50話 拉致監禁
気が付くと私は森の中にいた。
訳が分からなかった。
最後の記憶は、遺跡の中で、突然白い光に飲み込まれて……。
そこで私は愕然とした、文献で読んだことがある。
絶対に踏んではいけない罠…転移トラップ。
ああ…まさか、自分たちがその罠にかかるなんて。
一瞬にして、言い知れぬ不安を覚える。
転移トラップは、どこに飛ばされるかわからない。
いきなり死ぬことはないと書いてあったし、現に私は生きている。
そして、ここは森…もしかしたら、遺跡からそう遠くないのかもしれない。
遺跡から遠くなければ、リアム様が近くにいるはずだ。
私は光に飲み込まれる寸前に、とっさに帰還玉をリアム様に向かって投げている。
きっと、その効果で、転移トラップに巻き込まれる前に遺跡の外に出ているはずだ。
そうだ、まずはリアム様を探そう。
リアム様が近くにいる、そう考えるだけで不思議と不安は軽減された。
でも、それも長くは続かなかった。
歩き初めて数十分…いや、1時間は経過しただろうか。
周りの木々に見覚えがない、それに加えて、気温や湿度も高い気がする。
もしかしたら、ここは遺跡の近くの森ではないのかもしれない。
もし、そうなら、近くにリアム様はいない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
ガサガサ、バキバキ
突然、周囲から木々の倒れる音、草が激しく揺れる音が鳴り響く。
私は動きを止め、慎重に周囲を警戒する。
音は徐々に近くなり、そして消えた。
しばらくして、ホッと息を吐いた瞬間、目の前に巨大な大蜘蛛が現れた。
私は小さな悲鳴をあげるとともに腰が抜けた。
なんとか逃げようとするが立ち上がれない。
役に立たない両足と両腕の力だけで、身体を引きずり、なんとか後ずさりして蜘蛛との距離をとろうとする。
しかし、大蜘蛛はゆっくりと近づいてくる。
大蜘蛛の口についている鎌がギチギチと音を鳴らしている…まるで早く獲物を切り刻みたいと言わんばかりに。
大蜘蛛と目が合った気がした…8つの目の全てが私を餌として見ている。
逃げられない、もうダメかもしれない。
そう思いながらも、もしかしたらリアム様が助けてくれるのではないかと一縷の望みを抱いている自分もいる。
どうせこのまま食べられるなら、その希望に賭けてみよう。
私は目を閉じ、覚悟を決めた。
「リア……!!」
そして大きく息を吸い、できうるかぎりの大声を出した瞬間、大蜘蛛は飛びかかってきた。
が、大蜘蛛が私を食べることはなかった。
大きな音とともに何かが倒れる音がした。
恐る恐る目を開ける。
目の前にはさっきの大蜘蛛が口を開いている。
「ひぃっ」
小さな悲鳴とともに後ずさりする。
同時に自分の股のあたりから、足にかけて生温かい感触が広がっていく。
しかし、大蜘蛛は動かない。
よく見ると、背中に何本もの矢が突き刺さっている。
助かったの?
そう考えたとき、大蜘蛛の後ろから2人の人影がこちらに近づいてくる。
弓矢を携えた若い男性が2人、この人たちが助けてくれたんだ。
「あの、助けていただいてありがとうございます。私はルーナと言い…」
そう言いながら立ち上がろうとして、自分の足元に生温かい水たまりができているのに気づいた。
急に恥ずかしくなった、顔が熱くなるのが分かる。
私は立ち上がることなく、居ずまいを正して頭を下げた。
「*〇#〇*?#!!?」
えっ?なんて??
