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追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中  作者: 四馬㋟
保養地ククシル湖で旅の疲れを癒そう

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「ジェミナ、ドラゴンのお肉食べないの?」

「うん、実は苦手なんだよね、ドラゴンの肉……」


 言いながら気まずそうに視線を逸らし、ため息をついている。


「さっきはごめん。逃げたりして」

「こっちこそ訳のわからないことやらせてごめんね」

「実はまだ混乱してる。ソル・サウラに憑依されてたとか言われても、実感なくて」

「記憶がないんだから仕方ないよ」

「僕……こんなんでアネーシャを守れるのかな」


 昨日今日で色々なことが起きた――人知を超えた出来事を体験したのだ。

 不安を感じるのも無理はない。


 私のことは気にしないでとアネーシャが口にする前に、


「アネーシャを守るのは俺だ。お前の力なんかいらない」


 刺々しい口調でシアが会話に割り込んでくる。


 ジェミナは勝気な目でちらりと彼を見ると、笑顔で返した。


「もちろん君の仕事を奪う気はないよ。けどアネーシャは僕にとっても大切な人だから」

「アネーシャは聖女だ。既に大切にされている。お前が現れる前から」

「やけに突っかかるね。そんなに僕のことが気に食わない?」

「ああ、気に食わない」

「正直でいいね。僕も君みたいな男は大嫌いだよ。綺麗な顔した甘えん坊さん」

「……もう一度言ってみろ」


 シアの前で、彼の顔について触れるのは厳禁だ。


 実際、ハンターズギルドでも問題を起こしたらしい。シアのことを「かわい子ちゃん」と呼んだ男のハンターが、その場で半殺しの目に遭ったとか。場を収めるのが大変だったと珍しくウルスがこぼしていた。


「女だからって容赦はしない」

「僕だって、男になんか負けるもんか」


 剣呑な雰囲気が漂う中、アネーシャはおろおろし、ウルスは黙って食事を続け、コヤは――



『いい感じにギスギスしてきたところで、次の目的地を発表しますっ』


 

 なぜかテンション高めだった。

 


『仕事で上司にむちゃぶりされる、人間関係に疲れた、気なるあの子がライバルに取られそう……みんな色々とストレスを抱えていると思う。ストレスを抱えたままいい仕事ができるか? 楽しく旅を続けられる? できるわけないっ。ということで、行きましょうっ、ククシル湖っ』



「ククシル湖? 次の目的地は湖なの?」 

「確か貴族の保養地だろ、そこ」


 シアが拍子抜けしたように言い、ジェミナも緊張を解いた。

 それまで黙っていたウルスも口を開く。


「いい場所だ。古傷に効く温泉がある」


 温泉と聞いて瞳を輝かせるアネーシャ。


「ウルスさんは行ったことあるの?」

「仕事の依頼で何度か」


 ということは出るのか、ドラゴン。


「水中に生息するドラゴンがいる。湖は広大で、周辺のほとんどが立ち入り禁止になっているはずだ」

「唯一解放されているのは北側だけですよね?」

「水深が浅く、ドラゴン避けの柵がしてある。そこなら泳げるらしい」

「だったら、次の目的地はククシル湖の北側にある町、ルギスでいいんだな?」


 こくこくとうなずくコヤを見、アネーシャは胸をときめかせる。


 貴族の保養地、なんて良い響きだろう。

 

 湖畔の宿で、のんびりだらだらくつろぐ自分の姿が目に浮かぶようだ。

 そしてきっと、食べ物もおいしいはず。


『ったく、ババ臭いんだから……』

「何か言った? コヤ様」

『ゆっくり旅の疲れを癒すといいわ』

「ありがとう、そうする。楽しみだね、ジェミナ」

 

 そうと決まれば今日は早めに寝ようと、いそいそと後片付けを始める。

 それからさりげなくウルスのほうへ近づいていくと、

 

「……ウルスさんも怒ってる、私のこと?」


 ジェミナが離れたところにいるのを確認してから、アネーシャはこっそり訊いた。


「勝手なことしてるって」

「彼女を仲間に引き入れたことか?」


 ウルスは柔らかく笑い、首を横に振る。


「君のパーティーだ。君の好きにするといい」

「けどシアは納得いかないって顔してる」

「君の身を案じてのことだ」

「二人には仲良くしてもらいたいのに」

「馴れ合うだけが友情だとは限らないだろ」


 ウルスの言葉にはっとする。


「時に高め合い、競い合うことも必要だ」

「……なら、私も二人に負けないよう頑張らないとっ」


 思わず拳に力を入れて言うアネーシャに、ウルスは顔を強ばらせると、


「君の場合は何もせず、温かく見守る程度で十分だと思う」


 そっと肩に手を置いて言った。


「でも……」

「君が暴走すれば、女神も暴走する」

「……はい」


 


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