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77話 海底迷宮を進め

俺たちは、先を急ぐことはせずに周囲の状況を確認しつつ、慎重に探索をしていった。

分かれ道では必ず左手に曲がり、その際は壁に目印をつけていく、行き止まりであれば戻り、また別の道を進む。

そうして片側全てを調べ終われば、次は右側を調べるため、分岐点を右に曲がる。

こうして探索を続け、すでに10日は経過している。


食料は、迷宮への侵入時に海水に浸ってしまって食べれそうもなかったが、迷宮内の魔物を食べることで問題は解決された。


海底迷宮内の魔物の種類は多くない。現在確認しているだけで3種類。

細長い胴体と無数の針のような鋭い手足を持った魔物。

丸い胴体に甲羅のようなものを背負った虫のような魔物。

巨大な二枚貝で中から高圧水流を飛ばしてくる魔物。

中でも、貝の魔物は見た目通り食すのに向いていた。


奇妙なのは、迷宮内の通路が、洞窟のような岩肌がむき出しになっている通路と、まるで宮殿のように石材を組み合わせたような通路とが混在していることだ。

二つの通路に特に規則性はない、それゆえに進むべき道しるべになるわけでもなく、ただただ奇妙な光景なのだ。


「これは、もしかしたらですが、もともと海底に水没していた宮殿と海底洞窟が、互いの魔石によって吸い寄せられて結びつき、海底迷宮へと姿を変えたのではないでしょうか?

もしそうだとしたら、最深部の魔石の魔力の強さはかなりのものです。

魔物も、強力なものが多く潜んでいる可能性がありますね」


アルクは俺にそう解説してくれた。

そうなると、やはり迷宮自体の大きさも相当なもののはずだ。

無事にソフィリアを見つけ出せるといいのだが…。


そう考えながら進んでいくと、開けた場所に出た。

俺とアルクはハッとした。

その場所には野営をしたであろう痕跡があった。

つまり、俺たちの前に人間がここにいたということ。


積み上げられた木材、一部は焼け焦げ炭となっている。

あの木材は船の残骸だろうか、それともこの周囲には木材を調達できる場所があるのか。


考えながら周囲を見渡すと、ふと、広間から伸びる通路の入り口に目が留まる。

その入り口には、刃物でつけられた傷があった、きっとここにいた人間が進む際につけたものだろう。

つまり、この通路を進めばここで野営をしていた人間に追いつけるかもしれない。


そのまま周囲を見渡す。

この広間から伸びる通路は3つだ。

1つは今通ってきた通路、もう1つは入り口に印のある通路。

もう1つの通路は特になんの目印もない通路…いや、その通路に続く地面には何かを引きずったような跡がついている。


あれはなんだ…そう考えていると、その通路から物音がしてきた。

魔物の足音だろうか、この広間には隠れられる場所はない。

しかし、通路に入って狭い中で戦闘を行うより、広い空間での戦闘の方が良いと判断し、俺とアルクは臨戦態勢を整える。


姿を現したのは、大きなカニの姿をした魔物。

通常のカニと違うのは、ハサミとなる腕が6本あるということくらいか。

通路の中から出てきたのは、合計3体。

やつらは俺たちの姿を確認すると、すぐに襲い掛かってきた。

カニのくせに横歩きはしないんだな…まあ、そんなことはいいか。


「アルク、すぐに片づけるぞ!」


「了解!」


俺とアルクが剣に手をかけたところで、背後から物音がすることに気づいた。

振り返ると、細長い胴体と無数の針のような鋭い手足を持った魔物の姿。

俺たちを追ってきたのか、それとも偶然か。

運悪く前後を魔物に挟まれる形となってしまった。

俺とアルクは互いに背中合わせになり身構える。


俺はカニの魔物の方を、アルクは虫のような魔物の方に意識を集中させる。

先に動いたのはカニの魔物のほうだった。

俺は剣を抜きかけて、違和感を感じた。やつらの視線は俺たちに向いていない。


「アルク、横に回避するんだ!」


俺とアルクが横に飛ぶが、カニの魔物は迷わず前進していく。

そして、虫の魔物に食らいつくと、そのハサミでバラバラに引き裂いた。

そのまま、魔物の肉を引きずりながら、出てきた通路を引き返していく。

どうやら狙いは俺たちではなく、あとから来た魔物のほうだったようだ。


あの地面の引きずったような跡は、こういうことだったか。

きっとあの通路の先はカニの魔物の巣。

そこに餌となる魔物を運んでいるというわけか。


「アルク、どうする?

あの通路の先は、おそらくカニの魔物の巣になっているだろう。

わざわざ危険を冒してまで、あそこに行く必要もないかもしれないが」


アルクは腕を組みながら少し考え、口を開いた。


「たしかにあの通路の先は危険かもしれないですが、ソフィリアさんがいないとも限りません。

リアムさんの話だと、ソフィリアさんも相当な実力を持っているみたいですし、魔物の巣にいてもなんとか生き残っているかもしれないですよ」


「それもそうだな、俺たちの目的は迷宮の踏破ではなくソフィリアの捜索だからな。

ただ、戦闘にならないように、こっそり背後から近づき中の様子を確認するようにしよう」


結果として、その通路の先はカニの魔物の巣であり、生存者はいなかった。

そこにあったのは、魔物の卵と餌となる魔物の死骸、白骨化した人骨だけだった。

やはり、ここで野営をした一定数の人間があの魔物に襲われていた。

となれば、この目印の先に生存者が逃げ延びている可能性は高い、急ごう。


目印のついた通路を進むと、その先は岩肌がむき出しの洞窟のような通路が続いていた。

分岐点もなく、たまに開いている横穴からは魔物が出てくる程度で、その奥には何もなかった。


魔物も二枚貝の魔物は姿を消し、代わりにカニの魔物が増えた。

どうやら、奥に行くにしたがって強い魔物が生息しているようだ。


洞窟の周囲も薄暗くなってきた。

俺は久しぶりに道具に魔法を流し込み、自身の剣をたいまつの代わりとした。

アルクにも教えてみたが、彼には難しいらしく使いこなせない。

そのため、俺がアルクの剣に魔法を流し込む。


これで光源は確保できた…が、やはり、違和感を感じる。

魔法の効きが弱いというか疲労感を感じやすいというか…。

この迷宮自体が、魔法との相性が悪いのかもしれない。

そうなると、やはり戦闘の主軸はアルクに任せるのが得策か。


そういえば、アステラを離れるときにギルドに伝言を残し、他のギルドにも伝達を頼んでおいた情報は、エルジェイドのもとに届いただろうか。

彼がいれば、この迷宮探索も、そこまで難しくはなかっただろうが…。

いや、いない者のことを考えてもしょうがない。

今は俺とアルクで、ソフィリアを探し出すしかないのだ。

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