021_褪色者という存在
問い返されたブレッグだったが、フィオラの顔が見えず言葉の真意を読み取れずにいた。
「いや、その、無理にとは……」
「ふふ、両親と話がしたいのよ」
横顔を見せたフィオラは優しい微笑みを浮かべている。
しかし、どこか寂し気で悲しい気持ちを押し殺しているように思えた。
考えてみればそれは当然のことで――
「それって……つまり、フィオラの両親はもう……」
『異界』とは死んでしまった人間が行く場所のことを指すのかと思っていたブレッグは、余計な詮索をしてしまったことを反省する。
「ごめん」
「え? どうして謝るの?」
両眼を大きく開いて琥珀色の瞳を丸くしている。
「もしかしてだけど、何か勘違いをしていない? 両親は死んだりしていないわよ」
「でも、両親は異界にいるってことじゃ……ん?」
フィオラはこの世界にいるのに、両親だけ異界にいるということになる。
さらに、双方とも存命という話だ。
どうすればそんな状況になるのか理解できずブレッグは混乱した。
頭を悩ませているブレッグの様子を見たフィオラは小さく笑う。
「逆よ。死んだのは私の方」
「どういう意味? まさかアンデッド……のはずはないよな」
死者がアンデッドとして蘇ることはある。
過去に何度も戦ったことがあり、冒険者時代はアンデッドのおかげで飯にありつけていたとすら言える。
しかし、知性の欠片も感じさせない彼らとフィオラが同種なんてことは、天と地がひっくり返ってもありえないだろう。
「今はちゃんと生きてるわよ。前の世界で死んで、生まれ変わったらこの世界にいたってことね」
「……生まれ変わり?」
「あ、この世界では褪色者って言った方が伝わるかな」
褪色者という言葉に聞き覚えはない。
というより、別の世界から生まれ変わった人間が存在するということを初めて知った。
神から転生したと自称して信仰を集めている『自称生まれ変わり』なら見たことがあるが、ブレッグはそんな話を信じるようなメルヘンチックな考えの持ち主ではなかった。
しかし、フィオラが話すのであれば別だ。
彼女こそ前世では神や英雄に近い存在であり、だからこの世界では普通の人間とは比べられないほどの力を持っているのだと説明されれば納得できてしまう。
「生まれ変わるなんて、そんなこと可能なのか?」
「私も原理はわからないわ。でも、私はここにいるわけだし、他にも褪色者は存在するのよ」
「それって、フィオラみたいな力を持った人間が他にもいるってことだよな」
「えっと、能力は千差万別だけど、私が知っているだけでも20人以上はいるわね」
「……全然知らなかった」
別に全てを知っていると思っていたわけではない。
ただ、自分の知っている世界が狭すぎたのだと思い知らされただけだ。
「あ、それで、両親に話したいことって?」
「ふふ、他の人が聞いてもあまり面白くないわよ」
フィオラは遠くに聳え立つ名も知らぬ山を見つめる。
遠くでの世界で暮らしている両親のことを考えているか、その表情からはあどけなさを感じさせた。
「お父さんとお母さんに伝えたいの。『私、この世界で元気に生きているよ。安心していいよ』って」
フィオラほど偉大な魔法使いがなんのためにこんな山奥に来たのかと考えていたが、なんてことはなかった。
ただただ、悲しんでいる両親のことを想っての行動だった。
誰かからの依頼等であれば、どこかで身を引こうとブレッグは考えてた。
しかし、こうして彼女自身の願いを叶えるためだとわかり、彼女の力になれることをより一層強く願う。
「なんて言っているけど、実は両親がまだ生きているかわからないのよ。私が死んでからかなりの時間が経過しているんだもの」
フィオラは笑顔でそう語る。
成就する確率は限りなく低いと分かっている様子だった。
「せっかくブレッグには協力してもらっているのに、無駄だったらごめんなさいね」
ブレッグは胸の内に何か込み上げてくるものを感じる。
無駄であると頭では理解していながら、それでも諦めることができない願いをフィオラは追い求めているのだ。




