019_道案内を申し出る青年
ブレッグと村人たちの関りは薄いが、決して劣悪というわけではない。
そっとしておいてほしいというブレッグの意思を村人たちが尊重し、互いに程よい距離感で付き合っていた。
実際、村人たちが魔法の力を借りたい場合は、年老いた村長がわざわざこの山を登りブレッグに依頼しに来ていた。
そして、ブレッグもできる範囲でその願いに応えており、対価として調味料など入手しにくい物をを頂いていた。
「噂の魔法使いに関して俺が知っていることは何もないし、ひとまずガフナス村に行ってみるのは?」
「すごく良いと思う。今は情報が足りていないから、もっと聞き込みをしたいわ」
フィオラは薄緑色の鮮やかな髪を揺らしながら頷き、次の行動指針に従う意思を見せる。
しかし、ブレッグの視線はテーブルの何もないところを見つめ続けており、傍から見ても考え事をしているのは明らかだった。
「何か気になることがあるの?」
「……少しだけ。もし新しい魔法使いが来たなら、挨拶に来てもいい気がして」
村人たちにとっての魔法使いとはなんでもこなしてくれる便利屋のような存在であり、欠かすことのできない重要人物である。
そして、異界と交信できるほどの魔法使いが来たなら、ブレッグのもとに少しくらい情報が届いてもおかしくはなかった。
ブレッグがそう思い込んでいるだけという可能性もあるが――
「もしかしたら、何か事情があるのかもしれないわね。例えば、村人たちに匿ってもらっているとか」
フィオラの憶測にブレッグは納得する。
それなら、噂という形で情報が流布されたことと、村人が魔法使いの情報を秘匿していることに合点がいく。
ブレッグが眉に皺を寄せて考えていると、パチンと手を叩く軽い音が耳に入る。
顔を上げると、両手を合わせて頬に触れながら微笑んでいるフィオラ。
「ま、行ってみればわかるわよ」
気の抜けるような明るさに、ブレッグは自分の表情が和らいでいくことを感じる。
憶測に憶測を重ねるよりも、村へ行き実際に合って話を聞いてみたらよいのだ。
そして、フィオラが村へ行くということは、ブレッグにも新しい役割が生まれるわけで――
「あ、そうだ。道案内は必要だったりする?」
わざとらしさが現れないよう、『ふと疑問に思ったんだけど』という雰囲気を出しながら話しかける。
「えっと。ここからけっこう歩くのかしら? それなら案内があると助かるわね」
「了解。じゃあ、食事が終わったら村に行ってみよう」
待ってましたと言わんばかりに返答する。
しかし、これはブレッグにとって非常に思い切った発言だった。
女性に対して行動を共にしようなんて提案をしたのは初めてのことで、顔には出さないが心臓は張り裂けそうなほど強く鼓動していた。
失敗があるとすれば、拒絶されることを恐れて回りくどい言葉を選んでしまったことだ。
「……それってつまり、ついて来てくれるってこと?」
「あーいや、無理にとは言わないし、俺も村に行く用事があるから、ついでだし道案内しようかなと」
一言、『君の力になりたいから』と言えないところがブレッグの人間性を表していた。
そして、本当は用事なんてものは何もないが、恩着せがましい人間だと思われたくなくて適当なことを口にする。
「……どうでしょう?」
「ふふ。ありがとう。親切なのね」
フィオラは全てを包み込むような優しい笑顔でにっこりと笑う。
心臓が跳ね上がるような感覚を覚える。
絶世の美女と言っても過言ではないフィオラの笑顔には見る者を魅了する力があると改めて実感したのだった。




