82話 サバイバルを生き抜け
「一斉にこの場に魔物が集まるなんて、どうなっているの?」
そう小さく漏らしたのはソフィリアだった。
この場には俺たちのほかに、さまざまな魔物がいる。
ここに来るまでの間、生息区域が同じだったことはなかったはずの魔物たちがだ。
「なんか、闘技場みたいですね。奥に進むには、この魔物たちを倒せと言わんばかりだ」
そうつぶやいたのはアルクだ。
闘技場、たしかに今の状況は闘技場に放り込まれた戦士と同じようなもの。
ただ、もしこの状況が侵入者を排除するための罠だとするなら、魔物たちは一斉に俺たちに攻撃を仕掛けてくるはずだ。
ここは慎重に行動すべきだろうか。
俺は今一度、周囲を見渡し状況を確認した。
俺たちの正面、最奥にいるのはブルーシーリザード。
右側にはアーマーローダーとデビルピードがそれぞれ3体ずつ。
左側には、キャンサーウォーリアーと魚人のような魔物がそれぞれ2体ずつ。
それぞれの個体数が違うな…これは、闘技場でいうところのハンデのようなものか。
もしかしたらここは本当に闘技場だったのかもしれない。
古代の遺跡の闘技場跡が海底迷宮と結びついてしまった、そう考えれば無理矢理感はあるが納得できないこともない。
だとしたら、やはりこの中で生き残らなければ、この先には進めないということだ。
魔法が使えれば、問題ない相手なんだがな、クソッ。
「アルク、戦闘に関してだが…」
俺が話し始めたとき、魚人の魔物が動いた。
対角線上にいる、デビルピードに襲い掛かる。
それを合図に他の魔物たちも動く。
アーマーローダーは身体を丸め、転がりながらキャンサーウォーリアーに突っ込んでいく。
キャンサーウォーリアーもアーマーローダーに向かっていく。
片方のキャンサーウォーリアーがアーマーローダーを受け止める。
そのわきを抜け2体のアーマーローダーが、奥にいる残りのキャンサーウォーリアーを押し潰す。
深々と壁にめり込むアーマーローダーの奥で、キャンサーウォーリアーは、ぺしゃんこになっていた。
右側では魚人の魔物を迎え撃つべくデビルピードが身体を起こしている。
そして、その鋭い針のような無数の手足を、はるか頭上から魚人の魔物に向かった突き立てる。魚人の魔物も距離を詰めるが、やがてデビルピードの足が魚人の身体を貫いた。
徐々に減っていく魔物たち。
その様子を眺めている俺たちに1体のアーマーローダーが襲い掛かる。
身体を丸め、猛スピードで突進してくる魔物を前に、俺たちも戦闘態勢に入る。
しかし、俺は視線の先の変化を見逃さなかった。
「アルク、回避だ!ブレスが来る!」
俺はすぐ後ろにいたソフィリアを抱きかかえ、横に回避する。
アルクも同時に回避を終えたところで、奥にいるブルーシーリザードがブレスを放った。
ブレスの射線に入っていた、アーマーローダーとキャンサーウォーリアーは、跡形もなく消し飛んだ。
これで残りは、俺たち3人、ブルーシーリザード1体、魚人1体、デビルピード3体、アーマーローダー1体だ。
戦闘力の高そうなキャンサーウォーリアーや魚人が倒されているということは、うまく立ち回りさえすれば、俺たちは消耗することなく敵の数を減らせるかもしれない。
今のようにブルーシーリザードのブレスを誘い、その射線に魔物を誘い込めれば…。
しかし、その考えは甘かった。
ブルーシーリザードは、俺たちに向け突進してくる。
それを見たデビルピードが、ブルーシーリザードの左右から襲い掛かるが、鋭い爪と強靭なアゴにより一蹴。
勢いそのままに俺たちに向かってくる。
「アルク、いったん戦闘は任せられるか!?
俺は、ソフィリアを避難させる!」
「任せてください!」
俺の言葉に力強く返事をしてアルクは飛び出していく。
俺はソフィリアを部屋の隅に避難させ、その周りを土魔法で覆い、簡易的な防御壁を作る。
本来ならば、もっと強固な防御壁を展開したいのだが、この迷宮では魔力の消耗が激しすぎて難しかったのだ。
それでも、ブルーシーリザードのブレス攻撃以外になら耐えられるだろう。
俺は防御壁の完成を見届けてから、すぐさま背後を振り返り状況を確認する。
中央では、アルクがブルーシーリザードと交戦中だった。
ブルーシーリザードを中心に前後左右に高速移動しながら斬撃を浴びせ、徐々にではあるがダメージを蓄積させている。
巨大な魔物に対する戦法としては理にかなっている。
こうして見ると、アルクもだいぶ成長しているのが分かる。剣術のみでいえば俺よりも上かもしれないな。
そんなことを考えていると、アルクとブルーシーリザードの戦闘にアーマーローダーが突進し、デビルピードも乱入する。
慌てて俺も戦闘に加わるべく、アルクのもとへ急いだ。
「アルク、後ろからアーマーローダーだ!横に飛べ!」
俺の指示にアルクは振り向くことなく、横に回避行動を取る。
その瞬間、アルクの背後から突進してきたアーマーローダーの攻撃が、ブルーシーリザードに直撃する。
体勢を崩しているアルクの頭上から、デビルピードが襲い掛かろうとしているところを、俺の瞬息の太刀で両断。
そしてそのまま、アルクと背中合わせに剣を構え、周囲を警戒する。
これで、それぞれ魔物は1体ずつになった。
「アルク、大丈夫か?」
「ええ、僕もそれなりに鍛えてきたつもりですから。
今なら、リアムさんにだって負けないかもしれないですよ」
アルクの言葉に思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、ああ、そうかもしれないな」
「あー、その笑い、絶対そうは思ってないでしょ!」
「そんなことはないさ。ただ、頼もしくなったなと思ってな。
よし、とりあえずブルーシーリザードは後回しだ。
他の魔物を先に倒すぞ!俺がアーマーローダーを引き受ける、アルクはデビルピードと魚人の方を頼む」
「了解!」
俺たちは互いに剣を手に駆け出した。
とはいえ、アーマーローダーはブルーシーリザードと交戦中だ。
単体のアーマーローダーが勝てる相手ではないだろうが、やつの突進攻撃は厄介だ。
早めに始末しておいたほうがいい。
そう思い、アーマーローダーに向かっていくと、突如アーマーローダーがこちらに向きを変えた。
そしてそのまま突進してくる。間一髪それを躱すことができたが、アーマーローダーの進行方向の先にはソフィリアがいる。
このままでは直撃してしまう。
俺は瞬息の太刀をアーマーローダーに向け放った。




