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9話 Fランク冒険者、特別クエストを受ける

翌日、朝食を済ませ、宿を出た俺たちは旅に出る前に、装備を整えるため町を散策していた。


「回復薬はこれくらいでいいだろう。あとは保存のきく食料と…ルーナ、一度ギルドに立ち寄ってもいいか?」


「もちろんです、なにか依頼を受けるのですか?」


ルーナは首をかしげながら聞いてきた。


「いや、そういうわけではないんだが、少し気がかりなことがあってな。場合によっては依頼も受けるが、一度冒険者ランクを確認しておきたい」


ギルドの中は冒険者でにぎわい、活気があるギルドだとわかる。


「すまない、冒険者ランクを確認したいんだが」


「はい、かしこまりました。お名前とIDをお願いします」


「リアム・ロックハート、IDはR9602だ」


受付の女性は、パラパラと分厚い本のページをめくる。

どうやら、あそこに冒険者のデータが乗っているらしい。


「リアム様、リアム様…ありました。冒険者ランクはFランクです、先日Cランクから降格したと報告を受けております」


やはりか。

勇者パーティーを追放されているからな、降格は覚悟していたが、まさかFランク…見習い冒険者とは。


「わかった、ありがとう」


ルーナは、どこだ…いた、クエストボードを見ていたのか。

しかし、見つけたルーナは険しい表情で、依頼内容を凝視していた。


「どうしたルーナ、難しい顔をして。気になる依頼でもあったか?」


「あっ、リアム様。あの、一生に一度のお願いです!この依頼を受けてはくれませんか?」


「なんだ急に改まって、どんな依頼なんだ?隣町の町長の護衛任務、3日後か、ランクは…Bランク」


ルーナの頼みを聞いてやりたいところだが、どうしたものか。

俺の冒険者ランクはFランクに降格しているらしい。

正式な手順を踏めば、Bランクへ上がることは可能だが…。


「あの、リアム様、そのランクというのは?」


「ああ、ルーナは冒険者ギルドは初めてか?ギルドランクは2種類ある。パーティーランクと個人ランク。パーティーランクは、そのパーティーそのもののランクであり、基本的にクエストの成功率で評価される。パーティーでクエスト受注をする際は、このパーティーランクを基準にするんだ」


つまりパーティーに入ってさえいれば、個人ランクが低くても、高ランクのクエストに参加できる。腕に覚えがある者や、早く金が必要な者はパーティーに参加させてくれと直談判することも多い。

女性冒険者の中には、身体を許すことで個人ランクが低くても、高ランクパーティーにいることもあるくらいだ。


「対して個人ランクは、冒険者個人のランクであり、パーティーランクとは無関係に評価される。評価の方法はクエスト中の魔物の討伐数や捕獲数が主な評価基準であり、他には採取なども評価に含まれるが、討伐よりは評価が低くなりやすい。俺の冒険者ランクがCランクなのはジルガの指示で、ほぼ戦闘に参加していないことが原因だ。パーティーに所属している状態で、個人がクエストを受注するときは、こちらの個人ランクで判断される」


ルーナは難しい顔をしてはいるが、なんとか理解しようとしている様子。


「ですが、その討伐数というものは、申告制なんですよね?それなら、事前に相談して振り分けたりしないんですか?」


もっともな質問だ。

ルーナは冒険者としての知識は浅いが、頭がいい。

そういえば鑑定眼も使えるしな、いろいろ知識はあるというわけか。

ふむとうなずき、説明をつづけた。


「討伐数や捕獲数のカウントについては、クエスト受注の際に渡される小さな石板に仕掛けがされていて、それを持った状態で魔物を討伐すると、その数が石板に記録される仕組みだ。ただし、これには細かな出来事は記録されないため、クエスト中の報告は別途必要になる。

基本的にギルドランクの昇格については、自分と同じランクとそのひとつ上のランクのクエストを複数回クリアすることで、昇格クエストという難易度の高いクエストを受ける資格を得ることができる。その昇格クエストをクリアできればギルドランク昇格となるのだが…さすがに今はそんな時間もないか…」


ちなみにギルドの依頼は自分のランクの上下1つのランクのものしか受けられない。

降格については、クエストの複数回連続での失敗や問題を起こした場合にギルド側の判断で降格となるシステムだ。


ルーナは静かに俺の話を聞いていたが、最後の言葉に反応し顔を伏せている。


「何度もすまない、ギルド長と話はできるか?」


「私がギルド長のゼラードだが?」


カウンターの奥から、屈強な男が顔を出す。

どうやら、ここのギルド長らしい、その風貌だけで優れた冒険者であったことが容易に想像できた。


「俺はリアム、Fランク冒険者だ。Bランクの依頼を受けたいんだがランクが足りない。一時的なランク昇格で構わないんだ、特別クエストはないか?」


バルスは一瞬、眉をひそめた。


「お前、どこで特別クエストのことを?たしかに特別クエストをクリアすれば一時的ではあるが昇格できる。まあいい、あるにはあるが…難易度はAランクだ、それでも受けるか?」


特別クエストは緊急性があるうえ、不確定要素が多いため正確なギルドランクの設定が困難な場合に出されるクエストで、基本的にクエストボードには張り出されない。

このクエストをクリアできた場合、一時的に仮設定されたギルドランクへの昇格が許され、その後のクエスト受注の状況次第で、本格的に昇格するかどうかが決定される仕組みだ。


