表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中  作者: 四馬㋟
美食の街ルエドで愛の告白に舌鼓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/59

55


 

「アネーシャ、見て。綺麗な花が咲いているよ」

「うわぁホントだーきれー」

「セリフが棒読み。露骨に興味ないね」

「私、花より団子派なので」

「そんなドヤ顔で言わなくても」


 朝食後、アネーシャはダガーを連れて外へ出た。部屋でじっとしているよりも、動き回ったほうが記憶が戻りやすいだろうと思ったからだ。


「ダガーはどこか行きたいところある?」

「特には……」

「だったらギルドに行ってみようか?」

「ああ、そういえばドラゴンハンターだったね、僕は」

「他人事みたいに言うねぇ」

「実際、他人事みたいに感じるんだ」

「ウルスさんに会ったら何か思い出すかも」

「……うるす?」

「ドラゴンスレイヤーのウルス・ラグナさん。シアの……ダガーの大好きな人だよ」


 彼もジェミナと同じく、しばらく宿にも戻っていないので、果たしてギルドにいるかどうかは分からないが、とりあえず行ってみることにする。ギルドは町外れにあるので、結構な距離だ。それでもお昼頃には着くだろうし、運がよければ一緒に……、


「アネーシャにとってはどういう人なの?」


 考え事をしていたせいか、「へ?」と聞き返してしまう。


「君もその彼のことが大好きなのかい?」

「そ、そんな、ま、ましゃか……」


 動揺するあまり噛んでしまった。


 そんなアネーシャを見、ダガーはガッカリしたように肩を落とす。


「そうか、好きなんだね」

「か、勝手に決めつけないで」

「なら嫌い?」

「そんなわけ……」

「素直じゃないね」


 哀れむような視線を向けられて、「うー」と言葉に詰まってしまう。


「それとも素直になれない理由でもあるのかな?」


 鋭い。


「例えば彼は妻子持ちとか?」

「独身です」

「特定の相手がいる可能性は?」

「……無きにしも非ず」


 なるほど、とダガーはうなずく。


「さぞかしモテる男なんだろうね」

「……そう」

「そして君は自分に自信がない」


 その言葉に、アネーシャは愕然としてしまう。

  



 ――聖女でなくなったら、もう二度と、コヤ様の声を聞くことはできない。

 ――そしてコヤ様は新しい聖女のところへ行っちゃう。

 ――私は絶対に結婚しない。



 

 コヤと離れたくないから、コヤとずっと一緒にいたいから。


 だからこれまで、ウルスへの淡い恋心を認められずにいた。

 懸命に気づかないふりをしてきた。

 

 けれど今ダガーに指摘されたことで、気づいてしまったことがある。


 

 ――聖女でなくなったら、私は無価値な孤児に戻ってしまう。



 美しくもなければ教養もない。

 実の母親ですら見放した自分を、ウルスは愛してくれるだろうか?  


 愛し続けてくれるだろうか?


 ダガーの言う通りだ。

 アネーシャは自分に自信がなかった。


 ――けれど聖女であり続ければ、コヤ様がそばにいてくれる。


 たとえ老いて醜くなってしまっても、コヤは愛してくれるだろう。

 信者たちは自分を必要としてくれるだろう。


 アネーシャは愛されたかった。


 俯いて唇を噛み締めるアネーシャを見、ダガーは慌てた。


「アネーシャ、ごめん。気に障ったのなら謝る」

「……記憶喪失のくせに……よくも他人の急所を……」

「本当にごめん。傷つけるつもりはなかったんだ」


 道中、立ち寄った土産物店でたらふくお菓子を奢ってもらい、アネーシャはようやく機嫌を直した。それでも、ダガーに言われた言葉がずっと胸に突き刺さっていて、自然と足取りが重くなってしまう。


「アネーシャ、あれがギルドかい?」

「正確には出張所ね」


 ただし、この町にはドラゴンの肉を扱う高級料理店が数多くあるので、討伐依頼も多いらしく、出張所とはいえそこそこ大きな造りになっている。ハンターが寝泊りできる部屋もあるらしい。


 出入口付近へ行くと、中からぞろぞろとハンターらしき男たちが出てきた。




「まさか神殺しの剣の捜索依頼までくるとはな」

「ドラゴン関係ねぇじゃん」

「盗んだ犯人が凶暴な奴なんだろ、きっと」

「……または組織的犯行か」

「町長直々の依頼じゃ、断れねぇしな」

「おまえ、受けるか?」

「報酬は魅力的だよなぁ」

「俺はやらねぇぞ。どうせ骨折り損のくたびれ儲けだ」




 開けっ放しの扉から、アネーシャは首を伸ばして中をのぞきこむ。

 幸いなことに、彼はいた。

 

 ウルスは長身なのですぐに見つけられたものの、


「……誰、あの女」

「どうしたんだい、アネーシャ。怖い顔して」

「女と話してる」

「誰? ウルスさんが?」

「……そう」


 アネーシャの後ろからダガーも中を覗き込む。


「うわぁ、すごい美人だ」


 グサッ。


「それにずいぶんと親しげだね」


 グサッ。


「もしかして恋人かな」


 その言葉が決定打となった。

 色々な意味で打ちのめされたアネーシャはよろよろと後退する。


「か、帰る」

「大丈夫だよ、アネーシャ。僕は君のほうが好みだからね」

「う、嬉しくない」


 追い打ちをかけられて、アネーシャはその場から逃げるように駆け出した。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