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61.5話 アイラの修行、拳王ウーズ

アールステラトーン大陸の最南東に位置する周囲を山に囲まれた森。

そこにアイラの姿があった。

オーペルを出て数か月、海を越え、森を抜け、山と谷を越えてたどり着いた、その場所には、エルジェイドから聞いた人物がいるのだ。


その者の名はウーズ。

鍛えられた肉体のみで、七大強王に数えられる男。


そして、アイラは今、無心の間と呼ばれる鍛錬場の中央に立っている。

正面の奥には座禅を組む拳王。



「われの名はアイラ、ここで修行をつけてもらいたい」


しかし、拳王ウーズは微動だにしない。

座禅を組んだまま、目を閉じている。

そのまま、数分が経過した。

アイラは気が長いほうではない、なんの応答もない相手にイラ立ちを感じていた。


「チッ」


イラ立ちをあらわにするかのように無意識に舌打ちをした。

このままではらちが明かない。

今、無理矢理にでも襲い掛かれば、いくら拳王と言えど、無視はできまい。

そう考え、視線を拳王に向けたとき、正面の拳王が動いた。


「俺がウーズだ、拳王などと呼ばれているが、俺は弟子は取らん主義だ……ん?」


拳王はアイラの姿を見て目を丸くした。

なんだ、われの顔に何かついているのかとアイラは小首をかしげる。


「お前、修行をつけろと言ったな?」


「うむ、われは強くならねばならぬ。そのためにはおぬしの力が必要じゃ、よろしく頼む」


アイラの言葉に男は大仰にうなずき、そして言い放った。


「そうか。お前にはその覚悟があるのだな?俺の妻になる覚悟が!」


アイラは一瞬反応ができなかった。

何か不吉なことを言われた気がした。

困惑するアイラに、男はもう一度、大音声で言い放つ。


「俺に稽古を求めるということは、俺の妻になる覚悟があるということでいいんだな?」


「いいわけなかろう、誰がおぬしの妻になぞなるか!」


「んなっ!?」


ウーズは上体を反らし、半歩後ろに下がりながら、うろたえている。

アイラの返事に、かなり動揺しているらしい。

こやつはバカか、初対面で妻になどなろうはずもなかろうにとアイラはため息を吐いた。


「しかし、稽古をつけてほしいんだろう?」


「うむ、よろしく頼む」


「ならば、わが妻に…」


「断る!」


「うおぉぉぉ、なぜだ?お前は俺から拳王の技を盗もうとしているにもかからず、俺には何の見返りも寄こさないというのか!」


なんだというのだ、この男は。これが名高い拳王だというのかとアイラは頭を抱えた。


「ならばせめて、一度だけ。なっ?一度だけならいいだろう?一度だけでいいから抱かせてくれ」


「断る!」


アイラの言葉に、男は地面に這いつくばった。

この男、世間では七大強王などと言われているが、ただのスケベなだけではないか。

こんな男が本当に強いのか。スケベなだけで誰も相手にせんから、負けたことがないというだけではないのか。

アイラがそんなことを考えていると、這いつくばったままの男は力なく話し出す。


「俺には5人の弟子もとい妻がいたんだ。みんな才能にあふれ、真面目だったこともあり、すぐに強くなった。そして拳聖の称号を与えたんだ。それなのに、彼女たちは出ていった。そうだ、彼女たちは俺から拳王の技を盗むために妻になるなどと俺をダマしたのだ」


本当にそうなのか?

ただ単に、女とみるや抱くことしか考えん変態に愛想をつかしただけな気もするがの…と考えるアイラに男は続ける。


「俺の何が不満なんだ!?髪型か?やはり、サラサラのフサフサな髪型がいいのか…」


アイラは男の頭を見た。

きれいに磨かれたようなハゲ頭、キラリと光を反射するその頭にアイラも一瞬目がくらむ。

髪型は主さまのような清潔感のある髪型が良いのう。まあ、頭だけの問題でもないだろうが…と考えるアイラを無視し男は続ける。


「それとも顔か!?目鼻立ちの整った顔がウケるのか…」


アイラは先ほど見たばかりのウーズの顔を思い浮かべた。

目が開いているのかと疑いたくなるような細い目、潰れた鼻、お世辞にも美形とは言い難い見た目であった。

顔も、やはり主さまの顔がわれは好みじゃな。リアムのことを思い浮かべ、ややニヤけるアイラに男は続ける。


「それとも性格か!?もっと控えめな性格のほうが良いというのか…」


性格というか、ただのスケベだからの…とアイラは内心で呆れていた。

その点、主さまは女を立ててくれる。われらの意見に耳を傾ける広い器を持っている。


そう考えるとリアムが、いかに自分にとって理想の男であったかを思い知らされる。

早く強くなって、主さまの横に並び立てるようにならねば。

一瞬にしてアイラの中に焦りが生まれた。こんなことをしている場合ではない、早く稽古をと。

そして焦りは、そのまま言葉となって、男に浴びせられた。


「おぬしが女にモテんことなどどうでも良い。早く稽古をつけてくれんか?われは強くなって、主さまのもとに帰らねばならんのだ」


その言葉に男は這いつくばったままの状態で、少しだけ身を震わせた。

次の瞬間、全身から湯気が立ち上るかの如く、殺気が放たれた。

深くゆっくりと呼吸しながら、静かに立ち上がる。

振り返った男の顔は、先ほどとは違い、目は見開かれ、歯を食いしばり、まるでオーガのそれと同じ顔をしている。


アイラは悟った、なにかこの男を怒らせることを自分は言ってしまったのだと。

だが、好都合だとも考えた。

ここで、こやつ本人に自分の力を示せば、稽古をつけてもらえるのではないかと考えた。

七大強王の実力…まさに未知の領域。

アイラは全神経を集中し、身構える。


次の瞬間、視界から男が消えた。

戦慄を覚え、とっさにステップバックする。


ブォン

という、凄まじい風切り音とともに、今さっきまで自分の顔があったところを何かが高速で通過する。

見ると、先ほどまで、広間の奥にいたはずの男が目の前に立っている。

ふと、目に映る男の姿がブレた。


アイラの目はその動きを捉えていた。

野生で鍛えられた動体視力が、高速で動こうとする男の初期動作を見逃さなかった。

蹴りが自分の足めがけて飛んでくる。

アイラは小さく飛び、その蹴りをかわした。


次の瞬間、アイラの腹部を強い衝撃が襲い、高速で後方に吹き飛ばされた。

見ると、男は蹴りを放った動作のまま反動を利用し、次の蹴りを放っていたのだ。

アイラは鍛錬場の外の木々をなぎ倒し、しばらくして地面に落ちた。


アイラは思う…面白い、いつか必ず一撃を叩きこみ、意地でも稽古をつけさせてやると。


その後、この問答は幾度となく繰り返され、アイラが拳王に稽古をつけてもらえるようになるのは、今から約1年後のことである。

第三章「ルーナ・アルシノエ編」完結です。

次から第四章「元勇者闇堕ち編」となります。


主人公を追放した元勇者様に焦点を当てて書いていこうと思います。


今後もお付き合いいただけると幸いです。


数ある小説の中から、この小説をお読みいただき、ありがとうございます。

また、ブックマークや作品への評価をしていただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。


引き続き頑張っていきますので、

下にある☆☆☆☆☆から評価、作品への応援を、どうかよろしくお願いします。


星をクリックしてもらえるだけでうれしいです。


ブックマークもしてもらえると、本当にうれしいです。


作者の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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