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追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中  作者: 四馬㋟
美食の街ルエドで愛の告白に舌鼓

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 ダガーを置いて一人駆け出したアネーシャは、引き裂かれそうな胸の痛みを感じていた。これが失恋の痛み――こんな惨めな思いをするくらいなら、もう二度と恋などするものかと決意しかけた矢先、


「ぶっ」


 人にぶつかってしまった。

 その上、勢い余って相手を弾き飛ばしてしまった。


「……ってて、ってアネーシャ?」

「ジェミナっ」


 おそらく仕事帰り――ギルドへ戻る途中なのだろう。

 全身血まみれで尻餅をついているジェミナに、アネーシャは駆け寄る。


「なんで血まみれ? 怪我したの?」

「うんや、痛いとこないから返り血みたい」

「ってかそれって剣? ジェミナ、剣を買ったの?」


 間違いなく中古品で、ところどころ錆びついている。

 かなりの年代物だ。


「ああ、この剣? 気づいたら持ってたんだよね。誰かがくれたのかな?」


 ツッコミどころ満載の返答だが、今のアネーシャはそれどころではなく、


「うわーん、ジェミナっ、振られちゃったよっ」

「ど、どうしたの、アネーシャ」


 慰めを求めて抱きつくと、ジェミナは顔を赤くしておろおろしていた。


「あの男……やっぱり女がいやがった」

「あの男って、シアじゃないよね? だったらウルスさん?」


 察しのいい彼女に、こくこくとうなずく。


「それ、僕も初耳なんだけど」

「さっき、綺麗な女の人と仲良く話してた」

「どんな人?」

「栗毛で足の長い女の人。巨乳で色気があって……」

「ああ、アビゲイルさん? あの人、見た目は若いけどウルスさんより年上だよ」


 若さでは負けていないと知り、アネーシャは涙を拭う。

 

「彼女もドラゴンハンターなの?」

「うん、Aランクハンター。強いよ」

「う、ウルスさんとはどういうご関係?」

「ご関係って……昔馴染みの友人だって聞いてるけど」

「恋人ではない?」

「それは僕にもわからないよ。本人に訊いたら?」


 それができたら苦労はしない。

 二人の親密そうな態度を思い出して、アネーシャは落ち込んでしまう。


 

「ああ、良かった。やっと追いついた」



 聞き慣れた声がして、はっと顔を向ける。 


 はあはあと息を切らせて追いかけてきたのはダガーだった。しかし彼は一緒にいるジェミナに気づくと、なぜか怯えた顔をして後じさりする。


「ダガー、ジェミナのこと思い出したの?」


 かぶりを振る彼に、首を傾げる。


「大丈夫だよ、怖くないから」

「僕が恐ろしいと思っているのはその娘じゃない」


 言いながらダガーは震える手であるものを指差す。


「その娘が持っている剣だ」


 剣? とアネーシャが視線を向けた時には既にジェミナは立ち上がっていて、、


「まだ時間がかかると思っていたけど、もう定着したのね」

 

 金髪に金の目、ジェミナの身体に憑依したサウラが高々と剣を掲げていた。

 そして彼女の視線の先にはダガーがいた。


「器との相性がよほど良いのか。嬉しい誤算だわ」

「……君は何を言っているんだ?」


「記憶のほうは――なるほど、何も覚えていないようね。けれどこの剣を見て怯えているということは……」


「誰だって剣を突きつけられれば怯えるに決まっている」

「そう? こんな古びたボロボロの剣が、そんなに恐ろしい?」


 言いながらサウラは、すっと鞘からそれを抜いた。


「見て、ひどい刃こぼれ。これではネズミ一匹殺せやしないわ」


 しかしダガーは「ひっ」と息を呑むと、身を守るような仕草をする。


「そうねぇ、この剣で殺せるものと言えば……せいぜい神くらいかしらねぇ」


 ニヤたァと女神らしからぬ凶暴な笑みを浮かべると、そのままダガーに斬りかかった。


 シアが――ダガーが殺されてしまう。

 恐怖のあまり硬直してしまったアネーシャだったが、


「……うそ」


 ダガーはサウラと同等か、それ以上の速さで彼女の攻撃を回避していた。

 もしやサウラがまた、遊び半分で手を抜いているのかとも思ったが、


「――クソがっ。元は人間の分際でっ」

  

 どうやらそうでもないらしい。


「腸を引き裂いて、ぐちゃぐちゃにしてやる。私の可愛い妹に手を出した報いよ」


 目をギラギラさせて、逃げ回るダガーに剣を向ける。

 これほど余裕のない彼女を見るのは初めてだ。


「やめてくださいっ、サウラ様っ」


 たまりかねてアネーシャが二人の間に割って入ると、露骨に舌打ちされてしまう。


「そこをどきなさい、アネーシャ」

「嫌ですっ。ダガーが……シアがあなたに何をしたというんですかっ」

「私の話を聞いていなかったの? そこにいるのはあなたの仲間などではない」


 アネーシャの後ろに隠れて震えているダガーを指差し、サウラは嘲笑する。


「その坊やの中にいるのは化物――邪神ドルクよ」



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