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イケメンたちの正体はBランクのドラゴンハンターで「ドラゴンの翼」というパーティ名で活動しているらしい。何度か町で耳にしたことがあるので、そこそこ知名度は高いようだ。女性に人気の三人組らしく、とある有閑マダムが資金提供しているだけあって、三人の装備は上位ハンターに引けを取らないほど、高価なものだった。
「この辺りは危険なので、近くの村まで送ります」
リーダー格のハンターに爽やかな笑顔を向けられて、アネーシャは頬を染めつつうなずいた。
「助けていただいた御恩は一生忘れませんわ」
『アネーシャったら……キャラ変わりすぎよ』
「そんなことないわ。わたくしはいつもこんな感じですわよ」
『ボロが出る前にやめときなさいって』
落下地点は深い森の中で、正確なところはわからないが、ルギスからかなり離れた場所にいるのは確かだった。けれど森を抜けた先に小さな村があると教えられ、ほっと胸をなで下ろす。荷物袋は失ってしまったものの、貴重品は肌身離さず身につけているので、とりあえず何とかなるだろう。
「ちなみに皆さんはどちらへ?」
「ルギスへ行く予定です」
「そこにドラゴンスレイヤーがいるって聞いてな」
「英雄の戦いぶりを実際にこの目で見たくて……」
なるほど、これは好都合だ。
「でしたら、わたくしもご一緒させていただた……っつ噛んじゃった」
『ほらボロが出た』
気を取り直して、イケメン三人に囲まれながら村へ向かう。
これぞ逆ハーレムだとコヤもテンション高めで、和気あいあいとした雰囲気が漂っていたのだが、
「あそこに見えるのが村みたいですね」
村に入った途端、イケメンたちの関心が自分から離れていくのをアネーシャは感じた。
なぜなら、
「あら、旅のお方」
「こんな田舎の村に何の御用?」
「村長の家まで案内しましょうか」
出迎えてくれた村人たちが皆、美女ぞろいだったからだ。
鼻の下を伸ばして美女たちのあとに付いていく三人を見、アネーシャはため息をつく。
「……短い春だったな」
『アネーシャを悲しませてっ、この泥棒猫どもがっ』
何だかんだで皆の後ろをついて歩きながら、気づいたことがある。
村の通りに、男の姿がないのだ。単に家の中にいるだけかもしれないが、普通、よそ者を出迎えるような場面では、女ではなく男が出てくるものではないだろうか。
そのことにイケメンハンターも気づいたようで、女性に質問していた。
「村の男たちは今どこに?」
「農作業に出ているだけです。夕方には戻ってきますわ」
大きな館の前で足を止めると、村人の一人が呼び鈴を鳴らした。
「村長、お客様をお連れしました」
するとすぐさま扉が開いて、村長と思しき人物が出てくる。
てっきりカークのような老人が現れるかと思いきや、
「コヤ様、あれは男なの? それとも女?」
『しっ、アネーシャ。本人に聞こえてるわよ』
小声で「あれ」呼ばわりされた村長は寛容な笑みを浮かべると、
「ようこそいらっしゃいました。旅のお方」
野太い声を発しながら、女性らしいお辞儀をする。
濃い顔立ちとがっしりした体型は男性のものだが、着ている服は明らかに女性もののワンピース。
首にショールが巻かれているので、喉仏の有無はわからない。
「この村で村長をしております、リリアン・モンローと申します」
「顔と名前がぜんぜん合ってない」
『アネーシャっ、しっ』
さすがのイケメン三人も、迫力満点の村長を前にして、ややたじろいでいる様子。
「私たちはルギスへ向かう途中で、ここに立ち寄った者です。よければ一夜の宿をお借りしたいのですが」
「何なら厩や物置でも構わないぜ」
「お邪魔でなければ」
「まあ、そんな……どうぞ我が家へお泊りください。部屋はいくらでも空いてますから」
喜ぶ三人とは裏腹に、アネーシャの関心事は別にあった。
「……不躾ですが、ご主人は? ご結婚はされているんですか?」
皆が聞きたくても聞けないようなことを、アネーシャは訊いた。
一瞬、辺りの空気が凍りついたものの、
「主人は一昨年、流行病で亡くなりました。ご覧の通り、未亡人です」
だから黒い服を着ているのかと納得する。
それでも、村長が女装した男ではないかという疑惑は拭いきれなかった。
『村長の性別なんて、この際どうでもいいでしょうが』
どうでも良くないとアネーシャは言い張る。
「だって気になるし」
『そんなことより、これからはもっと慎重に行動するのよ。いいわね』
「はいはい」




