57話 リアムとの共同研究とアルクの協力
「はじめまして、僕はアルクといいます。ここにリアムさんが来ていたと思うんですが、もう帰っちゃいましたか?」
金髪の青年はニコニコしながら私たちに問いかけた。
そして、次の瞬間、驚いた顔で私を指さした。
「あっ、さっきリアムさんが助けたって言ってた人だ!あなたはここで働いていたんですね」
指をさされ、ちょっとムッとしたが、私は気を取り戻した。
彼の笑顔を見ていると、彼に悪気がないのが伝わってくるからだ。
「はい、先ほどは失礼しました。それで、あの突然なんですけど、アルクさん、私に協力してくれませんか?」
私の話にアルクさんは笑顔のままうなずいた。
それを見て、私はフードと口をおおっていた布を外す。
「私の名前はルーナ・アルシノエ。リアム様のパーティーメンバーで、転移トラップによって飛ばされ、今の状況にあります」
青年は目を丸くしている。
一度下げた手で、また私を指さし、口をパクパクとしている。
声も出ないほど驚いているらしい。
しかし彼は、少しして我に返った様子で足早に私に歩み寄る。
そして、私の両手を彼の両手が優しく包み込んだ。
「あなたがルーナさんですね、良かった。リアムさんも喜びますよ。ん?でも、リアムさんは、ここに来ているわけだから、もうルーナさんが無事だっていうことには気づいているのか?」
彼は小首をかしげている。
そこで私は、ここでのリアム様との会話の内容を話した。
そして自分がルーナであると言い出せずにいることも。
彼は私の話を静かに聞いてくれた。
そして優しく言った。
「リアムさんがルーナさんを忘れてるなんてことはありませんよ。勇気を出して会いに行きましょうよ」
青年はそう言い、私に優しい笑顔を向けてきた。
「でも、もし、忘れられていたら。もし、私よりも今はアイラちゃんだと言われたらと思うと、どうしても言い出せなくて」
青年は困った顔で考え込んでいる。
そして、静かに口を開いた。
「分かりました、ルーナさんがリアムさんに自分から言い出せるように影ながら協力させてもらいますよ」
「あ、ありがとうございます」
今度は私のほうから、彼の両手を包み込み、何度もお礼を言った。
《アルクside》
リアムさんのパーティーメンバーだったルーナさんを見つけた。
リアムさんが話している通り、とてもキレイな人だったな。
あんな人とずっと旅ができるなんて、リアムさんが羨ましい。
でも、リアムさんから聞いてた話と少し違ったな。
髪の長さかな、だいぶ短くなっていた気がする…話では背中まで伸びる長い髪って言ってたと思ったけど、肩よりも上で切りそろえられていたし。
それだけで、リアムさんが気づかないとは思えないけど、言い出せなかったとも言っていたし、きっとフードと口布で顔を隠してたんだろう。
でも、どうやってルーナさんがリアムさんに正体を明かす手伝いをしよう。
どうせなら、感動的なものにして、リアムさんを驚かせたいんだよな。
どうしたものか…。
そんなことを考えながら、宿屋の自室の扉を開ける。
目の前にはリアムさんとエルジェイドさんが向かい合っている。
忘れていた、この2人はアイラさんの件で揉めている最中だった。
しかし、彼らの雰囲気は悪くない、きっと和解しているんだ。
「あっ、お二人とも帰ってたんですね。喧嘩もしてない様子だし、よかったよかった」
僕がうなずきながらそう言うと、2人は苦笑を浮かべていた。
そして、リアムさんから治療院での出来事を聞かされた。
内容は、治療をするか、研究に手を貸すかということ。
僕の答えは決まっている、研究に手を貸すことだ。
でも、もう1人、ソフィリアさんを捜索するなら、すぐに治療を済ませたほうがいい。
そして、リアムさんは間違いなく、すぐに治療することを選ぶだろう。
彼のソフィリアさんに対する感情は、憧れ以外の強い感情を感じる。
どうやって、研究に手を貸すように仕向けるか…。
「お前は治療に専念しろ。方法は何でも構わん。お前が治療にあたっている間は、俺が大陸を渡り、お前の仲間を探そう」
口を開いたのはエルジェイドさんだった。
彼は治療に専念できるように自分が捜索に出るという。
これだ!さすが、エルジェイドさん、男前の代表みたいな人だ。
リアムさんは一瞬目を丸くしていたけど、すぐに考え始めている。
もう一押し!
「その研究に力を貸してはどうですか?左腕を再生するにしろ、研究がうまくいけば、こちらとしてもメリットはありますし、捜索のほうはひとまずエルジェイドさんに任せてもいいとは思いますよ」
俺の言葉を受け、リアムさんはさらに悩んでしまった。
そこは、わかったって言って治療すると決心するところですよ、リアムさん!
その後、さらにエルジェイドさんが進言して、捜索をエルジェイドさんに任せ、リアムさんは治療に専念することになった。
2人の間に何があったのかは分からないけど、なにか友情のようなものを感じた気がした。
翌日、僕はリアムさんと一緒に治療院に行くことにした。
何かあれば、ルーナさんをフォローするつもりだし、チャンスがあれば正体を明かす手伝いもできると思ってのことだ。
治療院にて、僕らはイリーニャさんとルーナさんと向き合っている。
そしてリアムさんの研究への協力が決まった。
途中、リアムさんの一言にルーナさんが落ち込んでしまう場面もあったが、なんとかいい方向で話がまとまった。
リアムさんは、もう少し女心を勉強しましょうよと思うのは本人には内緒だ。
実際には傷の観察と、魔法陣の作成・実験、遺跡の調査が主なようだ。
傷の観察と魔法陣に関しては、僕は必要ないだろう。
僕が必要になるとすれば遺跡の探索だ。
そこで、リアムさんとルーナさんの関係を進展させるんだ。
任せてください、ルーナさん。僕はやればできる子ですよ!
そして、その日からリアムさんとルーナさんの研究が始まった。




