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020_歩幅の合わない二人


 ブレッグを先頭に2人は森の中を歩いている。


 緩やかな下り坂になっている獣道であり、少し手を伸ばせば樹木や雑草に触れられるほど自然に囲まれていた。


 しかし、鬱蒼で窮屈な森に感じられないのは、それぞれの生物が互いに適切な距離を開けて自生しているからだろう。


 恐らく、長い年月をかけて繁殖と淘汰を繰り返した結果、現在の状態で落ち着いたのだ。


 まるで、近づきすぎないよう互いに気を使っているブレッグと村人たちのようにも思えた。


 深く深呼吸しながら森の雰囲気を堪能する。


 ――落ち着く。


 雑草特有の青臭くも新鮮な匂いが鼻腔をくすぐった。


 ――いや、やっぱり気が重くなってきたかも。


 この後に大人の付き合いが待っていることを想像してしまう。


 村長も村人も優しい人たちばかりだから、困っているフィオラの力になりたいと言ってくれるはずだ。


 しかし、問題はその先にある。


 村に対して貸しを作るということは、近いうちに返さなければならない。


 例え村から面倒な頼み事をされたとしても、それに答える義務というものが生じる。


 普通の人間なら当たり前のことだが、人との関わりを極力減らしていたブレッグには重くのしかかっていた。


 ――やめよう。いまは目の前のことだけに集中していればいい。


 なにも面倒な頼み事がくると決まったわけではない。


 不確定な未来を憂鬱に思っていても無駄というものである。


 少しだけ沈んだ気持ちを紛らわせるため、背後を歩いていたフィオラに声を掛ける。


「あと少しで村に着くよ」


 返事が返ってこない。


 ――無視してるわけじゃないよな。


 山小屋での食事を通して少しは親しくなれたと思っていた。


 それが思い込みではないことを再確認してから、もう一度声を掛けてみる。


「何かあったのか?」


 そう言いながら振り向くと、少し離れたところにいるフィオラはいた。


 地面を注視しており、足場として安定している木の根っこや石を探しながら、ピョンピョンと一歩ずつ進んでいる。


 ――そっか。悪いことしたな。


 土だって乾燥している箇所は砂となり、下り坂では簡単に足を取られて転んでしまうだろう。


 さらに、地面に転がっている折れた木の枝や、視界を邪魔する背丈の高い植物といった障害物もある。


 いつもの調子でスタスタと歩くブレッグについて行くことが、フィオラにとっては難しいことであると気づかされる。


 距離が開かないよう一生懸命ついてきていたフィオラは、ブレッグの足が止まっていることに気付くと顔を上げた。


「あ、ごめんなさい。歩くの遅かったわよね」


 謝るつもりだったのに先に謝られてしまい、どんな反応をすればよいか思考する。


「いや。謝るのは気遣いができなった自分の方だよ。ここら辺は地形も複雑だし歩きにくかったね」


 フィオラに謝罪したブレッグは空を見上げると太陽の位置を確認する。


 日は傾き始めたばかりであり、日没にはそれなりの余裕がありそうだった。


「うん。もう少しゆっくり行こうか。まだ――」


 ブレッグが顔を下ろすと、その横をフィオラが通り過ぎて行った。


「え?」


 驚いきながらもフィオラを目で追っていくと、地面に半分埋まった石の上で彼女は立ち止まる。


「ありがとう。でもね、このくらい全然大丈夫よ」


 振り向いたフィオラは微笑みながらこう付け加える。


「それにね、ガフナス村で早く話を聞きたいの。私が前を歩くからついて来てもらえる?」


 そう言うと、兎が飛び跳ねるようにピョンピョンと下り坂を再び歩み始めた。 


 フィオラの下り坂を下りる速度は意外と早く、徐々に慣れてきているようだ。


 逆に置いて行かれそうになったブレッグは急いでフィオラについて行く。


 そして、フィオラの背中に追いついたとき、思い浮かんだ疑問を投げかけてみる。


「ところでさ、フィオラは異界の魔法使いを探して何をしたいんだ?」


 軽快に飛び跳ねていた足がピタリと止まる。


 突然停止したフィオラに合わせてブレッグも急いで足を止める。


 そして、なかなか答えが返ってこないことにブレッグは焦りだす。


 ――やってしまった……。聞かれたくない質問だったってことだよな。


 まだその段階には至っていないのだと自分なりに理解する。


「知りたい?」


 人の顔が見えないことがこれほどまでに恐ろしいは知らなかった。


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