一部の実績ある冒険者だけがその存在を知っており、俺は勇者パーティー時代に何度かこれを受けたことがあったから知っていた。


「ああ、問題ない。クエスト内容は?」


「西の森の奥にある洞窟へ行け。クリア条件はコカトリスの討伐だ。」



俺とルーナは特別クエストを受け、西の森の奥地、洞窟の入り口にたどり着いた。

サンレイクから数時間というところか。

これなら、往復しても今日中か明日には町に帰れるな。

そんなことを考えつつ、俺たちは洞窟内へ足を踏み入れた。


洞窟の中は迷路のように入り組んでおり、そこかしこに魔物がいる。

全部倒すのも面倒だ、なるべく戦闘は避けて進むのが無難だな。

しかし、ダンジョンというものは、侵入者を進めないように、まるで意思があるかのように魔物を配置していることが多い。

ここも例外ではない、いくら戦闘を避けてきたとはいえ、最深部へ向かうともなれば、強敵の1体や2体は倒さなくてはならない。


「ふう…、戦闘を避けて通れるのはここまでか。ルーナ、きみは戦闘に参加しなくていい。俺の後ろから離れるな」


「は、はい!決して離れません」


ルーナは両手を胸の前で組んで、肩をすぼめていた。

慣れない洞窟探索で、恐怖心もあるだろう。

やはりひとりで来るべきだったか。いや、でも、提案したところで断られるのは目に見えているか。

まあいい、今は目の前の敵に集中しよう。さて、どの程度の魔物が来るかな。


「グオオオオオ」


ゴーレム2体が、最深部へ向かう階段前の広場に姿を現す。

ゴーレムは生息する地域の鉱物の割合により強さが変わるが、こいつらはBランク冒険者であれば倒せるレベルだろう。

今の俺の冒険者ランクでいえば、絶対にかなわない強敵になるわけだが、俺からすれば冒険者ランクなど関係ない。


「空間魔法展開…タイダルウェイブ!」


ザザー、ザッブウウウウウン

俺の水属性魔法で、ゴーレム2体は自分たちよりもはるかに大きな津波に飲み込まれる。

何度も押し寄せる津波にゴーレムの体は削れていき、とうとう跡形もなく水にのみ込まれ消滅した。


もしかしたら、ゴーレムたちも自分に何が起きたのか理解できていなかったかもしれない。

タイダルウェイブは、海に面していないと使えないような魔法だ。

こんな洞窟の中で津波に襲われるなど、普通であれば想像すらできないだろう。


さて、これくらいで最深部に進めるほど、この洞窟は簡単ではないらしい。

階段横の銅像、悪魔の使いの姿をしているが、あれは防御装置のようなものだろう。

警戒はしておく必要があるか。


「空間魔法展開…ミストマジック」


「よくここまで来たな、人間。だが、ここより先に進むことは許さん、ただちに引き返せ。さもなくば、貴様の命はなくなるぞ!」


「悪いがそういうわけにはいかない、俺はその先にいるコカトリスに用がある」


「愚かな人間よ、身の程を思い知れ」


ゴゴゴゴゴゴ

銅像が動き始め、みるみるうちに翼が生えた悪魔のような魔物に変化していく。

やはり、防御装置のようなものか。敵はガ-ゴイル2体、ランクはAランク程度か。


「空間魔法展開、ヒートドーム!」


炎の球体がガーゴイル2体を包み込む。


「我らを甘く見るなよ、人間!」


パァァン!!

ガーゴイルは魔力を開放し、炎の球体を吹き飛ばす。

と同時に、こちらに飛びかかってくる。

早い、常人であれば反応もできないほどのスピードだ。

そのまま、俺に向かって鋭い爪を備えた強靭な腕での一撃を放つ。


バシャッ!

俺の首と胴体は、ガーゴイル2体の攻撃により切断され、宙を舞う。


「リアム様!?」


「次は貴様だ、小娘。貴様もこやつ同様、切り刻んでくれる」


「大丈夫だ、ルーナ。心配するな」


ズババババン

俺の剣がガーゴイル2体を切断する。


「なぜだ、きさまはさっき…」


その先はガーゴイルの口から出てこなかった。

自分の目の前の光景を理解したのだろう。

なんせ俺の横に、切断されたもう一人の俺が浮遊しているのだから。


「そうだ、お前たちが攻撃した俺は、空気中の水分を使い、作り出した俺の蜃気楼だ。俺はあらかじめ、自分の分身となる蜃気楼を作り、自身は空気中の水分で光を屈折させ、身を隠していたんだ。まさか、ここまできれいに騙されてくれるとは俺も思っていなかったがな」


「こざかしい、人間よ。いかに、自らが愚かなものか、その身をもって味わうがいい」


そういうとガーゴイルは地面に転がった。


「リアム様!」


同時にルーナが抱きついてくる。

よほど心配したのだろう、簡単に離れてくれそうにない。

ん?…本当に離れてくれない。なんだこの力は?そんなに怖かったというのか。


「まだ洞窟の中だ。いつ、魔物が襲ってくるかわからない。離れてくれ、ルーナ。ルーナ!?ルーナ?あの…ルーナさん」


「あっ、すみません、ついうっかり」


照れながら俺から距離を取る。

まったく調子が狂う、ここから戻ったらちゃんと言い聞かせる必要があるな。

とはいえ、これで最深部までの階段へはたどり着けた。


クエストの内容はコカトリスの討伐だが、本当に難易度はAランクか?今のガーゴイルにしても、俺の魔法を弾き飛ばすだけの力があるということは、相当な強敵なような気がするが。


もうひとつ気がかりなことといえば、なぜガーゴイルが防御装置としてコカトリスを守っているかということ。

コカトリス自体、相当な強さのはず。

それこそガ-ゴイルの保護を受ける必要がないくらいには。

もしかしたら、コカトリスの討伐以上に重要ななにかがこの先にあるのだろうか。


俺とルーナは慎重に最深部へ向かう階段を下りていく。

階段の下から流れ出る邪気と強大な魔力を、その身に感じ取りながら。

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