73話 国王からの指令
「ルーナ、アルク、オーペルから今までの経緯を説明させてくれ」
俺はキーウッドに戻り、マルーン氏に挨拶を済ませた後、宿屋の一室にてルーナとアルクに切り出した。
ルーナとアルクは、椅子に座ったまま居住まいを正す。
さて、説明するとは言ったが、どこから話せばいいか。
冊子の内容については全て仮定の話であり、その冊子も今は手元にない。
俺の行動で冊子の内容と現在の状況は違うものとなっている。
つまりは、冊子が本当に未来の俺が書いたものかの確認は取れない。
真偽のわからない冊子を信じるというのか…いや、参考程度に考えておくのが良いか。
しかし、この話自体を信じてくれるのだろうか。
どう話せがいいか悩んでいると、ルーナが優しい口調で言う。
「リアム、私もアルクもあなたの言葉を信じるよ。だから心配しないで、ちゃんと話して」
その言葉に俺はアルクの顔を見た。
彼も俺の視線に気づき、小さくうなずいた。
そうか、何も悩むことはないのだ…エルジェイドは言っていた、仲間を信じろと。
だったら俺は、2人を信じてありのままを話せばいい。
俺は、オーペルで謎の男に会ったところから、冊子のこと、俺の行動により冊子の内容と異なる状況にあること、竜王が最終的な相手であるということなどを説明した。
2人は難しそうな顔をしながらも、静かに聞いてくれた。
しばらくして、アルクが口を開いた。
「えっと、リアムさんの話だと、竜王がジルガさんに魔道具を探させていることになりますよね。
だとすると、竜王の目的はいったい何なんですかね?」
「それは俺にもわからない。
ただ、さっき接触した時に、魔王について言っていた。
つまり、魔道具は魔王と何か関係があるのかもしれない…」
言いながら、自分でハッとした。
俺は王都でのジルガとの戦闘を思い返していた。
やつは俺に魔法で対抗していた、以前は使えなかった魔法でだ。
「もしかすると、魔道具は所有者に何らかの力を与えるのかもしれない。
魔王の魔力の残滓が、所有者に力を与え、所有者は人知を超えた力を手にする。
竜王はそれを狙っているのかもしれない」
アルクはアゴに手をやり、うーんと唸りながら考え込んだ。
視線を感じて、ルーナを見ると、彼女は頬を膨れさせながら怒っているようにも見える。
なんだ、なにか気に障ることを言っただろうか。
俺は恐る恐るルーナに問いかけた。
「えっと…ルーナ、何か怒ってる…のかな?」
「いいえ、怒ってはいませんよ。
ただ、なんで今まで何の相談もしてくれなかったのかと思っていただけです」
これは……かなり怒っているな。
本人は否定しているが、言葉には力がこもっているし、なにより言葉遣いが昔のように戻っている。
やはり、相談しなかったのは間違いだったか…でも、もし相談したとして、余計な心配をさせるだけだったかもしれないし、今回のようにみんな無事というわけにはいかなかったかもしれない。
いや、みんなではないか…ナイルトンと部下の女性、オルレンフィアの住人には被害が出ている。
俺の行動が遅かったからか…そうすると、やはり、冊子の内容を信じ、早めに行動すれば最悪の事態を避けられるということなのか…。
しばらく考え込んでしまい、沈黙が場を支配していた。
俺は、ふと目線を上げる。
視線の先には、ジトーっという効果音がしそうな目でこちらを見ているルーナがいる。
しまった…これはしばらく、機嫌が悪いかもしれない。
ルーナの機嫌を直す方法を考えていると、しばらく考え込んでいたアルクが口を開いた。
「もし、竜王の目的が魔道具を集めることなら、自分が世界を手中に収めるつもりかもしれませんね。
本当にそうだったとしたら、竜王が魔道具を揃えるのは阻止しないとですね」
アルクの言葉に俺も、うなずきつつ答える。
