表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/59




 戻りの定期船に乗れたのは、それから三日後のことだった。


 船がいつ島に来るのか分からないので、桟橋付近で待っている間、何度もドラゴンの襲撃があった。その度にシアが倒してくれたので、気づけば手元にあるドラゴンの心臓は三つ――牙や爪はもっと増えた。


 通常、ドラゴン関連の買取はギルドで行われる。多くのドラゴンハンターが仕事を求めて集まるギルドは、たいてい大きな町や都にしか存在しないのだが、幸い、港町に小さな出張所があって、アネーシャたちは真っ先にそこへ向かった。


「お前さん、ドラゴンハンターじゃないっていうのは本当かい?」


 対応してくれた受付の男性が、持ち込んだ品を見て、驚いた声をあげる。

 気味悪そうな視線を受け流しながら、シアは面倒臭そうに答えた。


「ドラゴンを倒せるのは、何もハンターだけとは限らないだろ」

「にしたって、すごい数だ。しかも希少価値の高い心臓まで……」


 これでハンターじゃないなんて信じられないと、ぶつぶつ呟いている。


「買い取るのか買い取らないのか、どっちなんだ?」

「も、もちろん買い取らせてもらうよ」

「正規の値段で?」

「それはハンターが相手の場合さ。一般人向けの買取は、諸々の手数料が発生するから、価格は多少低めになる」


『いっそのこと、ハンターになっちゃえば?』


 コヤの無責任な言葉を伝えると、シアは考え込むような顔をした。


「一般人でもハンター登録できるのか?」

「お前さんほどの腕前なら、きっと簡単だろうよ」


 ドラゴンハンターになるには、まず適性検査を通過した上で、他のベテランハンターのもとで数年間、修行しなければならない。そこで一人前だと認められた者が、推薦状を持ってギルドマスターと面会し、ハンターとして登録されるという。


 それを聞いて、シアは顔をしかめた。


「時間がかかりすぎる」

「とりあえず査定してもらうのはどうかな?」


 急かすのも悪いと思ったが、そろそろ体力の限界で、アネーシャとしては早く宿屋に行って休みたかった。査定額は全部でおよそ金貨四〇枚、そこから手数料や税金やら、諸々引かれると、金貨三十六枚と銀貨五〇枚になるという。これで一気にお金持ちになった。


「それでお願いします」


 若干不満顔のシアに全額預けて、宿屋を探す。


「ごめん、シア。でも日が暮れてきたし」

『お腹もすいたしね~』


 部屋に案内されて、アネーシャはベッドに飛び乗った。

 しばらくゴロゴロしたあとで食堂へ向かう。


 そこそこいい宿屋だったので、食堂は人で溢れていた。

 先にシアが席を確保してくれていたおかげで、順番待ちせずに座れた。

 

「席をとってくれてありがとう。お夕飯何だって?」

「メインは魚料理、パンとスープ、あと野菜のサラダ」


 何の魚かは分からなかったが、身は柔らかで臭みがなく、美味しかった。

 パンはふわふわ、スープはやや辛めの味付けで、食欲が増す。


「それで次の目的地は?」


 シアに訊かれて、アネーシャは膝の上のちょこんと座ったコヤを見下ろす。


「コヤ様、聞こえた? 次の目的地は?」

『ヴァレ山』

「……ヴァレ山って、邪神ドルクが根城にしていた場所だよね」

『そしてあたしたちの愛の巣だった場所』


 色っぽく答えられても、「あ、そうなんだ、ふーん」としか言いようがない。さらに言えば、巡礼の旅というより「月の女神の思い出の地を巡る旅」みたくなっている気がしてならない。


『露骨に興味ないでしょ』


「ヴァレ山は上位種のドラゴンが巣くう、危険な山だ」


 早々に食事を終えたシアが口を挟んだ。


「討伐依頼がない限り、上位ランクのハンターでも近づかない。それでも行くのか?」


 それを聞いて、自分のことより護衛であるシアの身が心配になった。


「今回はやめとく?」

『馬鹿ね、坊やなら大丈夫よ。上位種相手でも十分戦えるって』

「コヤ様って、何げにシアの扱いがひどいよね」


 猛然と抗議するアネーシャを、コヤは軽くあしらう。


『危なくなったら、あたしにお願いすればいいのよ。ドラゴンを倒してくださいって』


 呆れてシアに伝えると、


「いっそのこと、女神の力で地上に居るドラゴンを殲滅させることはできないのか?」


 彼は不思議そうに訊いた。


『できなくもない。けど……」

「けど?」

『神力を使い果たして消滅しちゃうかも』

「コヤ様が?」

『もちろん、アネーシャも道連れ』


 思わず考え込んでしまったアネーシャに、コヤは続ける。


『それにあたしの力は月を供給源にしているから、月も一緒に消えちゃうわね』

 

 それはさすがにまずいと、アネーシャは慌てた。


『で、ヴァレ山、行くの? 行かないの?』


 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