028_5枚の爪
「ところで、胸の怪我は大丈夫なの?」
背中にも眼がついているのではないかと思わせる発言に、ブレッグの表情は固まる。
フィオラは通り過ぎる民家を警戒していて、背後のブレッグの様子は見えていないはずだった。
――直感が鋭すぎないか。
危機が迫っていることで感性が鋭くなっているのかもしれない。
ブレッグの胸の怪我が想像以上に深いことを悟られれば、小屋へ強制送還されることは間違いないだろう。
――ここは、気付かれないように真実を織り交ぜて誤魔化すか。
「薬が切れて痛んできたけど、歩くくらいなら余裕だよ。痛みも少しずつ引いてる気がするしね」
と言いながら姿勢を正して額の汗を拭くブレッグは、いつフィオラが振り向いてもいいように備える。
「……そう。でも、何かあったら言うのよ。ブレッグも怪我人なんだから」
「もちろん。その時は甘えさせてもらうよ」
安堵のため息をついていると、ブレッグの視界にあるものが入った。
「さっきから気になっていたんだけど、その手についている血はどうしたんだ?」
「あ、これは……。ちょっと気になることがあったから遺体を調べさせてもらってたの」
フィオラは血で汚れることなど気にせずローブでその手を隠す。
追加の説明を期待していたブレッグはフィオラの言葉を待つが沈黙が流れるだけだった。
「えーっと、何かわかった?」
「……いいえ。何も」
――さっきから何か様子が変だよな。これ以上聞かない方がいいのか?
人の心に踏み入ることを大の苦手とするブレッグは悩みあぐねる。
ブレッグは超えてはいけない心の線を一度も踏み越えたことがなく、それ故にどこまで近づいて良いのかも判断できないのだった。
――この緊急事態に聞くことでもないけど、何か大切なことのような気もする。
フィオラの直感がそうさせたように、このときのブレッグの直感も何かを感じ取っていた。
「答えたくないなら、答えなくていいんだけど――」
「ブレッグ、私の後ろを離れないで」
「え?」
急に立ち止まったフィオラは村の奥を見据えていた。
発言を遮られたブレッグが背中に視線を向けるより早くフィオラは走り出す。
一つ変わったことは、ブレッグがついてこれるように速度を緩めていることか。
――配慮してくれてるからついていける。でも、胸の怪我が……。
だんだんと強くなる痛みから目を背けるように強く目を瞑る。
――今はフィオラについて行くことだけに集中するんだ。
平たんな道かつ村が静まり返っていたため、足音を頼りにフィオラの後ろを走ることは難しくなかった。
民家を数件通り過ぎたかというところでフィオラが足を止め、それに合わせてブレッグも減速する。
そして、目を開けてしまったブレッグは、目の前に落ちているモノを不幸にも見てしまう。
「なんだよ、これ……」
それは、人の服を着た肉塊だった。
正確には、血で真っ赤に染まった服を纏っている肉の塊。
不思議なことに皮膚や骨は見当たらず、鮮やかな色の肉と内臓が剥き出しになっている。
袖の近くに落ちている5枚の爪が、肉塊が元は人間であったことを証明していた。




