愛かったわ」


「昔は髪の色が違ったのか?」


「ふふふ、新緑みたいに鮮やかで綺麗な色だったのよ」


 ブレッグの問いに対し、シオンはフィオラの髪から目を離さずに答える。


 今の彼女の瞳には当時のフィオラの容姿が写っているようだった。


 シオンはフィオラへ向けて手を伸ばし、自身の青白い肌と比較する素振りを見せる。


「私たち褪色者は、その名の通り色を失っていくの。歳を重ねるにつれて髪や肌から色素が失われ、少しずつ白に近づいて行くわ。そして、それは肉体の崩壊が始まっている証拠でもある」


 シオンの言葉の意味をブレッグが理解するのに時間はかからなかった。


 しかし、それでも認めたくないブレッグはなんとかして反論を試みる。


「……どうして。だって、フィオラはまだ若いし、少なくとも病人には見えないだろ」


「仕方がないことなのよ」


 そういうシオンはブレッグを諭しているようだった。


「他の世界から生まれ変わってきた褪色者の魂は、この世界の肉体に収まりきらないほど強大なの。それを無理やり押し込んでいるものだから、限界を迎えた肉体は崩壊して死んでしまうわ」


「そんな……」


 シオンの説明を受けたブレッグは激しく落胆する。


 怪我や病気であれば治せる可能性は大いにあった。


 しかし、魂そのものが原因であるなら、どうやって解決しろというのだ。


 一言で表すなら八方塞がり。


 フィオラを救う手立てはない。


「でも、安心して」


 絶望の淵に立たされた心境のブレッグに、シオンはそっと手を差し出す。


 両者の間には距離があるためブレッグがその手を掴むことはできないが、心は少しだけ暖かくなるのを感じた。


 続くシオンの言葉によって、その暖かさは希望へと変わる。


「私はまだ生きているでしょ」


 稲妻に打たれたかのようにブレッグに強い衝撃が走った。


 ――そうだ。シオンのいう通り髪の色が肉体の崩壊を意味するなら、髪が真っ白なシオンはどうして死んでないんだ。


 フィオラの髪の色から死期が目前に迫っているのだとシオンは話した。


 しかし、その話が正しいなら、さらに髪の色が抜けているシオンはとっくに死んでいるはずである。


「褪色者が延命する方法はあるのよ」


 一瞬、シオンの口角が吊り上がったように見える。


 シオンが何を言いたいのか、ブレッグはおおよその見当がついていた。


 それでも、フィオラの命がかかっているとなれば聞かずにはいられない。


「その方法って……」


 待っていましたと言わんばかりにシオンは満面の笑みを浮かべる。


「大したことないわ。他人から命を貰えばいいの」


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