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027_糸の切れた操り人形


「フィオラ……なのか?」


 消え入りそうなほど小さな声に反応した少女は振り返り、ブレッグの存在に気づ付く。


 それと同時に瞳には明るさが戻り、表情は柔らかくなっていった。


「あ、ブレッグ」


 フィオラはローブの袖をパタパタと揺らしながら小さく手を振る。


 その姿を目にしたブレッグは糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ちた。


「え! どうしたの!?」


 フィオラは駆け足で近づいてくると、ブレッグの肩を優しくさする。


「大丈夫? 何かあったの? 怪我とか?」


 反応はない。


 放心状態で力の抜けていたブレッグだったが、フィオラがうっすらと涙を浮かべていることに気付いてはっとする。


「ごめん。フィオラに合えたら力が抜けちゃって」


「え、それだけ? ……本当に?」


「本当に」


 頷くブレッグの言葉が信じられないのか、フィオラはブレッグの周りを一周して全身を軽く確認する。


「はぁ。びっくりしたのよ」


 と小さな声でため息交じりに呟く。


 フィオラから差し出された手をブレッグは掴むと、膝に手を添えながらゆっくり立ち上がった。


「フィオラ、君に聞きたいことがあるんだ」


「……この村に起こっていることでしょ? その質問をするってことはブレッグも見たのね」


「じゃあフィオラも?」


「ええ。ここの民家でも二人分の遺体が見つかったわ」


 冷静に告げるフィオラとは対照的に、ブレッグは口を開けたまま放心状態となっていた。


「そんな……」


「たぶんだけど、この村を訪れた部外者が村人たちを殺していったのよ」


「どうしてそんなことを……。みんな親切で優しい人ばかりなのに」


「きっとそうなのよね。だから、何も疑わずに家へ招き入れたのかもしれないわ」


 困っている人には施すことがこの村では当たり前であり、そうやって小さなコミュニティ内で村人たちは共存していた。


 それが最悪な形で事件を引き起こしたとしかいえない。


「酷い、酷すぎる。人の善意につけこんで……」


「私もそう思う。だから、これまでに犯した罪を全て償わせる。絶対に」


 道の先を漠然と見据えるフィオラの瞳には殺意が垣間見えるが、次の瞬間には消えていた。


「あのね、ブレッグはこの村から逃げてくれない?」


「は? どうして?」


「危険だからよ。それ以外に理由はないわ」


 フィオラはきっぱりと言い切る。


 しかし、二つ返事で了承できるほどブレッグも大人ではなかった。


「……いや、俺が言うのも変だけど、フィオラの近くにいた方が安全なんじゃないか。殺人犯が村を離れている可能性もあるわけだし」


「それは……そうかもしれないけど……」


 上手い返しが見つからないのか、煮え切らない様子で『でも』とか『ええっと』とか呟いている。


 結局何も思いつかなかったフィオラは、ブレッグに近づき鋭い視線で見つめる。


「ついてきたら死ぬかもしれないわよ。その覚悟はあるの?」


「ついて行かなくても死ぬ可能性はあるわけだし。それに、フィオラには命を救ってもらっただろ。いつだって覚悟は決めてある」


 初めて自分の本音を口に出せた気がしたブレッグは清々しい顔をしていた。


 しかし、ブレッグの覚悟を聞いたフィオラの表情はだんだんと重くなり――


「……わかったわ。それなら一緒に行きましょう」


 ――あれ? 予想した反応と違う。 普通ならこういう時、喜んでくれるはずだけど。


 人付き合いの浅いブレッグでもそれくらいのことは理解している。


 内心でブレッグが戸惑っていると、フィオラは村の中心に向かって歩き出した。


「村長の家ってこっちであってるのよね」


「え、ああ。そうだけど」


「早く行きましょう。これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかないわ」


 スタスタと歩いて行ってしまったフィオラを、ブレッグは胸を押さえながら追いかける。


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