表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/134

80話 助けられた命

《ソフィリアside》


目の前に立っている青年…彼は見覚えのある茶色い髪で、使い込まれた名もない鉄の剣を持ち、これまた使い込まれた皮の鎧を身にまとっていた。


彼は私と魔物との間に立ち、何やら指示するように叫んでいる。

奥に目をやると、鮮やかな金髪の青年が目にもとまらぬ速さで、魔物を切り伏せている。


彼の目の前にも魔物が迫っているが、彼は動じない。

そして、一瞬だけ彼の身体がブレたように見えたときには、目の前の魔物はすでに斬られていた。


あれだけいた魔物の数が、どんどん減っていく。

私は夢でも見ているのだろうか……。

実は私はすでに死んでいて、今、目の前で起きていることは、ただの私の妄想なのではないだろうか。


私は目の前の光景を夢うつつに眺めていた。

ふと、彼は振り返り、私のところまで歩み寄る。

地面にへたり込む私の前で、しゃがみ込み、私の肩に手を置き、何かを言っている。


ああ、懐かしい…。彼は私やルーナさん、アイラちゃんに何かあると、いつもこんな表情で心配していたっけ。

でも、なんて言っているんだろう…ぼんやりしていて聞き取れない。

やっぱり夢なのかな…でも最後に見る夢が彼の夢なら、思い残すことはない。


不意に彼の顔が近づいてくる。

そのまま彼の顔が私の顔の横へ移動する、彼の手が肩から背中に回され、強く抱きしめられる。

力強く抱きしめられ、彼の体温が私に伝わってくる。

温かい感覚が全身を支配する、息を吸い込めば嗅ぎ慣れた彼の匂いが私の身体を満たす。


「………ソフィリア、ソフィリア」


聞き慣れた声に私は我に返った。

私の顔の横にあったはずの彼の顔が、いつの間にか目の前にある。

そして彼の視線と私の視線が交差する。

それを確認し、彼はふぅと大きく息を吐いた。


「よかった…無事で。本当に良かった」


もう一度、今度は優しく抱きしめられた。

この温もり、匂い、声、全てが私を包み込み、その全てが私を安心させた。

私もゆっくりと彼の背中に腕を回す…確かな感触が腕から脳へと伝わってくる。

これは夢ではない、私は助かった。また、彼に助けられたのだ。


助かった…そう実感したとき、自然と涙がこぼれ落ちた。


「リアムさん、私……私………う、うぅ」


「ああ、もう大丈夫だ。一緒にここから脱出しよう」


その後、しばらく涙は止まらなかった。

私の涙が止まったころには、周囲の魔物は一掃されていた。

リアムは、私が落ち着いたのを確認してから、なにやら金髪の青年と話を始めた。

私も立ち上がり、2人のもとへと歩み寄る。


「ソフィリア、もう大丈夫なのか?」


「はい、ご迷惑をおかけしました。私はもう大丈夫です。

助けていただいて、ありがとうございました。

えっと、リアムさん…そちらの方は?」


彼の斜め後ろに立っている金髪の青年は、直立不動の姿勢を崩さずにこちらを見ていた。

なんだろう、もしかしてハイエルフを見るのが初めてで驚いているのかな。

それとも、エルフ族に偏見があるのかもしれない。


「ああ、彼はアルク。俺たちが転移トラップでバラバラになった後から今に至るまで、ずっと一緒に旅をしている仲間だ」


彼はそう言うと、直立不動の青年を肘で突いて合図をした。

金髪の青年は、ハッとした様子ですぐさま頭を下げた。


「あっ、すみません。僕はアルク・レインジークといいます。

リアムさんとずっと一緒に旅をしてきました」


「そうですか、私はソフィリアといいます。

助けていただいて、ありがとうございます、アルクさん」


そう言って微笑みかけると、金髪の青年は顔を赤らめ、また硬直してしまった。

どうにも様子がおかしい気がする。


「おい、アルク、大丈夫か?少し変だぞ?」


彼もそれは感じたようで、金髪の青年の顔を覗き込み問いかける。

すると金髪の青年は、慌てた様子で早口に答えた。


「あっと…えっと、はい、大丈夫です。

あまりにソフィリアさんが綺麗なもので、一目惚れをしてしまいました」


「「えっ」」


私とリアムさんの驚きの声。


「あっ…」


それを聞いて我に返ったアルクさんも、小さく声を上げ、口を押えながら視線をそらした。

そしてしばらくの間、静寂がその場を支配したのは言うまでもないだろう。

これが、私とアルク・レインジークさんとの出会いであった。



《リアムside》


ソフィリアは無事に救出することができた。

アルクの唐突な発言のおかげで、しばらくぎこちない空気だったが、ソフィリアの機転とアルクの明るさが、場の空気を変えてくれた。


俺とアルクはすぐさま、場所を移動した。

ここに来る途中に見つけた横穴、そこは薄暗く、あまり大きくはなかったが身を隠すのには十分な広さで、入り口に見張りで立てば、魔物の動向も分かるため拠点に最適な場所だ。


俺たち3人はその横穴に移動し、ソフィリアの回復を待った。

彼女は、やつれ衰弱しているように見えた。

仕方がないだろう、こんな魔物の巣窟のような迷宮に長いこといたのだ。

疲労、恐怖、絶望…彼女の精神的負担は想像を絶するもののはずだ。


俺は横穴の入り口に土魔法でのぞき穴のついた壁を作り、風魔法と火魔法を複合した温風を横穴に流し込み、内部を温めた。

持っていた食料と水をソフィリアに与え、魔力切れ用に残しておいた聖水を彼女に飲ませた。

そして、ゆっくりと睡眠をとらせた。


本来ならば、こんなところではなく、上質なベッドで休むのが望ましいが、こんな状況では仕方がない。

それでも、ソフィリアは文句のひとつも言わずに、俺の膝の上で眠っている。


その寝顔は安らかで、美しい。

見ているだけで、心が洗われるような感覚さえ覚える。


そういえば、俺が初めてソフィリアと出会った時は、逆の立場だったな。

あの時、俺は死にかけていたところをソフィリアに助けられ、力の使い方を教わり、しかも彼女の力も分け与えてもらったんだ。


懐かしい…懐かしいが決して忘れることのない記憶。

今の俺がいるのは、ソフィリアがいてくれたからだ。

今度は俺がソフィリアを助ける番だ、例え命に代えても、彼女だけは助け出さなくては。


ふと気づくと、外が騒がしい。

見張りのアルクも注意深く外の様子をうかがっている。

どうやら、魔物同士の戦闘が近くで起こっているらしい。

俺たちは息を殺し、周囲を警戒したまま、しばらくこの場でソフィリアの回復を待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