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83話 海底迷宮の最深部

瞬息の太刀、それは脱力状態からの瞬発力を活かした鋭い踏み込みによる剣技。

その斬撃は、相手の姿を一瞬見失うと言われるほどの速度で放たれる、鋭刃流の奥義。

俺はその奥義をソフィリアに向かって突進するアーマーローダーに向けて放った。


しかし、届かない。

瞬息の太刀は鋭い踏み込みによる一撃、そのため高速で逃げる相手に追撃するのに向いていない。

ましてや俺の瞬息の太刀は、鋭刃流の剣聖以上の者やアルクのそれには、遠く及ばないのだ。


クソッ、俺の瞬息の太刀ではアーマーローダーに追いつけない。

せめてあと2歩、踏みこめれば…。

そこで俺は、ふと、気づいた。

瞬息の太刀の踏み込みを連続で行うことができれば…。

しかし、俺にできるのか?アルクですらできないことを、この俺が…。


俺が考えている間にも、アーマーローダーはソフィリアに向かっていく。

もう、ソフィリアの眼前にアーマーローダーが迫ってきている。


俺は全神経を足に集中する。

瞬息の太刀の一歩目、その足が着地したと同時に一瞬の脱力、そしてさらに踏み込む。

足に負担がかかる、ブチブチと筋肉のちぎれるような音が脳に伝わる。

そしてさらにもう一歩。


俺は、アーマーローダーを抜き去り、ソフィリアとアーマーローダーとの間に割って入ることができた。

瞬息の太刀の連続使用により、足に力が入らない、これでは剣を振ることは難しい。

俺はそのままアーマーローダーに背を向け、壁に手を突く形を取ると背後に小さな魔法を唱えた。


目の前には不安そうな表情を浮かべるソフィリア。


次の瞬間、全身の骨を砕かれそうなほどの衝撃が俺を襲う。

俺の背後の小さな防御壁を粉砕し、アーマーローダーが俺を押しつぶそうとしている。

そこへすかさずソフィリアが魔法を詠唱し、俺の背後にいるアーマーローダーに氷の刃を降らせた。


氷の刃に貫かれ、アーマーローダーは絶命した。

俺も、ダメージを受け、その場に座り込む。

すかさずソフィリアが回復魔法を唱えようとしたところを制止し、回復薬を口に含む。


「大丈夫だ、ソフィリア。きみの魔力は今後のために温存しておいてくれ」


「で、でも、そのケガは回復薬程度では…」


ソフィリアの言葉を途中でさえぎるように、俺は振り返り走り出す。

俺がこの場にとどまっているのはマズイ、ブルーシーリザードのブレス攻撃の標的になれば、ソフィリアを巻き込んでしまう可能性がある。


見ると、アルクはデビルピードを倒し、魚人と交戦中だった。

魚人1体なら、アルクに任せておいても問題はないだろう。

そう判断した俺は、ブルーシーリザードに攻撃を仕掛けることにした。

といっても、先ほどのダメージと瞬息の太刀の連続使用による反動で剣術ではダメージを与えることはできそうにない。


ブルーシーリザードを倒すなら魔法による攻撃だ。

しかし、この迷宮は魔力消費量が多く、上級魔法を使えば、魔力が枯渇しかねない。

それなら、初級魔法を組み合わせて魔法の威力を高めればいい。


ちょうどブルーシーリザードはこちらにブレス攻撃を仕掛けようとしている。

好都合だ。


俺はブルーシーリザードの眼前にファイアウォールを放つ。

同時にブレス攻撃が放たれ、巨大な水弾が炎の壁に直撃する。

大量の水蒸気と炎による熱が周囲を包む、俺はさらに風魔法を使用し、それらを上空に巻き上げ、曇を作り上げる。


それと同時に氷魔法を使い、上空から氷の刃を降らせる。

その氷刃は、雲を突き抜け、徐々に大きくなりブルーシーリザードに降り注ぐ。

最後にその雲に向け、小さなサンダーボールを放つ。

そうして出来上がった魔法は、ブルーシーリザードに氷の刃と、雷の雨を降らせた。


氷刃と雷は、そのまましばらく降り注いだ。

数分後、アルクが魚人の首をはねた時には、ブルーシーリザードも絶命していた。


俺たちはこのサバイバルを生き延びた。

そう確信したとき、俺はその場に座り込んだ。

すぐにソフィリアとアルクが駆け寄ってくる。


「リアムさん、これを」


そう言い、アルクは俺にエリクサーを手渡した。


「しかし、エリクサーは最後の1つのはずだ。

万が一の時のため取っておかなくては…」


「実は、ジャーン!もう1つ隠し持っていました」


俺の言葉を遮るように、アルクはピンク色の液体が入った小瓶をチラつかせながら言った。

思わず、笑みがこぼれる。

こいつめ、この緊迫した状況下で奥の手を隠していたとはな。


「たいしたやつだよ、お前は」


アルクにそれだけ伝えると、俺はエリクサーを飲み干した。

全身の痛みと魔力が回復していくのが分かる。

初級魔法の複合魔法、威力は上級魔法と何ら遜色ないものだったが、たった4発の初級魔法でここまで魔力を消費するとは。

迷宮を進むにつれ、魔力の消耗が激しい気がする。気のせいならいいが……。


俺とアルク、ソフィリアは奥の扉に向かった。

重厚な扉に魔法陣のような文様…この扉は魔力を流し込まないと開けることができない仕組みのようだ。


「どうだ、ソフィリア、何かわかるか?」


「ええ、この文字は古代ハイエルフの伝承にも記載されていた文字に似ています。

正確な翻訳とまではいきませんが、予想も含めると、この扉の奥が最深部になります」


「やはり扉の開閉には魔力を使うのか?」


「そうですね、でも、開閉のみであればそこまで多くの魔力を使用しなくて済むでしょう」


「そうか、なら俺が魔力を流し込もう。

ソフィリア、アルク、準備はいいか?」


俺は2人と視線を交わし、扉に魔力を流し込んだ。

扉は、薄明るい光を放ちゆっくりと開いていく。

その奥は薄暗い通路だった。


その通路の先、大きな広間に出た。

広間の最奥には玉座にも似た空間がある。

あそこにたどり着くことができれば、脱出できるかもしれない。

しかし、そう簡単でもなさそうだ。


玉座へ続く階段の手前、地下へと続く通路から何者かが上がってくる。

きっとこの迷宮の最終ボスのようなものだろう。

海底迷宮を抜けるための最終決戦が、始まろうとしていた。

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