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70話 因縁の対決

「てめえは、リアム!」


割って入った俺を見て、ジルガは攻撃の体勢を整えるように俺との距離をとった。

俺は、ジルガに視線を向けたまま、背後にいる青年に声をかける。


「大丈夫か、アルク?あれほど、戦うなと言っただろうに。

空に打ちあがる水弾が見えなかったら、お前はもう生きてはいないんだぞ…まったく」


そう言いながら、視線を向けると、アルクの背後に誰かが倒れている。

意識を失っているであろう女性、見覚えがある。

かつて自分をバカにしていた女魔導士…リリアか。


リリアを見ると、彼女の髪の毛は乱れ、衣服は破られ肌を露出し、全身に付着しているものからは、異臭を放っている。

なるほど、アルクはリリアを助けようとしたというわけか。


「清廉なる神々に集いし精霊たちよ傷つき倒れた、かの者に力を分け与えん。

病に伏した、かの者に癒しを与えん………ケアリング!」


俺の左手から魔力が放出され、アルクの傷が消えていく。

念のため、リリアにも回復魔法を施したが、意識は戻らない。

手遅れか…。いや、かすかに胸が動いている、呼吸がある。


「アルク、リリアを連れて避難していろ。彼女の意識が戻るまで介抱してやるんだ、行け!」


自分の身にまとっている獣の毛皮でできたコートをリリアにかぶせ、アルクに指示した。

同時にアルクが彼女を抱え、走り出す。


「チッ、ダスティン!金髪を追え、リリアを逃がすな!」


ジルガの声と同時にジルガのやや後方にいた男が走り出す。

俺の脇をすり抜け、アルクまで一直線に。


「フロストジェイル!」


俺は、アルクを追う男、ダスティンを氷の監獄に閉じ込めた。

これで、アルクを追えない。あとは、俺がジルガを足止めすればいい。


「チッ、役立たずが!

まあいい、リアム……待っていたぜ~、てめえに復讐するこのときを」


「復讐?何を言っている?俺はお前を恨むことがあったとしても、お前から恨まれるような覚えはない」


「俺さまたちは勇者ですらなくなった、なのにお前は、魔王殺しの大賢者…。

許せねえ、許せねえよな~。お前が俺さまより優れているなんてよ~」


ジルガの顔が険しくなる。

不気味に張り付いていた笑顔が消え、目が座る。

…来る!


