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69話 元勇者と大賢者出会う

今から数時間前、元勇者一行は王都アステラに到着していた。


《イゴールside》


アステラに到着した。

分岐地点以降、冒険者や騎士団に遭遇することはなかった。

ジルガに発作が起きないか心配ではあったが、ジルガも落ち着いている。

さて、これからどうするつもりなんだ…。


「アステラ…懐かしいなぁ。ここで国王から勇者の称号をはく奪されたっけなぁ。

思い出したらムカついてきたぜ、魔道具を探し出すついでに国王も殺してやるか。

そういや、ハティのやろうもここにいたな。あいつにも復讐してやらねえと」


ジルガはそう言うと、にたぁっと不気味な笑みを浮かべた。


ハティ…覚えている。一度クエストを失敗した後に加入したメンバーの1人だ。

俺たちが王都を追放されるときに、なぜか国王の横に彼女はいたのだ。

あの状況からすると、きっと国王の側近か、もしくは王宮付きの専属魔導士なのだろう。


国王と王宮付きの専属魔導士を殺す…今のジルガならそれも可能かもしれない。

しかし、ここは王都アステラだ。オルレンフィアとは戦力が違う。

正面から突っ込んでも、被害は大きくなるし、なにより俺の身も無事では済まないかもしれない。


「ジ、ジルガ…俺に考えが、あるんだが…」


「ああん、言ってみろ」


「ザイドリッツの話では、アステラのどこかに魔道具があるとのことだ。

最も可能性が高いのは王宮内のどこかだ。

まずは俺が王宮内に入り込み、魔道具を見つけてくる。

暴れるのは、それからでも遅くはないだろう」


ジルガはやや不機嫌そうに俺の話を聞いていた。

そして、舌打ちをしつつ言う。


「チッ、どのみち邪魔するやつは皆殺しなんだ。なんでそんな面倒なことをしなきゃならねえんだよ」


俺は考えをめぐらす。

自分の身が危険にさらされることなく、なるべく穏便に事が運ぶような方法を必死で模索する。


「俺たちがオルレンフィアを襲撃し、魔道具を持ち去ったことは情報として流れているはずだ。

やみくもに暴れて、魔道具を隠されたら…いや、破壊でもされたらどうする」


それに、俺が魔道具をジルガよりも先に見つけられれば…最悪自分で身に着けてしまえば、今後、ジルガに怯えなくても済むかもしれない。


「イゴール、てめえ、俺のやり方に納得いかねえってんだな…」


ジルガが剣に手をかけた。

殺される…瞬間、俺の身体は硬直した。

しかし、剣が抜かれることはなかった。


目の前にはローブで全身を覆った男、ザイドリッツが立っていた。

こいつは、いつも突然現れ、消えるようにいなくなる。

どうなってるんだ…不気味だ。

俺はこの男が怖い、ジルガとは違った恐怖心を抱いているのだ。


「ジルガさん、イゴールさんの意見に私も賛成です。まずは、魔道具を集めることが最優先、そのためにイゴールさんとダスティンさんに動いてもらいましょう」


………………


そして俺は今、王宮への入り口で兵士と向き合っている。


「俺はイゴール、冒険者だ。王都の入り口で騒ぎが起きている、急ぎ兵を回してほしい」


「我々は国王様の指示で動いている、お前の指示を聞くことはできん。

お前も冒険者なら、自分で行って、騒ぎを鎮圧するくらいの度量を示したらどうだ?」


やはり、ただの冒険者が進言したところで、兵士たちは動かないか。

王宮内の兵士を減らしてから忍び込みたかったが、仕方ない。


「いや、俺は、王宮内にいるハティ…ハティ・ルルメリアに呼び出されているんだ。

緊急の用事で、急ぎ来るようにと」


兵士は眉をひそめた。


「こんな時間に、ハティ様が?」


兵士の反応からするに、やはりハティは、この王宮内にいる。

魔道具を探しながら、彼女に危険を知らせ逃がすのだ。

旅をしていた頃の義理もあるしな。


ふと、王宮のほうを見ると、見慣れたローブ姿の女が見えた。

リリアだった。