「ああ、だが、まずはアステラに戻り、リリアに話を聞いてみよう。
リリアなら、ジルガが魔道具を集めている事情を知っているかもしれない……」
リリアの名前を出してから思い出した。ルーナにリリアについての説明をしていないのだ。
昔のルーナなら、女性の名前を出しただけで殺気を放っていたが…。
俺はゆっくりと、慎重にルーナの顔を見た。
ニコニコとしている…もう、ダメかもしれない。
その夜、ルーナと関係を持ってから、初めて別々のベッドで就寝した。
久しぶりの1人ベッドは、心なしか、広く冷たく感じた。
翌日、俺たちはアステラに向かうため、キーウッドをあとにした。
その道中、ルーナに小言を言われ続けた。
馬での移動の際は、ルーナは俺と同じ馬に乗る。
あまり乗馬が得意ではない彼女は、俺に抱きかかえられるようにして馬に乗るのだ。
だから、馬での移動中は、ルーナから逃げられない…そのため小言は延々と続くのだ。
俺が耐えきれなくなり、抱きしめながらに謝罪をすると、なんとか機嫌を直してくれた。
そうこうしているうちにアステラに到着した。
アステラの町はいつもと変わらぬ賑わいを見せている。
俺たちがリリアのいる宿屋へ向かおうとすると、衛兵に呼び止められた。
どうやら、国王から招集を受けているらしい。
急ぎ、王宮に向かうと、珍しく国王が玉座に座って待っていた。
いつも忙しく動き回っている国王が…である。
その国王は、俺たちが到着するのを確認すると、挨拶もそこそこに話し始めた。
「王国指名冒険者にして、大賢者であるリアムよ。
お前に任を言い渡す。
世界に散らばる魔道具の捜索へ向かえ!これは特命だ、断ることは許さん!」
「はい、承知しました。
アストラーテ王、1つ質問をしても?」
「なんだ?」
「此度の魔道具捜索の任、オルレンフィアやアステラの襲撃事件と何か関係が?」
俺は、竜王やジルガについてのことは伏せることにした。
もしも、国王が竜王の息がかかった者であった場合、俺だけでなくルーナやアルクにも危険が及ぶかもしれないと考えたのだ。
しかし、どうやらその考えは、杞憂だった。
そのどちらの名前も国王の口から出てきたからだ。
「うむ、オルレンフィアとアステラを襲撃した者は、魔道具を集めることを目的としているようだ。
その証拠に、どちらの町でも魔道具を奪われている。
犯人は、以前、お主と行動を共にしていた元勇者…ジルガだ」
「………」
「やつは今、魔道具を3つ所持しているという情報が入っておる。
なんとしても、やつよりも先に魔道具を集めねばならん、そのために竜王はじめ七大強王も動き始めている」
やはり、竜王がジルガに魔道具を集めさせているという情報はないか。
しかし、七大強王が表立って動いているのか。
これは、俺たちも急ぎ行動する必要がありそうだな。
「国王、ジルガの目的とは?」
国王は首を横に振った。
「分からん、ただ、魔道具を集めることで魔王が復活させることができると言われている。
元とはいえ、勇者にまで成りあがった男が、魔王を復活させようとしているとは思えんが。
いずれにしても、魔道具をそろえさせるわけにはいかんのだ」
魔王の復活…竜王の目的は、魔王を復活させることだとでもいうのか。
しかし、あり得ないことではない。
魔王も竜王も七大強王、交流があっても不思議ではない。
最悪、魔王を復活させ、竜王と魔王が手を組み世界を滅ぼそうとしている可能性すらある。
俺の故郷を、家族を滅ぼした魔王を復活させるわけにはいかない。
なんとしても、魔道具を先に見つけ出す。
それが無理なら、やはり竜王を俺が倒すんだ。
「わかりました、急ぎ行動に移しましょう。
では、我々はこれで」
まずは、リリアに話を聞く。
そのために俺たちは王宮を出て、リリアのいる宿屋へと向かうのだった。




