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追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中  作者: 四馬㋟
ドラゴンハンターの街タラスケスでお買い物がてら街を救う

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 宿屋に戻って、報告がてらシアと一緒に夕食を摂るつもりだったのに、彼はいなかった。


「まだギルドから戻ってきてないみたい」

『登録と買取だけにしては、ずいぶんと長引いてるわね』

「何かあったのかな」

『あの子なら心配いらないわ。アネーシャよりしっかりしてるもの』

「そうだね。ウルス・ラグナさんに会って、時間を忘れてるだけかもしれないし」


 仕方なく、先に食堂へ行って、ご飯を食べることにする。店内は常連客や観光客で混んでいたものの、運良く隅のほうの席が空いていたのでいそいそと座った。店員を呼んで、宿泊客用の食事をお願いする。


 タラスケスで食べる初めての食事、一体何が出てくるのかと、アネーシャはわくわくしていた。


「すり潰した豆のスープと肉料理、フルーツサラダに野菜の揚げ物――盛りだくさんだね」


 料理はアツアツでおいしく、空腹だったせいか、瞬く間に平らげてしまう。

 食後のお茶をすすりながら「そういえば」とアネーシャは口を開いた。


「このお肉、何の肉だったのかな。噛みごたえがあって、すごくおいしかったんだけど」

『そりゃあなた、ドラゴンの肉に決まってるじゃないの』


 思わずぶっとお茶を吹き出してしまいそうになる。


「げっ、嘘でしょ」

『何よその言い方。本来ドラゴンのお肉は高級品なのよ。タラスケスだから安く食べられるのに』

「そうなの?」

『周りをよく見なさい。皆がつがつ食べてるじゃないの』


 言われてみれば、確かに。

 特に観光客らしい人達が、目の色を変えて肉に食らいついている。


『ドラゴン専門の食肉業者があるのはこの街くらいなものよ』

「それで地元の人達は安く食べられるんだね」


 その上、ドラゴンの肉には精力増強、疲労回復効果があるというから驚いた。

 ドラゴンの肉を食べたことで子宝に恵まれた夫婦も少なくないという。


「だったらお代わりしようかな」

『夜、眠れなくなっても知らないわよ』


 意味深な口調で言われて、それは困るとお代わりは断念する。


「そういえばシア、まだ戻ってこないね」

『話が長引いてるんじゃない?』

「話って?」

『あの様子じゃ、あの男に何もかも話してるでしょうし』

「コヤ様、さっきから何のこと言ってるの?」

『鈍いわねぇ、もうっ』


 そろそろ部屋に引き上げようかという時になって、ようやくシアが姿を現した。

 アネーシャが手を上げて居場所を知らせると、まっすぐこちらへ向かってくる。


 やけに決まり悪そうな顔をしているので、


「もしかしてダメだったの? 面談」

「いや、ハンター登録はしてきた」


 そう言ってギルドカード――ギルドが発行する身分証明書のようなもので、ハンターの名前やランク、討伐したドラゴンの種類や頭数などが記載される――を見せてくれる。Bランクからのスタートだが、既にAランク程度の実力はあると、ウルスに太鼓判を押されたらしい。ちなみに通常はFランクからのスタートだとか。


「すごいじゃない」

『まあ当然の結果ね』

「もっと嬉しそうにすればいいのに」


 向かい側の席に腰を下ろすと、シアは観念したように口を開く


「悪い、アネーシャ。ウルスさんに話しちまった」


 何のことだと首を傾げる。


「お前が聖女だってこと」



 



 ***







 とりあえずシアが食事を済ませるのを待って、アネーシャは口を開いた。


「なんでウルスさんに話したの?」


 詰問口調にならないよう気をつけたつもりだが、シアはびくっと肩を震わせた。

 上目遣いで様子を伺うように見る。


『アネーシャがこわーい』


 横から茶々を入れられて、今はそんな気分ではないと、キっと睨みつける。


「コヤ様は黙ってて」


 まもなく、シアはぽつりと答えた。


「……訊かれたんだ」

「訊かれたって何を?」

「神殿から聖女を誘拐したのはお前か、って」

 

 まさかそんな事態になっていたとは知らず、


「マイア様が誘拐された? 本当なの、コヤ様」

『あの小娘はビビって逃げただけよ。今は王宮で匿われているわ」

「どうしてそんなことに」


 単純な話だとコヤは言う。


『あの子にアネーシャの代わりは務まらなかった。それで信者たちが金を返せと怒り出したの。または、本物の聖女を出せ、ってね』


 彼らの怒りを鎮めるために、コヤ教の聖職者たちは必死だったらしく、とんでもない言い訳をした。


 今現在、本物の聖女は行方不明になっている、誘拐された可能性が高く、神殿側も聖女を取り戻すべく手を尽くしているが、聖女は見つからない。ゆえに皆にも力を貸して欲しいと。


『今頃、コヤ教の信者たちは血眼になってあなたを探してるはずよ』

「……私が追い出された時、誰も引き止めてくれなかったのに?」

『今さら戻ってこいと言われてももう遅いっ――ってやつね』


 事情は理解できたので、あらためてシアに向き直る。


「それでシアは何て答えたの?」

「……違うって」

「それから?」


 半ば強引に聞き出した結果、シアは全てをウルスに話してしまったようだ。

 自分が邪神教の信者――元暗殺者であったことも含めて。 


「信じられない」 

「ちゃんと口止めはした。言ったろ? あの人は信用できる」

「でもギルド長には話してるよね」

「だとしても、情報を外部に漏らすようなことはしないはずだ」


 できればその言葉を信じたいが、


『心配しなくていいわ、アネーシャ。ギルドは聖女タラにでっかい借りがあるんだから。あなたのことも守ってくれるわよ』


 それもそうかと、不安が一気に吹き飛んだ。


「じゃあ、この話は終りね。話したらお腹すいちゃった」

『ちょっと、まだ食べる気?』

「次は甘いものにしよっと……シアも食べる?」

「ああ」


 ちらちらとアネーシャの顔色を伺いつつも、彼はほっとしたようだ。

 

「このドラゴンテールゼリーっておいしいのかな?」

『亀ゼリーみたいな感じよ』

「いや、亀ゼリーなんて食べたことないし」

「試しに注文すればいい。無理そうだったら俺が食うから」


 秘密をばらしたことを後ろめたく思っているのか、珍しくシアが気を遣ってくる。


『やだ、嬉しっ』

「コヤ様に言ったわけじゃないと思うよ」

 

 こうして三人の夜は更けていく。

 


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