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追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中  作者: 四馬㋟
失われた都市メガイラでお宝探し

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「ところでコヤ様、ここで何をするの?」

『何って……若い男女が集まってやることといえば、決まってるでしょ』


 意味深に言われて、なんかデジャヴュだ。


「一人だけ若くない人がいるよね? 年齢が二桁じゃない人が」

『――グサッ。言葉の刃が胸に突き刺さったっ』


 胸もとを押さえてよろよろと倒れるコヤに、「で?」と両手を腰に当てて詰め寄るアネーシャ。


「もう一度訊くけど何をするの?」

『古い石版の回収よ』

「石版って……こういうやつ?」


 試しに近くに落ちていた石版らしき欠片を拾って見せる。

 ずしりと重く、これは荷物になるなと顔をしかめる。


「文字がかすれて読めないけど」

『それは犯罪者の悪事を記した裁判記録、他にも法典だとか童話もあるわよ』


 メガイラは勧善懲悪を掲げた法律を重んじる都市で、選ばれた者――学のある富裕層――しか住むことの許されない、閉鎖的な土地でもあった。市内には数多くの裁判所が建てられ、厳格な市民によって、毎日のように悪人が裁かれていたらしい。しかし戦争が始まると、それまで正義を信じて悪人を裁いてきた市民が、隣国の兵士によって蹂躙され、虐殺されてしまうのだから、世の中何が起こるかわからない。


「こうして見ると、結構あちこちに散らばってるね」


 メガイラでは、何かにつけて記録を取るシステムになっていたらしく、道のいたるところで石版を見かけた。主に裁判所で必要になる資料や記録がほとんどだったが、料理のレシピもあって、かつてこの都市で暮らしていた人々の息吹を感じた。


『探して欲しいのはモウリスの預言書』

「モウリスって……聖人モウリス?」


 アネーシャのこの一言で、前を歩いていた男性陣が振り返る。

 といっても二人しかいないが。

 

「預言者モウリスのことか?」

「人間で初めて、全知全能の神と直接言葉を交わしたという、あの」


『そうよ』


 王族でありながら不義の子であったモウリスは、実の親である王の命令で、生まれるとすぐに川に流され、捨てられてしまう。しかし川下で水浴びをしていた王女である異母姉に運良く拾われ、一命を取り留めるのだった。


 精悍な若者へと成長した彼は、ある時、恋人を助けようとして殺人を犯してしまう。しかしそれは王による策略で、王はしめたとばかりにモウリスの処刑を命じるのだが、王女の口添えによって、国外追放となる


 着の身着のまま放浪の旅に出たモウリスは、悪天候と飢餓で何度も命を落としかける。けれど信心深い彼は救いを信じて、雨の日も風の日も神に祈り続けた。やがて祈りは神へと届き、ようやくたどり着いた最果ての地で、念願の神の声を聞く。神はモウリスに、全ては王が仕組んだことで、お前に罪はないと慈悲を与える。


『圧政から民を救いなさい』


 神に命じられるがまま王都へ戻ったモウリスは、様々な予言を的中させ、救世主として祭り上げられる。また、悪行三昧の国王を懲らしめて復讐を果たし、愛する異母姉を女王にするのだった。


「そして彼は女王の右腕として、とある都市の建設に携わることになる。悪事を蔓延させないように。都市の名は、当時の女王の名をとってメガイラ」


『よく知ってるわね』


「さすがウルスさん」

「さすがウルスさん」

「……アネーシャ、真似するなよ」


 軽く頭をコツかれて、「いてっ」と舌を出す。

 それから気を取り直して、


「でも信じられない。モウリスの予言書がここにあるなんて」 


『簡単には見つからない場所にあるわ。父が彼に与えた物で、他のものとは違って宝石でできてるから、見ればすぐわかる』


「でも預言書があったのなら、どうして滅んじゃったの? ここ」

『預言書の文字は神と契約を交わした者にしか読めないからよ』

 

 メガイラが滅んだのは、モウリスが死んで百年後のことらしい。

 彼もさぞかし無念だっただろう。


『モウリスも一応警告はしてたみたいだけど、周囲は聞く耳持たなかったみたいね』

「……もしかしてここにも、ドルクの一部が封印されている、とか?」


 ――ドルクの中に流れる、破壊を司る神の血のせい?

 

 コヤは答えなかったが、アネーシャは確信していた。

 でなければ私たちがここへ来るはずがないと。






 ***






「それでコヤ様、その石版ってどこにあるの?」

『たまにはあたしに頼らないで、自力で探しなさいな』


 何よもうっ、とぶつくさ文句を言いつつ、周辺を探し始めるアネーシャ。


『そんなところにあるわけないでしょ、頭使いなさいよ、頭』

「いつも使ってるし……ってか、いつの間にかウルスさんがいなくなってる」

「少し周辺を見てくるってさ。宝探しに興味ないんだろ」


 とりあえずシアと協力して、預言書の捜索を開始する。

 歩きながらアネーシャは訊いた。


「隣国がこの都市を襲ったのって、もしかしてその預言書を奪うため?」

『ええ、けれど見つけられなかったみたいね』

「大勢の兵士たちが必死に探して見つけられなかった物を、私たちが見つけられると思う?」

「せめて都市の詳細な地図があればな……」


 シアの言葉に、全くその通りだとうなずくアネーシャ。


「ほとんど建物がないから、どこに何があったかなんて、わからないよね」

「俺たちの現在地も不明だしな」


 再びぶつくさ文句を垂れ流していると、


『仕方ないわね。あたしが口頭で観光案内してあげるから、付いてらっしゃい』


 やけに乗り気な様子でコヤは言うと、お尻を振りながらおもむろに先頭を歩き出す。


『あちらに見えますのが、見張り塔の残骸です。上に登れば都市を一望できる観光名所となっております』

「シア、まずは見張り塔へ行ってみよう。あとコヤ様、その口調変だよ」


 確かに見張り塔の上に立つと、都市をぐるりと見渡せた。


『門の近くにあるのが建設資材や石版の素材を作るための石切場、あそこが市街地で奥は王族の別荘があった場所。裁判所はあちこちにあったけど、とりわけ、王侯貴族や重犯罪者を裁くような大きな案件は神殿で行われていたわ。神の名のもとに聖職者たちが悪人を裁いていたの』


 市内には、全知全能の神を祀った大神殿の他に、月の神殿や太陽の神殿といった、他の神々を祀る神殿も多くあったそうだ。裁判所として利用されるだけでなく、祈りを捧げる場でもあり学び舎としても機能していたらしい。


『神殿には地下室もあって、たいてい共同墓地になっていたわ』


 興味なさげに「ふーん」とうなずくアネーシャに、コヤは重々しい口調で告げる。


『ここ重要なとこだからもう一度言っとくわよ。神殿の地下にはもれなく墓地があります』


「お墓の上で裁判してたの? こわっ」


 アネーシャを通じて女神の言葉を聞いたシアは腕組みする。


「いや……アネーシャ、それ、宝探しのヒントじゃないのか?」

 





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