099_笑う女性
雷の落下地点――それは男自身だ。
電撃が通過した跡に沿って肌は焼け焦げている。
呼吸は止まっており、男が動き出す気配はない。
しばらくして、森に静寂が戻ろうかという時、男の心臓が弱弱しく動き出した。
「はっ……ごほっ……ごほっ……」
手で胸を強く抑えながら咳を繰り返す。
目をぎゅっと瞑り、苦悶の表情を浮かべながら胸の痛みに耐える。
「うぅ……」
男が苦しみ藻掻いていると、焦げていた肌はゆっくりと剥がれ落ち、下から傷跡が一つも残っていない綺麗な肌が露わになった。
次第に痛みは収まりだし、うつ伏せになりながら顔を上げる。
「い……き……てる」
四つん這いになり、何とか立ち上がろうと震える四肢に力を込める。
ふと気付くと、切断された左腕が治っていた。
当然、『理』は使えないが、この状況ではないよりましだ。
周囲をざっと見渡して掴めるものを探すが、木々は全て倒れていた。
仕方なしに倒木に手をかけ、呼吸を整えてから立ち上がろうとする。
「危なかった……本当に、死を覚悟した。まさか、ここまで追い詰められるとは」
いまだに震えている膝を手で押さえ、改めて辺りを見渡す。
探しているのは二人の人間である。
「無意味な殺生は好まないが……しかし、あいつらだけはこの場で殺さねばならん」
男の直感が告げていた。
目的を達成するためには、彼らが障害となることを。
朧げな記憶を頼りに、逃げて行った方向へと視線をやると、一人の人間が倒れていることに気付く。
「く……ははは……ブレッグとダールといったか。さて、どちらかな」
少し近づくと炎のように明るい赤髪が目に入る。
口角を上げてにやりと笑うと、右手が帯電し始めた。
「まずは貴様からだ」
男は歩き出す。
一歩、また一歩と歩みを進めるたびに、帯電した電気は強さを増していった。
倒れているダールの真横で男は膝を落とす。
「さらばだ。高潔な騎士よ」
首元目掛けて右手を伸ばす。
命を奪おうとするその手が首に触れようとしたとき――
ダールの身体は霧のように散っていった。
態勢を崩した男は地面に手を付き、きょろきょろと何度も地面を見返す。
「消え……た? さっきまで……ここに……」
ありもしない幻影を追い求め、地面に生えた雑草を手でなぞる。
月明かりが照らしてはいるが、夜の森は暗くて視界が悪い。
しかし、手が届くほどの至近距離で見間違えるということは有り得ない。
膝を着いたまま男は考える。
これが見間違え出なければ、誰かの仕業に違いない、と。
「そういえば……ブレッグとかいうやつが確か……」
答えを導きだそうというとき、背後に人の気配を感じ取る。
「誰かをお探し?」
瞬間的に振り向いた男の行動は早かった。
前かがみになりながら声を掛けてきた女性の首を右手で掴み、躊躇なく締め上げる。
「また新手か。いったい何人出てくるんだ?」
冷静に、落ち着いた態度を保ちながら男は立ち上がった。
ギリギリと首を絞める音が強まる。
「不意打ちしてこなかったことは気になるが……この場にいるということは、奴らの関係者なんだろ。 違うか?」
気道を塞いでいるため、答えが返ってこないことはわかっている。
絞め殺す時間すら惜しいと思った男が腕を帯電させ始めたとき、あることに気付いた。
女性が笑っているのだ。




