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63話 その頃、ジルガ元勇者パーティー御一行様はというと…⑨

オルレンフィア郊外の草原、そこに2人の男が向き合って立っている。

1人は魔導士風のローブに身を包み、立派な杖を持っている男、ナイルトン。

もう1人は、全身を返り血で赤く染め、不気味な笑みを浮かべながら剣を持つ男、ジルガ。

少し離れたところに、もう2人。イゴールとダスティンである。



《イゴールside》


意外にもジルガは落ち着いているように見えた。

獲物とみるや、すぐに切りかかる男が、冷静に目の前の男と向き合っている。

あの、ナイルトンという男…それほどの相手だというのか。


俺は一縷の望みを抱いた。

もしかしたら、あの男ならジルガの暴走を止められるかもしれない。

ふと、隣にいるダスティンに視線を向ける。

ダスティンも静かに2人を見ていた。

きっとこいつも、俺と同じことを考えているはずだ。


ジルガの暴走を止められるのであれば、俺だって魔道具なんかに頼りたくはない。

できれば、そんなものに頼らないで、ジルガに正気を取り戻してほしい。

俺たちなら、魔道具なんかに頼らなくてもうまくやっていけるはずなんだ。

俺は、内心でナイルトンを応援していた。


ナイルトンが杖を構えた瞬間、目の前に爆炎が巻き起こった。

さらに雷が落ち、雷鳴が響いたと思ったら、地面が隆起し、周囲を暴風雨が包む。

次々と放たれる魔法を、俺とダスティンは、ただただ見ていた。

しかし、身体を支配している恐怖が消えることはない。

ジルガはこの程度では倒せない、そう思っていた。


次の瞬間、目の前の魔法が全て霧散した。

ナイルトンも目を見開いたまま硬直している。

彼の視線の先には絶望が、不気味な笑みを浮かべて立っている。


あれほどの魔法を受けてなお、無傷だった。

いや、足元の地面はキレイなままだ…切ったというのか、魔法を!?


「終わりか?たいしたことなかったな…」


ジルガが言葉を放った瞬間、周囲に鮮血が飛び散り、ナイルトンの杖が腕ごと宙を舞った。

そこから先は、一方的な勝負だった。勝負…いや、ただの蹂躙だった。

ダメだった、ギルドをひとつ治めるほどの強者ですら、ジルガを止めることはできなかったのだ。


俺とダスティンは絶望と恐怖の中、ジルガに指示されるまま、瀕死のナイルトンを引きずり、ギルドに戻ってきた。

そして、最奥の部屋。

2人の女性が、かくまわれている結界の前までたどり着いた。


「結界を解け」


ジルガはナイルトンに冷たく言い放つ。

彼は一瞬、身震いをしてから結界のほうを眺める。


「結界は…解きます。でも、彼女たちは…彼女たちだけは、見逃してください」


男は震えながらに言った。

次の瞬間、彼の足に剣が突き立てられる。

うぐっ、といううめき声とともに足元に血の池が作られる。


「早くしないと、あの女たちごと結界を破壊するぞ」


ジルガの言葉には、それが可能であると信じさせるには十分な力がこもっていた。

ナイルトンは残った片方の腕を結界に向け、何かを唱えた。

キィン、という音を立て、目の前で何かが崩れた。


結界の奥には、重厚な扉。

ジルガはおもむろにその扉に剣を向け、乱暴に切り開いた。

中には、腕輪が小さな結界の中に保管されていた。

その腕輪は魔剣と同じような禍々しいオーラのようなものを漂わせていた。

一目見ればわかる、あれが魔道具だ。


あれを俺たちが手にすれば、ジルガをコントロールすることができる。

しかし、腕輪が俺たちの手に渡ることはなかった。

ジルガは腕輪をつけ、俺たちに向き直る。

不思議と穏やかな表情に見えた、邪悪な気配は残しつつも殺気は消えているのだ。


「ああ、そんな…腕輪が、もう、ダメだ…」


ダスティンは力なくうなだれた。

ジルガは、そんなダスティンの頭に手を置いた。


「どうした、ダスティン?そんなに俺さまが怖いか?それとも俺さまに仕えるのがイヤになったか?まあいい、それなら何も考えなくて済むようにしてやるよ」


「ひっ、ジルガさん、待って!やめて!なんでも言うこと聞きますから!助けて!」


「なんでも言うことを聞く?好都合じゃねえか!俺さまの忠実な下僕にしてやるよ!」


ダスティンを掴む手から、怪しげな光が放たれる。

おかしい、ジルガに魔法は使えないはずだ。

困惑する俺の横で、ダスティンは力なくその場に倒れた。


「起きろ、ダスティン」


「…はい」


身体を起こしたダスティンを見ると、その目からは光は失われていた。

それどころか生気も感じられない、なんだ?ジルガはいったい何をしたんだ?


「おっと、魔力を込めすぎて自我まで消しちまったか」


「ジ…ジルガ、いったい何をしたんだ?」


「俺さまの魔力を流し込み、俺さまの命令には逆らえない忠実な奴隷にしてやったんだよ。少しばかり加減を間違えて、自我まで消しちまったが。イゴール、お前の自我は残しといてやるから安心しろ」


そう言うと、ジルガは不気味な笑みを浮かべながら、俺のほうに手を伸ばす。

もうダメだ、俺もダスティンのようにされてしまう。こんなことなら、リリアと逃げていれば良かった。

記憶が走馬灯のように流れていく、思い出すのはリアムやリリアとともに旅をしていた頃の記憶だった。


「ジルガさんお待ちください、イゴールさんにはまだ使い道もある。奴隷にするには気が早いのでは?」


突然、背後から声がして、ジルガは動きを止めた。

振り返った先にはザイドリッツが立っている。


「なんだ、てめえか、ザイドリッツ。てめえも邪魔するなら、切り刻んでやるぞ」


ジルガは不機嫌そうに言うと俺に伸ばした手を引っ込めた。


「いやいや、邪魔をするつもりはないですよ。ただ、ジルガさんの命令がなくても、自分で考え行動する駒も、手元に置いておいたほうが良いと思いましてね」


「チッ」


「無事に腕輪を見つけることができたようですね。今まででは考えられないほどの魔力でしょう。どうです?リアムさんへの復讐に向けて、あといくつかの魔道具を探してみては?」


「ほう、まだ魔道具があるのか?どこにある?」


「いえ、それは私ではなく、そこに転がっているギルド長のほうが詳しいですよ。私は、ただ助言をしに来ただけですので…では、これで」


そう言うと、ザイドリッツは闇に紛れるように消えていった。

ジルガはそれを見送ると、地面に転がるナイルトンに視線を落とした。


「答えろ、魔道具はどこにある?」


それから、ナイルトンと受付の女性2人に対するジルガの拷問が始まったのである。

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