032_嘘が意味すること
「フィオラと一緒にいたわよね?」
彼女の言葉から感情は読み取れない。
しかし、答えなければ質問が終わらないことを察したブレッグは一呼吸置いてから答える。
「たぶん……俺は友達だと思ってるけど」
「やっとあの子にも友達ができたのね。嬉しいわ」
ブレッグの返答を聞いた女性は再びにっこりと笑う。
先程の笑顔と違う点は心の底から喜んでいるように見えることだろうか。
そんな奇妙な雰囲気を纏っている彼女に対し、ブレッグはどこか親しさを感じていた。
「よかったら名前を聞かせてもらえないかしら?」
「ブレッグ。……えっと、君は?」
「私はシオンよ。よろしくね、ブレッグ」
と、ここまで話していて、ブレッグは未だに自分が寝転がっていることに気付く。
上体を持ち上げようと地面に肘をついたブレッグは胸の痛みに襲われる。
「うっ! いった……!」
予想していた痛みとはいえ、それを上回ってきた激痛に煩悶する。
「怪我をしているみたいね。かなり深刻そうに見えるけど、1人で立ち上がれる?」
「大……丈夫。大したことはないから」
「強いのね。あなたみたいな男の子がフィオラを守ってくれれば私も安心できるわ」
――俺がフィオラを守る。そんな日がいつか来るならいいけど。
立ち上がったブレッグは両手を背後で結んだシオンと向かい合う。
実際に立ち上がるまで気付かなかったが、シオンの身長は女性としてはかなり高い部類だった。
胸を押さえて前屈みになっている今のブレッグよりはシオンの方が背が高く見える。
「えっと、シオンさんはどうしてガフナス村に?」
「うふふ、フィオラの友達なんだから、よそよそしい呼び方はしないで。シオンでいいわ」
「それじゃあ……シオンはこの村で何を?」
「そうねぇ、どこからどこまで話そうかしら」
思い出話に花を咲かせるかのようにニコニコしているシオン。
しかし、ブレッグは緊張感から顔の筋肉が強張っていた。
――シオンが殺人犯だとは思えない。だけど念のため、彼女の反応で殺人犯かどうかを見極めよう。
シオンは少し悩んだ挙句、ブレッグの問いに対して平然とこう答えた。
「私にもいろいろな事情があるのだけれど……。一言で説明するなら、異界の魔法使いを探しに来たのよ」
嘘を口にすることが多いブレッグの直感は告げる。
――嘘だ。
ブレッグに根拠はないが、自分の直感が正しいのだとこの時は理解できていた。
そして、シオンの嘘に気付いてしまった自分の動揺が伝わらないよう、表情を必死に取り繕う。
――異界の魔法使いを探していることは事実だと思う。けど、もっと重要なことを隠している気がする。なにより、俺が求めていた言葉を返して、無理やり納得させてしまおうという意思を感じる。
嘘をつく能力に関してはブレッグの方が一枚上手だった。
そして、シオンの嘘が意味するところはただ一つ。
――つまり……この村の人たちを殺したのはシオンだ。
ブレッグが事実に辿り着いたとき、背後からフィオラの叫び声が届く。
「ブレッグ!! 逃げて!!!」
振り向くとそこには顔の青ざめたフィオラが。
焦りと恐れが滲み出ている琥珀色の瞳は、ブレッグがいかに危険な状況に晒されているかを物語っていた。
十歩も歩けば手の届くその距離が、今のブレッグにはとても遠く感じる。
「何をそんなに怖がっているのかしら? 私はブレッグとお話をしていただけなのに」
その場を掌握していたのはシオンだった。
ブレッグとフィオラは迂闊な行動がとれず身構えることしかできない。
「うふふ。なんだか私が人質を取ってる悪者みたいね。フィオラの所に行っていいのよ」
シオンの漆黒の瞳を見つめたブレッグは嘘をついていないことを理解する。
しかし、だからといって足を動かせるかは別問題だ。




