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013_すかさず訪れる窮地


「まずいことになった」


 ブレッグは今、自分の住居――もとい、ぼろぼろの山小屋に戻ってきている。


 小屋はブレッグがこの地へ引っ越してきたときに購入したもので、最初は雨漏りはするは隙間風は吹くはで人が住める状態ではなかった。


 それを、時間をかけて少しずつ修繕していき、今ではやや狭いが快適に過ごせるようになっていた。


 小屋に使われている木材なんかは古いままだが、むしろそれがいい味を出しているとブレッグは思う。


 そんな狭くて古い小屋に似つかわしくない存在が今はいる。


 木製の椅子にちょこんと座っているフィオラだ。


「どうすればいいんだ……」


 ブレッグは新鮮な肉を目の前にして項垂れる。


 それは先ほどの魔物の肉であり、フィオラが再び召喚した巨大な腕によって小屋まで運んできたのだった。


 解体はフィオラの手伝いもあり、普段から狩猟していたブレッグにとっては何も問題がなかった。


 そう、問題があったのはその先だ。


「この肉、硬そうだし、臭みも強そうだよな」


 山に生息している動物を捌いて調理したことは何度もあるが、魔物は別である。


 魔物は駆除する対象であって、食料として認識したことは1度もない。


 それなのに、フィオラを引き留めたいという欲望に駆られ、つい出まかせを言ってしまった。


 いや、完全な嘘を口にしたというわけではない。


 魔物の肉を人が食べても問題ないという知識はあったが、その肉が旨いという話をブレッグは聞いたことがなかった。


 ――こんなものを食べさせるくらいなら、食べられないと嘘をついておけばよかった。


 中途半端に期待させてから落とすよりはいいだろう。


 ――正直に言って楽になろう。小屋にはまだ保存食が残っているから、それを使えば料理の1品や2品くらいは作れるはずだ。


 振り向いてリビングに視線を向けると、これから出てくる料理が楽しみなのかフィオラは少しそわそわしている様子で小屋を隅々まで観察している。


 大して面白いものはないが、フィオラにとっては山小屋での食事が珍しい経験なのかもしれない。


 ブレッグの視線に気が付き目が合うと、彼女は微笑み小さく手を振ってくれる。


 ブレッグも同じように小さく手を振って返すが、その表情はやや硬くなっていた。


 すかさず、何かあることを察知したフィオラは気に掛ける。


「どうかしたの?」


「その……ちょっと調理に時間がかかりそう……で」


「そういうことね。私は大丈夫、全然待ってられるわ。魔物の肉なんか食べたことないからすごく楽しみなの」


 ――そんな表情で見つめないでほしい。


 目を細めてブレッグを見つめるフィオラは、初めて食べる料理を楽しみにしているようだった。


 もしかしたら、魔物の肉が食用に向いていないことなんてフィオラは知っていたのかもしれない。


 しかし、ブレッグが『食べられる』と答えてしまったせいで、魔物の肉を美味しく食べられる特別な調理方法があるのだと思っている可能性すらある。


 ――こんなに期待されたら最終手段のすり替えは使えないか。


 こっそり用意していた兎の肉を引き出しの奥に仕舞う。


「やるしかないよな」


 覚悟を決めたブレッグは再び魔物の肉と向き合った。


 さっきの魔物との戦闘で分かったことが1つある。


 それは、窮地に追い込まれるほどブレッグは実力が発揮できるということだ。


 そして、今がその窮地であることに違いなかった。


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