009_懐かしの味
ここまでの出来事を思い返してみて余計惨めな気持ちになってしまう。
自分とは比較できないほど強大な力を持った少女へ逃げるよう指示し、魔物に殺されかけたとき戻ってきた少女に窮地を救ってもらった。
間違った判断を下したつもりはないが、結果だけを見ると何とも情けない話である。
――恥ずかしすぎて胸が痛くなってくる。
羞恥心から胸が締め付けられる思いだ。
ふと、ここである違和感にブレッグは気付く。
――あれ、本当に痛い?
「ぐぅっ!」
「大丈夫!?」
胸を押さえてうずくまるブレッグに少女は駆け寄る。
魔物に突進された部位が燃えるように熱く、骨の奥から滲み出てくる激痛に顔をしかめる。
きっと極限状態で痛覚が麻痺しており、このタイミングで痛みがやってきたのだろう。
ブレッグが倒れそうになると少女が肩を支えてくれた。
「大丈夫よ、ゆっくり座って」
風に乗って少女の花のように甘い薫りがブレッグの鼻に届き、胸の痛みが少し和らぐ。
傷が癒されたわけではない。
少女とはいえ女性特有の薫りによって再び緊張し、痛覚が麻痺してきたのだ。
異性とこれだけ近くまで接近し、ましてや肩まで組んでくれたことなど、彼の歴史の中では1度もなかった。
今まで経験してきた異性との交流と言えば、挨拶や仕事の話くらいだ。
何回かは挨拶の後に雑談できたこともあったが、すぐに話題がなくなり気まずい雰囲気を作ってしまった。
そんなブレッグからしたら今の状況は心の許容範囲を軽く超えており、痛みなんてどこかへ行ってしまっても何ら不思議はない。
少女に支えられながらブレッグは樹木にもたれかかるようにして座る。
「ちょっと待ってね」
少女はローブについているポケットのボタンを外して中身を漁りだした。
ジャラジャラという音を発しながら、色んなものが入っているポケットから何かを探しているようである。
そんな彼女をぼーっと見つめていたいたブレッグだったが、少女の身に纏っているローブがなんとなく目に留まる。
薄い紫色を基調とした落ち着いた雰囲気のローブだ。
明るくて優しい少女の性格を映し出しているようであり、とてもよく似合っている。
さらに、至る所に花のデザインが施されており、細部まで非常に細かく織り込まれていた。
最初は気付かなかったが、より近くで観察したことで品質の高さが窺えた。
やがて、少女が青い液体の入った小瓶を取り出すと、そっとブレッグに手渡す。
「飲める?」
毒々しいほど真っ青なこの液体をブレッグは嫌というほどよく知っている。
自然治癒力を高める効果と痛み止めの効果が合わさった飲み薬だ。
傷を癒す効果はそこそこといった程度だが、痛みを止める効果は即効性があり非常に強力である。
その特性から魔物との戦闘で活躍することが多く、魔物狩りを生業とする者であれば知らない人間はいない。
決して安価なものではなく、ブレッグが冒険者として活動していた時は依頼の報酬として支払われることもあったほどの代物である。
――この液体に何度お世話になったことか。
ブレッグは小瓶の蓋を開けて勢いよく飲み干すと、昔懐かしい苦さに眉をしかめる。
「ごほっ、ごほっ」
強烈な苦みと鼻を衝く青臭さに耐えきることが出来なかったブレッグは、腕で口元を押さえながらむせる。
このとき、咳をしたのに胸から痛みが襲ってこないに気付く。
さっきは息を吸っただけで叫びそうになったというのにだ。
「どう? よくなった?」
空になった小瓶をブレッグから取り上げた少女は優しく微笑む。




