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89話 顔を上げて

翌日。

目を覚ますと、目の前にはスヤスヤと寝息を立てているソフィリアの姿がそこにはあった。

俺はおもむろに彼女の頬をなでた。


昨日のことは鮮明に覚えている。

初めてソフィリアと結ばれた夜、彼女から大切なものを授かり、また俺は彼女に救われた。

晴れ晴れとした気分とは言えないが、昨日ほど気分が落ち込んでいるわけではない。


彼女は初めてだった。

それなのに彼女は、文句も言わず俺を受け入れてくれた。

八つ当たりともとれるような乱暴な俺をだ。


感謝とともに申し訳なさも感じる、まさか彼女がここまで俺のために尽くしてくれるとは、正直思っていなかった。

彼女の初めてが、あんな強引で乱暴なかたちになってしまった…なんと申し訳のないことか……。


「んん」


彼女は身じろぎをしつつ、ゆっくりと目を開けた。

彼女の澄んだ瞳が俺を捉える。


「おはようございます。気分の方はどうですか?」


彼女はそのまま顔を赤らめつつ問いかける。


「ああ、昨日よりはだいぶ楽になった。

本当にありがとう、また助けられてしまったな」


「そんな…助けたなんて。私も…その…嬉しかったです」


彼女はそう言うと恥ずかしそうに毛布を身体に巻き付けつつ、はにかんで笑った。

その笑顔に俺の心臓は早鐘を打つ、俺は視線をそらしつつ彼女に尋ねた。


「ソフィリア、こんなことを聞くのもなんだが、俺はこれからどうすればいいのだろうか?」


その質問に彼女は目を丸くした。

そしてそのまま数秒、あごに手をやり考える仕草をすると、思い出したように話し出す。


「私にはあまりよくわかりませんでしたが、エルジェイドさんが言っていました。

アルクさんが私たちを助けてくれた意味を考えろと。悲しみを乗り越え前に進めと」


エルジェイドがそんなことを。

そうか、たしかにそうだ。失ったものへの悲しみは忘れてはいけない。でも、それに囚われていては前には進めない。


アルクはきっとそれを望んでいないはずだ。

彼はいつだって、俺を英雄のように見ていた。こんな不甲斐ない俺を目標にしてくれていた。

強く生きよう、アルクが俺を目標にしてよかったと思えるように。


俺にはやるべきことがあるはずだ。

魔道具の捜索…いまだにジルガの意図も未来からの冊子についても分からないことが多い。

だが、このまま放っておいてはいけない気がする。

しかし、まず何をするべきか…。


考え込む俺に、ソフィリアは静かに話し始めた。


「私、夢だったんです」


「……」


「女性なら、誰でも一度は思い描くような、ありきたりな夢ですけど。

私を守ってくれる素敵な男性と出会い、恋に落ちて、結ばれる、そして生涯支え合う。

そんなありきたりな夢が、結界に閉じ込められた孤独な私には、きっと叶えることができないと、そう思っていました」


「……」


「でも、あなたが現れ、何度も私を助けてくれた。

そして、結ばれて、それが結果的にあなたの助けとなることができた。

これ以上の幸せはありません」


俺だってそうだ。

暗く沈んだところから、それこそ身体を張って俺を助け出してくれたソフィリアを愛しく思う。


まして、あんな乱暴な扱いをした俺を拒否することなく受け入れてくれて、自分の初めてというかけがえのないものまでもらってしまったのだ。

そこまでしてくれたソフィリアを幸せにしてやりたいと心から思える。


昨日までの暗く落ち込んだ気持ちを、ソフィリアが救いあげてくれたのだ。

まだ少し、心の奥につっかえるものがあるが、それでも気持ちはとても楽になっている。

今度は俺が、身体を張ってソフィリアを支えていく番だ……。


と、そこまで考え、俺の思考は一瞬にして停止した。

ルーナのことが頭をよぎったのだ。

瞬時に俺の頭の中はぐちゃぐちゃにかき混ぜられた。

いわゆるパニックというやつだ。


俺はルーナとも関係を持っている。

もちろんルーナのことは大切だと思うし、これからも大切にしていくつもりだ。

彼女にも俺は救われた、ソフィリアにも救われた、どちらの方が大事ということはない。

どちらも大事なのだ。


それに王族や貴族でいえば、複数の妻を持つことは何も不思議なことではない。

いや、それは言い訳か。

王側や貴族は、血を絶やさないため、家名を守る宿命にあるからともいえるからな。


ましてルーナは、嫉妬深い一面がある。

今回のことを快く受け入れてくれるとは、到底思えない。


しかし…。

俺は意を決してソフィリアにこのことを話した。

すでにルーナと関係を持っているということ、彼女のことも大切にしたいということ。

そのうえで、ソフィリアも大事にしたいということを。


他人が聞けば、ただのわがままに聞こえるだろう。

しかし、それが俺の本心だ。誰に何と言われようとも、俺は2人を大切にしたいのだ。


俺の話を聞いてソフィリアは、激昂することなく優しく微笑みながらに言った。


「はい、ありがとうございます。

でも、まずはルーナさんにこのことをお話ししないとですね」


ソフィリアは冷静だった。

そうだ、これは俺とソフィリアだけの話ではないのだ。

ルーナのところへ行こう。

昨日の今日でこんな話をしたら、逆上しかねないが、しっかりけじめをつけるのだ。


そして俺とソフィリアは宿を出た。

宿を出た通りの先にルーナがいるのが見える。

俺たちはルーナを呼び止め、近くの酒場に入った。

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