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追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中  作者: 四馬㋟
幻の村メテオロスでブートキャンプ

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 戦いが終わると、全員が全員、後始末に追われていた。

 死体の解体作業と埋葬作業で筋肉を酷使しまくっている。


 こんな時でもシアの能力は大いに役立ち、不要な部分を全て消し炭に変えていた。


 アネーシャも下に降りて仕事を手伝いつつ、目はある人を探していた。


『誰を捜しているのか当ててあげましょうか』

「そういうのはいいから。どこにいるのかだけ教えて」

『それは……お前の……後ろだっ』


 ひっと息を飲んで振り返ると、確かに彼がいた。

 岩陰に隠れて、出てくるタイミングをうかがっているようだ。


「カイロス、やっぱり逃げなかったんだね」


 近づいて声をかけると、彼は観念したように出てきた。


「怪我はしてない?」

「……いいえ、保守派の方々のおかげで助かりました」

「信者さんたち、無事に逃げられてよかったね」


 イヤミを言ったつもりはなかったが、カイロスの決まり悪そうな顔を見、「ごめんなさい」と慌てて謝罪する。


「けど、さすがにあれはやりすぎだと思う」

「はい。おかげで目が覚めました」


 そう言ってカイロスは苦笑した。


「もう二度とあのようなことはしないと誓います。我ら革新派は神の試練を乗り越えることができなかった。取り戻すべき聖女を置き去りにし、保身のために逃げるとは――」


 血が滲むほど強く握り締められた拳を、アネーシャはそっと掴んだ。


「相変わらずだね、カイロスは」

「……謝罪の言葉もありません」


「覚えてる? 子どもの頃、カイロスは私に優しくしてくれたよね? その頃の私、皮膚病にかかって、今よりひどい顔してたのに、カイロスだけが普通に接してくれた。すごく嬉しかったんだよ」


 瞬時に拳の傷を治して手を離すと、彼は不思議そうな顔をしていた。


「アネーシャ様の顔はひどくありませんよ」


 うん、そいうところが好きだったなと心の中でつぶやく。


「地味な私に対しても、美人の子に対しても、カイロスは分け隔てなく接してくれる。相手が男の子だろうと女の子だろうと、年上だろうと年下だろうと態度を変えない。お金や権力にも興味ないし、聖職者に向いてるよ、カイロスは」


「……アネーシャ様」

「王都へ戻って、カイロス。あなたが信者さんたちを導いてあげて。私がいなくてもきっと大丈夫」


 カイロスは泣き笑いの表情を浮かべると、


「私に共に来いとは言ってくださらないのですね」

「一緒に来たいの?」


 驚いて聞き返すと、「冗談ですよ」と悔しげにつぶやく。


「今の私が付いていったところで、足でまといにしかならないでしょう」

『頭も固いしね~』


 余計なことを言うコヤを睨みつけつつ、


「カイロスは、カイロスにしかできないことをすればいい。私も、私にしかできないことをするから。だから行って。もしもこの先、カイロスが困っていたら、駆けつけて助けるって約束する。昔、カイロスが私にしてくれたみたいに」


 言いながらアネーシャは、自身の髪の毛を少し切って、カイロスに差し出した。


「コヤ・トリカの加護があらんことを」


 カイロスは震える手でそれを受け取ると、笑顔で言った。


「わかりました、いつの日か、アネーシャ様のお役に立てるよう、精進してまいります」


 

 …………

 ……

 …


 

 カイロスの姿が見えなくなると、アネーシャは岩陰に隠れて俯いた。

 やけに目頭が熱いと思ったら、頬が涙で濡れている。


『急にどうしたの、アネーシャ』

「……わからない……ただ、昔を思い出したら、急に胸が苦しくなって」

『戻りたいの? あの頃に』

「戻りたくなんかないっ。知ってるでしょ? ずっと独りだったもの。コヤ様が現れるまで、ずっと独りぼっちで……」

『今は違うでしょ?』

「……そうだね、でも先のことはわからない」


 もやもやした感情を抱えたまま、ずるずるとその場にしゃがみこむ。

 そんなアネーシャを心配してか、コヤは小熊の姿に化けると、二本足でよたよたと近づいてきた。


『とりあえずもふっとく?』


 うんとうなずいて、ふかふかのコヤの腹部に顔をうずめる。


『落ち着いた?』

「少しだけ……」


「姿が見えないと思ったら……そこで何をしているんだ?」


 怪訝そうに声をかけられて、アネーシャはのろのろと顔を上げた。

 大量にドラゴンの血を浴びたウルス・ラグナだった。


「これは……」

「泣いていたのか?」


 アネーシャが言い訳を考えているあいだ、彼はあることに気づいてはっとした。


「そこにいるのは……コヤ・トリカ?」

『そうでーす。あたしの姿が見えるなんて、どんだけドラゴン殺しまくったのよ』

「……なぜ熊の姿をしているんだ?」

『大人の事情ってやつ。それより例の件、そろそろ返事してくれない?』


 ウルスはちらりとアネーシャを見ると、


「彼女がそうなのか?」

『あなたがそれを望めばね。楽に手に入るなんて思わないでよ。こう見えてこの子、ガードが固いんだから』

「……知っているのか、彼女は」

『それとなく伝えたけど、どーだろ。決めるのはこの子だから』


 アネーシャは慌てて涙を拭うと、「何の話?」と会話に割り込む。


『孤独な男女を結びつけようとしているの』

「それは……ここが旅の終着点だから?」


 不安を吐き出すようにアネーシャは訊いた。


「そうなんでしょ、コヤ様」

『馬鹿ね、どうしていきなりそんなこと言い出すの』

「だって、何度訊いても次の目的地を教えてくれないし、それにここには――」


『ここにドルクはいないわ。封印されているのは彼の一部だけ』


 ほっとしていいのか悪いのか、アネーシャは顔をしかめる。


『彼の肉体は地上のあちこちに散らばっていて、あたしもその全てを把握しているわけじゃないの。だからこうしてちまちま彼がいた痕跡を辿ってるってわけ。馬鹿みたいでしょ?』


 そんなことないと、アネーシャはかぶりを振る。


「だったら旅は続くんだね」

『ええ、もちろん』

「次の目的地は?」

『メガイラ』

「……失われた都市か」


 ウルスはつぶやくと、「俺も仲間に入れてくれないか?」とまっすぐアネーシャを見た。


「アネーシャ、君が許してくれるのなら」


 まさか許可を求められるとは思わず、あたふたしてしまう。

 一瞬だけカイロスの顔が脳裏をよぎったものの、それを振り払ってアネーシャは言った。


「大歓迎ですよ」




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