彼女はここに逃げ込んでいたのか。

呼び止めようとする俺を無視し、彼女は走り去ろうとしている。

マズイ、そっちの方向にはジルガが待機している。


「リリア、そっちには行くな!正面は囮だ、戻ってこい!」


しかし、彼女は、俺の言葉に耳を貸すことなく暗闇に消えていった。



《アルクside》


町の入り口が騒がしくて僕は、宿屋を出た。

リアムさんには戦うなとは言われたけど、様子を見るなとは言われていない。

しかし、僕が入り口にたどり着いた時には、犯人は逃走していた。


衛兵は入り口付近や町の外を探している。

僕も一応、見回りだけでもしておこうかな。

もし犯人を見つけても、戦わないで、衛兵に知らせればいいだけだしね。


そして、衛兵たちとは真逆の路地裏を1人歩いている。

どこからともなく、規則正しいリズムを刻む物音が聞こえてくる。

物音とともに聞こえる、艶やかな吐息交じりの声は女性のものだろうか。

建物に反響し、正確な位置がつかめない。


しばらく、周囲を歩いたけど、どうやら物音はこの角を曲がったところからみたいだ。

角を曲がった僕が目にしたのは、1人の女性に群がる2人の男。

周囲に漂うオスのにおいに僕は鼻を押さえた。

見ると、女性は意識を失っているように見えた。


王都では見かけない装備を身にまとった男たち。

バカでもわかる、あいつらが襲撃犯だろう。

それが寄ってたかって、女性を襲っている。

リアムさん、僕はあなたの指示に背きます。


「こんばんわ、男2人で1人の女性を襲って楽しいですか?さては、あなたたち…ただのクズですね」


僕の言葉に1人の男が振り向いた。

しかし、女性を襲っている本人は、変わらず女性に覆いかぶさったままだ。

その光景に、どこか違和感を感じたが、それよりも、目の前の男。


全身からむせ返るような血のにおいを漂わせた、漆黒の剣を持つ剣士。

あいつは強い、リアムさんの言う通り、僕では勝てないかもしれない。

でも、ここで見て見ぬフリはできない、したくない。


「瞬息の太刀、無斬」


僕は女性に覆いかぶさる男に瞬息の太刀を平打ちで放つ。

男を弾き飛ばし、女性に視線を向けるが、やはり意識がない。

どれだけ蹂躙すれば、こんなになるっていうんだ。


「僕はアルク・レインジーク、リアムさんに代わり、あなたたちを斬る」


「リアム、そうか…てめえはリアムの仲間か…じゃあ、生かしておくわけにはいかねえな」


男の表情が変わった。殺気が一気に強くなる。

男が剣を抜き、一足飛びに僕との距離を詰める。

僕の剣と男の剣が、互いの急所に向かって放たれた。


………………


「さすがはリアムの仲間といったところか、ここまで弱いとは」


男は剣を僕に突き付け、あざ笑うかのように言った。

相手は強かった、いや、強すぎた。

一撃入れることはおろか、ほとんど相手にならない。


しかも、この男はまだ全力じゃない、その証拠に僕の傷は浅いのだ。

深手を負わせようとすれば、いくらでもできるのに、手を抜かれ、いたぶられた。

徐々に体力を奪われ、もう剣を振る力もない。

やつが剣を振り下ろせば僕は死ぬだろう。


僕は最後の力を振り絞り、左手を天に向けて伸ばした。

そして、血流の流れを強くイメージする。

リアムさんに教えてもらったコツを思い出す。


「ウォーターボール!」


僕の手から、勢いよく水弾が天に向かって発射された。


「なんだそりゃ、俺に向かって打てば、傷をつけることはできなくても、濡らすことくらいはできたもんなのによ。

まあいい、てめえは死ね」


男の剣が僕の首めがけて振り抜かれる。

僕は自分の最後を悟り、静かに目を閉じた。


ガキィィィィン


乾いた音がして、目を開けると、軽装ともいえる装備を身にまとった1人の男が僕の前に立っていた。


「久しぶりだな、ジルガ。ここからは俺が相手をしよう」

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