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55話 再会とすれ違い

研究開始。

といっても、なにをすればいいのか分からない。

分からないから、ひとまず、イリーニャさんの再生術を観察することから始めた。


イリーニャさんの再生術は魔法陣を使用するものだった。

対象者に魔法陣の中に入ってもらい、術者は魔法陣の外から魔力を込める。

そうして魔法陣が光を放ち、欠損部位が再生する。


治療後の対象者は、その再生治療の代償が寿命であるためか、酷い疲労感に襲われている様子だった。

そのため、再生治療後は数時間、治療院で安静にしてから様子を見て治療終了となる。

これが、自分の寿命を犠牲にした場合の治療方法。


他には対象者の魔力を使用する方法があるが、これについても見たことがある。

手順としては、寿命を犠牲にするときとほとんど変わらない。

違うのは、魔法陣の形と大きさ。


魔力を使用する治療法では、小さな紙に書かれた魔法陣をそれぞれの切断面に貼り付け、魔力を込める。

そうすることで魔法陣同士が互いに結びつき、切断面は結合し、何事もなかったかのように腕が治るのだ。


その様子を何度も観察した、何度も、何度もだ…そして私は思いついた。

2つの魔法陣を合体させてみるのはどうだろうと。

それぞれの良さを残しつつ、新たな魔法陣を作る。

その魔法陣を試験的に魔物に使用し効果を検証する。

これだ!そう思った。


その日から私は机に向かい、魔法陣の作成に取り掛かった。

そして半年ほどで完成した魔法陣で、他者の寿命を犠牲にすることで対象者の部位を再生させることに成功した。

革命的だった。

それまで、治療を諦めていた金持ちたちは奴隷を使い、こぞって治療に訪れた。


私はこの技術を国全体に伝え、国からは恩賞をもらうこととなった。

しかし私は、それに満足はしていなかった。

例えケガをしてから長い月日が経っていようとも、寿命の代わりに魔力を消費し、再生させること…それこそが私の目標だったからだ。

リアム様の魔力は常人のそれをはるかに凌ぐ、その膨大な魔力を利用しない手はない。


しかしというか、やはりというか、その研究は遅々として進まなかった。


そんなある日、路地を歩いていると男に声をかけられた。

抵抗すると、連れ去られそうになった…昔の奴隷商に捕まった時のことを思い出す。

急に怖くなり、身体が硬直する。

怖い、イヤ、誰か助けて…。


そんな時、彼は唐突に現れた。

私の背後から来た彼は、私に乱暴しようとした男をあっさりと追い払った。

振り返り、彼の顔を見た瞬間、私は心臓が止まるかと思った。


その青年の顔は見覚えがある、キレイに整った目鼻立ち、強者の風格を纏いつつも決して他を威圧することなく、視線は油断なく周囲を警戒しているにもかかわらず、優しい印象を受ける彼の顔は、長い間、私が追い求めている人のものだった。

鉄製の剣に皮の鎧、獣のコート…以前と何も変わらない。

変わったのは、少し髪が伸びたくらいか…それもまたワイルドでカッコイイ。


感動の再会だ。

出会った時も奴隷商から救ってもらった、そして今回も暴漢から助けてもらった。

私を助けてくれる私の王子様。

私は感動の再会を喜ぶべく、リアム様に声をかけようとした。


「あ、ありがとうございました。あの、リア…」


「いたいた!探しましたよ、リアムさん!」


しかし、私の声は、さらに背後から来る何者かの声によってかき消された。

リアム様の背後から現れたのは、金髪のやや軽薄そうな笑顔が印象的な青年。

私やリアム様よりも少し年下だろうか、まだ少年のようなあどけなさを残している。

その彼が問いかける。


「もしかしてお知合いですか?」


先ほどは感動の再会の機会を逃したが、今度こそ互いの再会を喜ぶチャンスだ。

ここで名前を打ち明けて、抱きついて、抱きしめられて、そして彼の宿に一緒に行き、同じ部屋に泊まり、同じベッドで互いの感触を確かめ合うのだ…えへへ。

そんな私の妄想は、リアム様の一言で一瞬で霧散した。


「いや、初めて会った人だ。変な輩に絡まれていたところだったんだ。アルクはどうした、なにを慌てている?」


えっ!?………えぇーーーー???