ジルガの踏み込みは早く、一瞬で俺との距離を詰める。

同時に俺の首に向かって剣が迫る。

なんとか、剣を縦に構え受け止めるが、後方にはじかれる。


体勢を立て直そうとする俺に、ジルガは剣を振り上げている。


「ロックブラスト!」


俺の手から放たれた無数の石弾がジルガに直撃し、ジルガを後方へ吹き飛ばした。


ここでの戦闘はマズイ、魔法に使用制限が出る。

町に被害が出るような、広範囲、高威力の魔法が使えない。

剣の実力だけでいえば、ジルガのほうが上だ…俺に勝ち目はない。


そう判断した俺は、ジルガを素通りし、町の出口に向かって走った。

町の外に出れさえすれば、魔法が使える。

魔法が使えれば、俺の負けはない…そう判断しての行動だった。


しかし、誤算があった。

町を出た先には、複数の兵士がいた。彼らは俺たちに気づくと、こちらに向かって走ってくる。

このままでは彼らを巻き込んでしまう。


「空間魔法展開…フローズンエラ!」


俺は地面を凍らせ、ジルガの足を止めた。


「お前たち、ここから離れろ。巻き添えを食うぞ!」


兵士たちに叫んだが、遅かった。

ジルガは足元の氷の大地をあっさりと抜け出し、近づいてくる兵士を全員斬り殺した。

ジルガが、あんなにあっさり人を殺すとは想像もしていなかったが、これではっきりした。

どうやらオルレンフィアを襲撃したのはジルガで間違いなさそうだ。


「リアム~、どうやらてめえが大賢者ってのは嘘じゃねえようだな~。

昔教えてやったじゃねえか、てめえにできることは道具に魔法を流し込むだけだってよ~」


「俺はお前のその言葉を信じていた。

だが、俺にも可能性があるんじゃないかと気づかせてくれた人がいる。

その人のおかげで、俺は今、こうしてお前と対峙することができているんだ」


「まさか、てめえ、町から離れれば…魔法が使えれば、俺さまに勝てるとでも思ってやがんのか?」


そう言うとジルガは俺に向かって手を伸ばす。

まさか…。


「こうだったか?ロックブラスト!」


ジルガの手から無数の石弾が放たれる。

かろうじて、それらをかわした俺は、戦慄した。


ジルガは魔法を使うことはできなかったはずだ。

それが魔法を使ったことに加え、威力は俺と変わらない…いや、もしかするとそれ以上だ。


「何を驚いてやがる、てめえにできることが俺さまにできないとでも思ってやがんのか?」


「……」


「さあ、行くぜ、リアム。

存分に後悔して、そして死ね!」




《イゴールside》



ジルガの待機場所にいたのは氷漬けのダスティンだけだった。

どうなっているんだ?戸惑う俺の前に1人の男が突然現れる。

ザイドリッツだった。


やつは、氷漬けのダスティンを開放すると俺に言った。


「イゴールさん、どうやら魔道具は見つけられたようですね。

では、ジルガさんを迎えに行きましょうか。

私の近くから離れないでくださいね」


「なんだと!?ジルガは今どこにいる?」


「ジルガさんは、ここから少し離れたところで、戦闘中ですね。

魔道具を2つ持っているとはいえ、やはりリアムさんには、まだ勝てそうにないみたいですが」


「リアムだと…」


俺は一縷の望みを抱いた。

リアムがジルガを打ち破ったら…もしこのまま助けに行かずにジルガが負ければ、もしかしたら、ジルガは昔のように戻るのではないかと。

しかし、そんな俺にザイドリッツは振り返る。


「イゴールさん、言っておきますが…ジルガさんを裏切ったら、あなた…後悔しますよ」


底冷えするような静かな口調だった。

体の芯からこみ上げてくる恐怖に全身が支配され、俺は尻もちをついた。

なんだ、いったいなんだというんだ。ザイドリッツのこの威圧感は。


そんな俺を無視し、ザイドリッツは歩き出す。

そして町を出たところで、地面になにやら魔法陣のようなものを描き始めた。

その1つに俺とダスティンを乗せ、自分はもう1つの魔法陣に魔力を込める。


魔法陣から黒い霧を噴き出し始めるとザイドリッツも俺たちと同じ魔法陣に乗った。

同時に魔法陣が青白い光を放ち、気づくと見覚えのない場所に立っていた。


次第に砂煙が晴れていくと、少し遠くに2人の男が向かい合って立っている。

1人は剣を地面に突き刺し片膝を地面について見上げている。

もう1人は、その男に剣を突きつけ見下ろしている。


俺は目の前の光景を信じることができなかった。

ジルガが…あのジルガが…魔道具を手にし、さらなる力を得たジルガが見下ろされている。

夢を見ているのだろうかとさえ思ってしまう。

もし、このままリアムが勝てば…。


「イゴールさん、先ほども言いましたが、くれぐれも変な気は起こさないことですよ」


俺の心を読んだかのようにザイドリッツが振り返りつつ、俺にくぎを刺す。


「もう少ししたら、町のほうから魔物の大群が押し寄せてきます。それに乗じて、ジルガさんを連れて逃げますよ」


ザイドリッツの言葉通り、どこからともなく地鳴りが聞こえてくる。

見ると、町のほうからもうもうと土煙が上がっている。

土煙の正体はバーサーカーアントの群れだ。


どこから?いや、ザイドリッツはなぜバーサーカーアントが来ることを知っていた?

ザイドリッツは戸惑う俺とダスティンを掴む。

周囲に黒い霧が立ち込め、気づいた時には見覚えのない草原にいた。


目の前にはバーサーカーアントの群れも、リアムもいない。

そこにいるのは、ダスティンとザイドリッツ、そして傷だらけのジルガだけだった。

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