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011_別れの言葉は言いづらい


「そう、ブレッグっていうのね。今日は魔物を倒すのを手伝ってくれてありがとう」


 フィオラは魔物を1人で倒しており、ブレッグは手伝った覚えなどない。


 しかし、フィオラが言いたいことはそういうのではなく、きっと今日の出会いに感謝したいのだとブレッグは感じ取った。


 となれば、次に発するべきブレッグの言葉も自然と決まってくる。


「こちらこそ、魔物に殺されそうなところを助けてくれてありがとう。……いや、本当に、助けてくれなかったら確実に死んでいたよ」


「そうね。でも、何か得られたこともあったんじゃない?」


 ――流石、何でもお見通しだ。


 死の淵に立たされたことで、ブレッグは危険に直面したとき実力を発揮できるタイプの人間だと自覚した。


 逆に言えば、死にそうになるまで追い込まれないと実力を発揮できない、柔弱な人間であるということだ。


 街で魔物狩りをしていたときも危険と隣り合わせではあった。


 しかし、狩る相手を選んで入念な準備をしており、今回のように死にかけたことなんて一度もない。


 もし、その頃に今と同じような経験をできたなら、何かが変わっていたかもしれない。


「自分の本質が少しだけ理解できた気がする」


「それはよかったわね。よく、身の丈に合ったことをしろって言うけど、そもそも自分の身の丈を把握できている人は少ないわ」


 その言葉にブレッグは頷いて同意する。


「自分の強みと弱みを客観的に理解できていれば、次に危険な場面に遭遇してもなんとかなるはずよ」


 そんな場面には二度と遭遇したくないものだとブレッグの本心は呟くが、フィオラの話には一理あった。


 見た目は幼さを残した可愛らしい少女だが、魔力と同様に知力も常人を凌駕しているように思えた。


「わかった。覚えておくよ」


「うん」


 ほんの少しだけ2人の会話に間が開いた後、フィオラは切り出す。


「じゃあ、そろそろ行こうかしら。しばらくは近くの街か村に留まる予定だから、もしも同じような魔物が出現したらいつでも呼んでね」


 ついにその時が訪れてしまったことに、ブレッグは長年感じることのなかった感情が湧いていた。


 誰かと時間を共有することで心が満たされつつあったのだ。


 それに、『いつでも呼んで』と笑顔で言ってくれているが、そんな日はきっと来ない。これが最後の別れに違いなかった。


 当然、そんな胸中を察せられないようにブレッグは表情を変えず答える。


「助かるよ。でも、こんなことは滅多にないからたぶん大丈夫」


「そうなの? こうして実際に出現してるわけだけど……」


 フィオラは細くて整った眉を顰める。


「推測だけど、この魔物はどこか別の山から迷い込んできたんだと思う」


 フィオラは知識に長けているかもしれないが、この山に関してはブレッグの方が詳しい。


「この山に住んでいる魔物はもっと小型だから心配しないで平気。今までもなんとかなってたわけだし」


「まあ、山の住人がそういうなら大丈夫ね」


 山の住人という呼ばれ方にブレッグは釈然としない気持ちとなったが、自分の言葉を信じてもらえた喜びが勝った。


「よしっ。心配事もなくなったことだし、今度こそ行くわ。――またね、ブレッグ」


「……また、どこかで」


 こくりとフィオラは頷くと、ブレッグに背を向けて歩き出す。


 一歩、また一歩と遠ざかっていくフィオラの背中を見つめていると、彼女は歩きながら振り返った。


「胸の傷、早く治るといいわね」


「ありがとう!」


 離れて行くフィオラにしっかり届くよう、大き目の声で返事する。


 フィオラが手を振ると、ブレッグも手を振ってそれに答える。


 やがて、フィオラの姿は森の木々に遮られて見えなくなった。


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