初めて会った人?なんで?私忘れられてる??

そんな……リアム様にとって私はその程度の存在だったの……?

いや、違う。もしかしたら目の前の彼はリアム様じゃないんだ、私の勘違いだ。

こんなカッコイイ人、リアム様以外にいないと思うけど、でもきっとそうだ、私の勘違い。


しかし、私のその考えは金髪の青年によって、すぐに間違いだと思い知らされる。


「えっ、どうしたって…リアムさんが俺を置いて、アイラさんを追いかけて行っちゃうんじゃないかと思って、慌てて探したんですよ」


「えっ!?」


私はおもわず声をあげてしまった。

リアム様に忘れられていたことよりも、アイラちゃんと先に合流し、そしてアイラちゃんと別れた。

そのことが、私を混乱させ、思わず声をあげる結果となったのだ。


そして、私は混乱したままの頭で考える。

金髪の青年の口から出た名前、リアム、そしてアイラ、この2つを私は知っている。

そして、その名前が出てきたということは、目の前のカッコイイ青年がリアムであると証明することとなった。

ってことは、やっぱりリアム様に忘れられているの??


そこまで考え、私は2人の視線が自分に向けられていることに気づいた。


「あっ、いえ、その…すみません。助けてくれて、ありがとうございました。では、私はこれで」


私はとっさにそれだけ伝えて、足早にその場を去ることにした。

リアム様に忘れられていた。私が、ずっと追い求め、想い続け、愛してやまない唯一の彼に、忘れられていた。

これは…立ち直れないかもしれない。私は自分の部屋に戻り、泣いた。

ベッドに顔をうずめ、大声をあげて泣いた。


《イリーニャside》


ルーナが帰ってくるなり、部屋に閉じこもっている。

ドアに耳を近づけると、どうやら泣いているらしい。

泣いていることは知っていた、治療院に入ってきたときには、その顔はすでに涙で濡れていたからだ。


しかし、なんで泣いているのかは分からない。

今日は珍しく、研究室には行かず、町に出ていったのを覚えている。

そうか、研究に行き詰まり、悩んでいるんだね。

まだ若いんだから、そんなに思いつめなくてもいいとは思うんだが。

どれ、ひとつ相談でも乗ってやろうかね。


そう思い、彼女の話を聞くとあたしの考えが間違えていたことに気づかされた。

彼女は研究に行き詰って悩んでいたのではないのだ。

彼女から前に聞いた、治療したい相手…彼女が愛してやまない相手と町で会ったという。

それだけならいい、悩むことではない。しかし、その彼に忘れられていたというのだ。

そのことで思い悩み、何時間も泣いているのだ。


その気持ちが分からないでもない。

彼のことを思い、彼のために半年間をかけて新たな技術を生み出した。

その技術は革命的で、国も彼女を称えた。

それでも彼女は慢心せず、日々研究に励んでいる。

それは、ただ1人、彼のためを思ってのことだ。


その彼に忘れられていた、そんな彼女の気持ちは分かる…が、たぶんあたしの想像よりもはるかにツライものだろう。

あたしには彼女を励ましてやる言葉がなかった。

治癒術師として、多くの人々を癒してきたあたしがだ。

あたしはただ、彼女を優しく抱きしめ、頭をなでてやることしかできなかった。


そこであたしはあることに気づいた。ルーナの格好である。

彼女は治療院の手伝いをしているため、普段はローブ姿でフードをかぶり、口元は布で覆っている。

これでは遠目には誰が誰だか分からないかもしれない。

何度も彼女を見ている者なら分かるかもしれないが、初対面で彼女を判別するのは不可能。


そう考え彼女に聞くと、彼女は目を丸くした。

どうやら、自分の格好について失念していたらしい。

次はちゃんと正体を明かして、話をすれば大丈夫さと言ってやると、彼女は目を潤ませながら見上げてきた。

こんなに可愛い子を泣かすなんて、リアムとかいう青年は罪な奴だね、まったく。


そんな時、受付をしている子に客人だと声をかけられる。

今は休憩時間だってのにまったく。

そんなことを思いながら、ルーナの身支度を整え、あたしとルーナは応接室に向かった。

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