何を言ってるか聞き取れない、なんて言っているんだろ。
「えっと、ごめんなさい、なんて言っているかわからなくて」
そう言いながら顔を上げた。
言葉が分からない理由が分かった。
目の前にいる2人の男性は人間じゃない。
ピンと立った立派な耳と、ふさふさの太い尻尾……獣人族だ。
ここは獣人族の領地……たしかガルガルという国があったはず。
私はそこに飛ばされてしまったのか。
「あの、すみません…」
「%!??+*」
「〇+?##*;!!」
2人の獣人の男性は、私のわからない言葉で話している。
この世界で、最も多く存在している種族は人間とされているため、共通言語は人間語だ。
でも、この2人の言葉は理解できない…ということは、彼らが話しているのは獣人語なのかもしれない。
彼らはいぶかしげな顔で私を見下ろし、そして乱暴に私を抱きかかえた。
ものすごい速度で景色が流れていく。
私を抱えた獣人の男は、森の奥へと入っていく。
どれくらい走ったのか、しばらくすると男は立ち止まり、私を乱暴に地面に下ろした。
目の前には見たこともないような大木、周囲には木で作られた家がチラホラ見える。
えっと、ガルガルって獣人の国だったよね。
いくら獣人とはいえ、この家の戸数で国とは到底言えるものではない。
もしかしたら、ここはガルガルじゃないのかな?
そう思っていた私をよそに、男はまた訳の分からない言葉を発している。
先ほどとは違い、耳を塞ぎたくなるような大声だった。
するとしばらくして、上からハシゴのようなものが下ろされる。
男は私を担ぎ上げ、そのハシゴを上る。
ハシゴの上に、先ほどの疑問の答えがあった。
木々の上には足場が組まれ、地上とは比べ物にならないほどの数の建物が、木の上にはあったのだ。
どうやら、地上の建物はダミーで敵襲があった際は、敵の頭上から奇襲をかけられるようになっているらしい。
かつて、異種族と戦争をしていた時の経験が活かされているのだろう。
そんなことを考えていると、私は檻の前に連れていかれた。
そこで、下着以外の服をはぎ取られ、無造作に髪の毛を掴まれる。
「い、痛い!なにを!?」
次の瞬間、男は鷲掴みにしていた私の髪の毛を、手に持ったナイフで切り落とした。
えっ?
一瞬、状況が理解できなかった。
目の前にパラパラと舞い落ちる金色の髪…私の髪。
なんで?私の髪だよね??切られたの!?
気づけば私の目からは大粒の涙がこぼれ落ちている。
そのまま男は私を檻の中に入れ、その場を去っていった。
なぜ、こんなことをされなければならないのか。
そんなことを考えながら、私は夜通し泣いた。
日が昇り、周囲が明るくなってきた時、私は目が覚めた。
どうやら、泣き疲れて寝てしまったらしい。
身体を起こす。
昨日は、気づかなかったが、この檻の作りは簡素なものだった。
全て木造で作られた檻、魔導士ならば火属性魔法で焼き切ることもできてしまう。
しかし、どうやらその対策もされているようだ。
目の前には、ひとりの獣人の男が見張り役として、こちらを見ている。
なるほど、監視役がいれば魔導士も下手に行動はできない。
でも、ちょっとおかしい……あの見張りの人、さっきからニヤニヤしながらこっちを見ている。
たまに舌なめずりしているようだし、気持ち悪い。
そこで私は、自分が下着姿であるということに気づいた。
そうだ、昨日、服を脱がされたんだ。
とっさに私は両手で自分の上半身と下半身をできるだけ隠した。
しかし、男は鼻をヒクつかせ、下品な笑みを浮かべたままだ。
見ると、彼の下半身には立派なテントが張られている。
そして彼は、檻の扉に手をかけた。
ああ、あの男は檻の中に入ってくる。
きっと、あのテントを張っているモノで私を蹂躙するのだろう。
そう考えると急に怖くなった。
なんでこんなことになったんだろう。
ひとつのことが頭に浮かんだ。
それは、昔、旅の合間に女性陣3人で集まって役割分担をしていた時のこと。
私は他の2人、アイラちゃんとソフィリアさんの気持ちを無視して、リアム様を独占しようとした。
そうだ、きっとその罰が当たったのだ。
私は覚悟を決めた。
初めては好きな人と……できればリアム様とと思っていたが叶いそうにない。
しかし、男が檻の中に入ってくることはなかった。
彼の背後から来た別の男が、彼を怒鳴りつけている。
そして、檻の前まで来て、静かに口を開いた。
「お前は、何者だ?」
第三章「ルーナ、アルシノエ編」スタートです。
メインヒロインの1人であるルーナの物語、お楽しみいただけたらと思います。
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