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025_血


 フィオラの反応には理由があることを確信していたブレッグは周囲の観察を続ける。


 すると、畑に隣接するように建てられた一軒の民家が近づいてきた。


 他と大して差がない、この村では一般的ともいえるやや古びた民家だ。


 ブレッグの小屋を一回り大きくした程度であり、2~3人が住めるサイズ感である。


 それでも、人の少ないガフナス村で十分な大きさと言えるのかもしれない。


 この民家が空き家という可能性もあったが、もしも誰かに出会えれば情報を入手できる貴重な機会でもあった。


 室内は薄暗くて太陽の光を窓ガラスが反射しているため、室内の様子を遠目に確認することはできない。


 ――気は引けるけど、少し中の様子を見てみよう。


 他人のプライバシーを侵害する行為をブレッグは最も嫌う。


 しかし、万が一、ガフナス村に脅威が近づいているとなれば、そんな悠長なことは言ってられない。


 風が吹くたびにカタカタと音を立てる窓へブレッグは近づいて聞き耳を立てる。


 ――人の気配は……ないか。


 声や生活音は聞こえてこなかった。


 この時点で民家に人がいる可能性は低いが、念のため窓に付着していた土埃を手で振り払ってから室内を覗き込む。


 ――怒られたらなんて謝ろう。


 今のブレッグの姿を見られたりしたら、泥棒や不審者と思われるかもしれない。


 そうならないためにも、一目見て誰もいなければ速攻でこの場を離れるつもりだった。


 そして、いざ窓ガラスに黒い瞳を近づけたその瞬間、ブレッグの身体は硬直して身動きが取れなくなる。


 ひと際強く吹いた風が草木を揺らし、ブレッグに警告するかのようにざわつく。




「……うそ、だ」




 まばたきすら忘れるほど衝撃的な光景に、口から漏れ出した微かな声は震えていた。


 室内を満たしていたのは『血』だ。


 壁には飛沫した血液が、床には大きな血だまりが、室内の至る所に血液がべっとりと付いていた。


 人間一人分の血液を絞り出して振り撒いたと言っても過言ではないほどのおびただしい量。


 液体は既に乾燥しており、黒に近い赤――本能的に忌避してしまう色へと変色している。


 何よりも悍ましいのは床に点々と落ちている赤い物体だった。


 どうしても、それに焦点を合わせることが出来ないブレッグは、血液によって木目の浮かび上がった壁を見つめたまま硬直している。


 木目から視線を外せばより恐ろしいものが目に入る気がして、眼球を動かすことすら恐怖に感じていた。


「うっ……」


 建付けの悪い窓の隙間から漂ってきた鉄の匂いが吐き気を催す。


 呼吸を止めたブレッグは反射的に窓枠から顔を遠ざけた。


 あまりに酷い臭いから涙目になるブレッグだったが、幸運なことに室内から目を離すことができて身体の硬直が少し解ける。


 「早く……この場から、離れないと」


 それは、病人のようにか細くて弱弱しい声だった。


 関節が固定されて棒のようになっていた脚に意識を強く集中すると、少しづつ動き出す。


 脚と地面は接したまま、引きずるようにしながら後退して民家との距離を取る。


 絶対に窓だけは見ないように地面を見つめながら、一歩ずつ下がり続けた。


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