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024_全身を流れる汗は止まらない


 道に伸びてきている木の枝が体に当たろうとも速度が落ちることはない。


 フィオラから少しでも離れないように自分が走ることのできる限界の速度を維持する。


「はっ……はっ……」


 リズムよく呼吸を続けながら走り続ける。


 その速度は全く落ちることなく、むしろ体が温まったことで徐々に加速していた。


 一般的な魔法使いは筋力や体力よりも知力や魔力を重視する傾向が強く、ブレッグのように呼吸を乱さず走れる人は少ないだろう。


 これだけ強靭な足腰を手に入れられた理由は、山小屋での不自由な生活にある。


 薪が切れれば木を伐採して小屋まで運び、小腹が減れば山菜を探しに山をうろつく。


 さらに、毎日欠かすことなく湧水を汲みに行き、1日の生活に必要な量の水を運搬しなければならない。


 そんな生活を3年間も続けていれば、体力がつかない方が不思議といえる。


 軽快に走り続けていると、前方に太陽の光が当たる道が目に入った。


 ――村の道だ!


 そして、森を抜けると樹木の葉で作られた天井が消え、ブレッグは直射日光に晒される。


 瞳孔が大きくなっていたブレッグは強すぎる光を浴びて顔をしかめると、走るのをやめて歩き出す。


 眼が太陽光に慣れるとすぐに、周囲を見渡してフィオラの姿を探した。


「村には着いたけど……フィオラはいないか。どこまで行ったんだ」


 ブレッグが辿り着いたのは、村の端にある段々畑のあぜ道である。


 農作物が風に揺られたり、地面を這っている虫を小鳥がついばんでいたりと、とても長閑な光景が広がっている。


 死角となって見えていない場所――農作物の影などを注意深く見てみるが、フィオラどころか村人の姿すら見えない。


 ――誰かいればフィオラが向かった方向とか聞けたんだけど。


「しょうがないか。ここら辺にはいないみたいだし、それなら村長の家を目指さないと」


 この村に何かが起こっているのなら、フィオラは必ず村長のもとに辿り着くはずである。


 それなら先回りしておいて、フィオラという人物がこの村にいることを村長に説明しておこうという考えだ。


 小走りに村の中心へと向かいだしたブレッグの足取りは軽く、依然としてどこにいるかもわからないフィオラを探してキョロキョロと周囲を見る。


 軽快に走っていた時、突然の鈍痛に襲われてブレッグは足を止めた。


「ぐぅ、いった……!」


 その場に立っていることさえ辛くなり前傾姿勢をとると、全身から噴き出すように汗が流れ出した。


 額を流れる汗は止まらず、鼻先から滴り地面を濡らす。


 原因は一つしかない。


「薬……切れたのか」


 フィオラの前では強がっていたが、胸の傷は想像以上に深刻だった。


 痛みの程度からして、何本かの肋骨が損傷ことは明らかである。


 それなのに全力疾走で森を駆け抜けたのだ。


 薬の効力が失われた今、耐えがたい痛みに襲われているのは当然の結果と言える。


「はぁ……はぁ……」


 予備の薬を持ち合わせていないブレッグに出来ることは、ただ痛みに耐えることだけだった。


 せめてもの対処として、肺が大きく膨らまないよう肩を使って浅く呼吸する。


 とはいえ、呼吸を変えた程度で痛みが完全に取り除かれるなんてことはなく、数刻前と同じように苦悶の表情を浮かべていた。


「……行かないと」


 胸を手で押さえながら顔を上げたブレッグは恐る恐る一歩を踏み出す。


 鈍痛から激痛に変わっていた痛みに襲われるたび眉に皺を寄せるが、歯を強く食いしばって耐える。


 全身を流れる汗は止まらないが、せめて肋骨に振動が響かないよう一歩一歩ゆっくりと進み続けた。


 ――この村に何かが起こっていることは間違いないんだ。


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