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023_駆け出した少女と追いかける青年


 ガフナス村とは、山と山の間にある比較的小さな窪地に作られた集落である。


 村には30人ほどの人間が住んでおり、村長の家を中心として、すり鉢状に民家と畑で囲むように配置されていた。


 下り坂も緩くなり、多少は整備されて歩きやすくなった道をフィオラとブレッグは歩いている。


「見えたわ。あれがガフナス村ね」


 フィオラが樹木の間を指差すと、そこには茅葺屋根の民家があった。


 ブレッグが生活している小屋と比べたら立派ではあるが、街にある平均的な家よりは小さくて古びていた。


 洗濯紐に干してあるくすんだ色の服や置きっぱなしになっている農具からは、良くも悪くも生活感を強く感じさせる。


 そして、その民家は間もなく村に到着する目印でもあった。


「そういえば、手土産とか用意してなかったけど大丈夫かしら」


「気にしなくていいと思うけど」


 『俺も貰ってないし』なんて野暮な考えは急いで頭から消す。


 村の人たちは皆が協力的で優しい人たちばかりだ。


 それに、いざとなれば頭を下げてフィオラの力になるよう頼めばよい。


 村で発生した問題を何度か魔法で解決したことのあるブレッグの頼みなら、簡単には断れないはずである。


「でも、せっかく村を訪ねるんだから、何かあった方が……」


「あ、それなら、フィオラの魔法で村の仕事を手伝ってあげるとかは?」


 例えば、井戸の古くなった滑車を作り直すだけでも凄く感謝されるだろう。


 フィオラがブレッグのために作った椅子は見事なもので、それを応用するのは難しくないように思える。


「なるほど。いいわね、それ」


「じゃあ、村長と話すときに、それとなく提案してみるよ」


「ありがとう。頼りに――」


 その瞬間、何かを感じ取った様子のフィオラは立ち止まった。


 急に止まったものだから、追い越してしまったブレッグは振り返る。


「何かあった?」


 返事は返ってこないが、フィオラの様子から『違和感を感じ取った』ことは間違いなさそうだった。


 フィオラは身体を大きく動かさず、最小限の眼球の動作や嗅覚から周囲の状況を把握しようとしている。


 魔物を相手にしても全く警戒しないフィオラを知っているブレッグは自然と肩に力が入った。


「どうしたんだ?」


「……」


 返事はなく、常に優しく微笑んでいる彼女の態度とは思えない。


 フィオラが何を警戒しているのか知る由もないが、せめて説明くらいはして欲しいと思う。


 ブレッグがフィオラの肩に手を伸ばそうとしたとき、まるで何かに憑りつかれたかのようにフィオラは突然走り出す。


「え?」


 ブレッグは走るフィオラを目で追いかけるが、その加速は凄まじく瞬く間に視界から消えてしまった。


 ――本当に何があったんだ。


 数秒考えてみたが当然の如く答えは出ない。


 となれば、次に考えなければいけないのは、フィオラを追いかけるか否かだ。


 ――あの様子はガフナス村に向かったってことだよな。


 ここから先は一本道であり、無理やり草木を掻き分けて進んだりしない限りは村へ到着する。


 ――それなら、村のことを良く知っている自分がいた方がいい……よな? 緊急事態の時は村長の家を案内することだってできるし、村人と話をするときもより潤滑になる……はず。


「……早く追いかけないと」


 もとより選択肢は1つしかなかったが、合理的な理由で自分の行動の正当性を補強したブレッグは全速力で走り出す。


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