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追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中  作者: 四馬㋟
ドラゴンハンターの街タラスケスでお買い物がてら街を救う

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 意識を失ってきっかり五分後に目を覚ましたアネーシャは、「ぜひお礼をさせていただきたいのでこのままギルドへ」というカークの誘いを断固として断り、ドラゴン爆発事件で賑わう通りをすり抜け、まっすぐ宿屋へと戻った。


 そこで汚れた身体を洗い、衣服を着替えると、慣れないことをしたせいか、どっと疲れが出てきた。よろよろとベッドへ近づき、倒れこむ――瞬く間に眠りに落ちた。目を覚ますと不思議と気分はスッキリしていて、ついでにお腹の中も空っぽで、アネーシャはいそいそと身支度を始めた。


『この不良娘が、こんな夜更けに出かけるつもり?』

「お夕飯ゆうはん食べ損ねっちゃったから」

『そういえばそうだったわね』

「起こしてくれれば良かったのに」

『だって気持ちよさそうに寝てたから、可哀想だと思って』


 食堂はまだ開いているだろうが、夕暮れ時を過ぎると飲み屋と化してしまうため、一人では入りにくい。だったらこのまま街へ繰り出して、屋台で済ませてしまおうと思ったのだ。


「屋台の食べ歩きって、一度やってみたかったんだ」

『しょっちゅうやってるじゃない』

「夜の街は初めてだもん」

『相変わらず危機感がないんだから、この子は』


 小熊の姿でアネーシャの背中によじ登りながら、コヤは呆れたように言う。


『夜の街は危険なのよ』

「コヤ様がいるから平気」


 言いながら、ふわふわの毛並みに頬ずりする。


『そんなこと言って……甘やかしたりしないんだからねっ』

「はいはい」

『はいは一回っ』

「はーい」


 タラスケスでは独り住まいや共働き世帯が多いせいか、家庭ではほとんど自炊しないという。忙しくて時間がない、そもそも料理ができない、家に台所がない、などの理由から、食事はほぼ外食で済ませるとか。そのため、おいしい食べ物を短時間で安く提供してくれる屋台は人気があった。


 昼間は何もなかった場所に、夜になると突然屋台が出現したり、人通りの多い人気の場所だと定期的に屋台の入れ替わりがあったりと、同じ場所でも時間帯によって様々な屋台料理を楽しむことができるという。


「最初はどこから攻めようかな」

『生ものは避けて、火の通ったものにしなさいよ』


 まずはご飯系、それから飲み物、スイーツ――と考えていたアネーシャだが、

 

「コヤ様っ、これすごくおいしいっ」


 気づけば夢中になって白い食べ物を頬張っていた。餅米を蒸してふわっとした食感の生地の中に、カリカリ食感のナッツとハチミツ味の甘い餡がたっぷりと入った、タラスケスの伝統菓子だ。


『ちょっと、ご飯はどうしたのよっ』

「甘いものは別腹だから」

『……それ、使い方合ってるの?』

「合ってる合ってる」


 いい加減に答えつつ、次の獲物を探すアネーシャ。


「まずはスープで口直しして、それからご飯系にいこうかな」

『アネーシャって不思議な攻め方をするのね』

「へへ、ありがとう」

『いや、褒めてないから』


 早速目に付いたのが、濃厚そうなとろみのついたスープだ。

 小さくカットした鶏肉と酸味のある野菜が入っていて、飲むと少し辛味がある。


 両手で器を抱え、アネーシャはそれを一気に飲み干した。


「なんか食欲湧いてきたっ」


 続いて、すり潰したじゃがいもを丸め、中に具材を詰めて油で揚げたボール状の揚げ物にかぶりつき、ドラゴンの出汁入りヌードルをすする。


「しめは何にしようかな~」

『……まだ食べるのね』


 アネーシャが一番気に入ったのは、蒸した米粉の生地に、魚や野菜、ペースト状にした豆などを載せて食べるタラスケスの郷土料理だった。甘酸っぱいタレに浸して食べるのだが、これがくせになる味で、箸が止まらない。

 

『アネーシャって、食べ物を食べてる時が一番幸せそうよね』

「へへ、ありがとう」

『だから褒めてないって』


 アネーシャの首にぶら下がりながら、コヤはため息をついている。


『あんなことがあったのに、意外とケロっとしてるのね』

「ドラゴンを爆発させたコヤ様が言う?」

『じゃなくて、あの狸爺のことよ』

「カークさん? っていうかあの人、コヤ様より年下だよね? それなのにジジィ扱いするの、どうかと思うよ」

『話をそらさないで、アネーシャ』

「もう済んだことだもん。それに、偽物呼ばわりされて神殿を追い出された時に比べたら……」

『そうだったわね、嫌なことを思い出させてごめんなさい』


 食後に熱いお茶をすすりながら、「謝らないで」とアネーシャは笑う。


「コヤ様、私、今が一番好きなの。幸せなの」

『……そう』

「私の気持ち、言わなくてもわかるよね?」

『ええ、伝わってる』


 屋台前に置かれた飲食用の小さな椅子に腰掛けると、賑やかな街並みを見て、目を細める。


「ずっとこうして、旅が続けられたらいいのに」


 物言いたげなコヤを抱き抱えると、「今のはお願い事じゃないから」と釘を刺す。


「ただの独り言」


 コヤは何も言わず、黙って頭を撫でてくれる。

 ふわふわの毛に顔をうずめながら、次は何を食べようかなと考えるアネーシャだった。





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