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71話 七大強王

ジルガが姿を消した。

あのとき…勝利を確信した俺の目の前に大量のバーサーカーアントの群れが現れた。

そしてバーサーカーアントを全て倒し終えたときには、ジルガはいなくなっていたのだ。

いったいどこに行ったのか、周囲を捜索したが分からなかった。


王都へ戻り、日が昇ってから王宮に顔を出すと、王宮内は騒然としていた。

まさかと思ったが、どうやら死亡者はいないようだ。

ただ、王宮の地下に保管してあった物が無くなっているらしい。

それは1つのペンダント、邪悪な魔力を帯びた魔道具である。


どうやらジルガたちは魔道具を探しているようだ。

なぜだ?いや、もしかしたらリリアに聞けばわかるかもしれない。

俺は国王に事情を説明してから、宿にいるアルクのもとを訪ねた。

しかし、リリアの意識は戻っていない。


そこへ1人の女性が訪ねてきた。


「私はハティといいます。王宮付きの魔導士でリリアさんとは古い友人です。

彼女を保護させてください。約束したんです、彼女を全力で守ると。

どうかお願いします」


涙ながらに頭を下げる彼女に俺はリリアを任せた。

意識が戻り次第、ジルガのことについては聞けばいい。

ひとまず、王都は安心だ。一度、キーウッドに戻ろう。


俺とアルクはキーウッドへ向かうためアステラを出た。

道中、目の前から3人の男が歩いてくる。明らかに異質な雰囲気をまとった3人組。

1人は深緑色の長髪、かなり猫背で両手をブラブラとさせ気怠そうに歩いている。

もう1人は、背筋を伸ばし、その姿勢からは一切の隙を感じさせない青い毛並みの獣人族。

その2人の間を歩くのが、黒髪の男、その男は他を圧倒する威圧感をまとっている。


俺は馬を下り、アルクに預ける。

なぜそうしたかは分からない。

ただ、彼らの雰囲気から、馬上でやり過ごせる相手ではないと悟ったのだ。

俺は神経を集中し、いつでも動き出せるように身構えた。


ふと、3人の視線が俺に向けられた。

鋭しい視線だ、気圧されるような感覚を覚え、半歩後ずさりする。


ドン、と背中に何かが当たる。

剣に手をかけつつ振り返ろうとした俺の腕が、何者かに掴まれる。

身体の動きを封じられ、周囲に視線を巡らす。


背後には深緑色の長髪の男、俺の横から腕を掴んでいるのは青い毛並みの獣人。

いつの間に!?一切動きが見えなかった。

驚く俺の目の前に、もう1人、黒髪の男が立ちはだかった。


その視線は鋭く、俺を捉えている。

全身を恐怖が支配する。

なんだ、この男の雰囲気、ただ者ではない。


「きさま、魔王の手の者か?」


男の静かで低い口調に全身の力が抜けそうになる。


「い、いや、違う。魔王を倒したのは俺だ」


やっとの思いでそれだけ言うと獣人の男が口を開いた。


「魔王の匂いがするといってもかなり弱い。こいつが魔王を倒したというなら、そうなのかもしれんな」


その言葉に背後の男も続ける。


「体温・心拍の変化もねえ、嘘は言っちゃいねえようだぜ」


2人の言葉を受け、黒髪の男はフンと鼻を鳴らしつつ問いかけてきた。


「きさま、声は聞こえるか?頭の中に声が流れ込んでくることはないか?」


俺には意味が分からなかった、黒髪の男が言っている言葉の意味が理解できなかった。

困惑している俺を見下ろし、男は言った。


「その様子では声は聞こえていないようだな。ならば良い、去れ!」


男はそう言うと、ほかの2人とともに歩き去った。

数秒、その場に立ち尽くしてから、全身から力が抜け、その場に座り込んだ。

気づくと、全身から汗が噴き出していた。


そんな俺にアルクが近づいてきた。


「大丈夫ですか、リアムさん!?

リアムさんがこんなになるなんて、やっぱり七大強王は伊達じゃないですね」


七大強王…聞いたことがあるような、ないような。

どこで聞いたんだったか、思い出せない。


「アルク、さっきのやつらのこと、分かるのか?」


俺の質問にアルクは目を丸くし、口をあんぐりさせている。

なんだ、何か変な質問でもしたのか。


「リアムさん…七大強王って知ってますか?」


「ああ、どこかで聞いたことあるような気がするな。

あまり覚えていないんだが、さっきのやつらがそうなのか?」


俺の返事にアルクはため息交じりに話し始める。


「リアムさん、いいですか?

七大強王というのは、この世界で強いとされている上位7人のことです。

特に、竜王、狼王、蛇王、魔王は強さが別格とされていて、さっきの3人組は竜王、狼王、蛇王の3人です」


竜王だと!?冊子に書いてあった竜王か?

だとするならば、さっきのうちの誰かがジルガを操っているということか。

いったい誰が?


「アルク、さっきの3人、誰が誰だか分かるのか?」


「ええ、緑色の髪の人が蛇王、青い毛並みの獣人が狼王、黒髪の男が竜王のはずですよ。

それがどうしました?」


そうか、黒髪のあいつが。

確かにやつのまとうオーラというか雰囲気は、まさに最強の男と呼ぶにふさわしいものがあった。

そうか、俺はあいつを倒さなければならないのか…勝てるのか、今の俺に…。


「それにしても運がいいですね。

七大強王を生で拝める日が来るなんて、なかなかありませんよ。

あれ、でもなんで、その上位3人が一緒に歩いているんだろう??」


あごに手をやり考え込むアルクの言葉は、俺の耳には届かない。


俺は自分の手を見た…まだ震えている。本能が悟ったのだ、勝てない相手というものを。

しかし、冊子の通りなら俺はやつを倒さなければならない。そのためには強くならなければならない、たとえ相手が世界最強であったとしても。

俺は震えを止めるように、強く心に誓うように、拳を握り締めた。

そして顔を上げ、アルクに言う。


「アルク、俺にもう一度剣術の稽古をつけてくれ。

俺は強くならなければならない、頼む、瞬息の太刀の極意、俺に教えてくれ」


「えっ!?それはいいですけど、どうしたんですか、リアムさん?

ずっと…カルテリオからずっと様子がおかしいですよ。

何があったのかだけでも、説明してもらえないですか?」


アルクは小首をかしげつつ、ややいぶかしげな表情を浮かべている。

そういえば、ルーナにも同じ顔をされていたな。

さすがにこれ以上は、隠し続けられないか…。


でも、まあ、俺の行動によって未来は変わったはずだ。

その証拠に、王族の誰も死んではいない、マルーン氏も無事だった。

この冊子を本物とするなら…の話だが。


そう思い、俺は懐にしまっておいた冊子に手を伸ばす。

瞬間、違和感を感じた。冊子がない!

落としたのか?いつだ、気づかなかった。ジルガとの戦闘中か、だとしたら高範囲魔法を使っていたから、もう残ってはいないかもしれない。


俺の様子にアルクは、怪しむかのような視線を俺に送ってきている。

そうか、無くなってしまったものはしょうがない。

どのみち、俺の行動で冊子の内容とは変わっているんだ、ここから先のことは誰にもわからない。


そう思うと、少し気持ちが楽になった。


「アルク、ひとまずルーナのところへ帰ろう。説明はその時にする」


俺とアルクは再びキーウッドに向けて馬を走らせた。

俺が、アルクから剣術の稽古を受け、瞬息の太刀を会得するのは、今から15日後のことである。

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