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49話 研究の終わり

俺とルルーシュが研究を始めてから、1年が過ぎていた。

最後の遺跡に入ってからは約3か月といったところか。

俺は正直、焦りを感じていた。

ルルーシュも最近は、診療の時間も研究施設にこもっていることが多いと聞く。

もしかしたら、俺よりもルルーシュのほうが焦っているのかもしれない。


1年間、ルルーシュのそばで研究の様子を見ていたが、ルルーシュはよくやってくれている。

もし、このまま何の成果も出せなかったとしても、俺はルルーシュを責めることはしまい。

あれだけ頑張ってくれたんだから、それで結果が出ないということは、それほど難しい研究ということだ。

感謝はすれど、非難などするものか。


長い月日は、俺に覚悟をさせるには十分だった、もう寿命を犠牲にすることで躊躇などしない。

再生後の経過観察の期間を入れると、次の実験がラストチャンスだ。

今、作成している魔法陣が完成したら、実験が成功しようが失敗しようが腕の治療を開始しよう。


ルルーシュは相変わらず、鬼気迫る表情で魔法陣を書き続けている。

今回の魔法陣は、今までの実験用とは比べ物にならない大きさだ。

ルルーシュもきっと、次が最後のチャンスであると考えているに違いない。

そう思わせるほど、今まで以上に大きく緻密な魔法陣だ。

相変わらず、俺にはなにがなんだかわからないのだが。


そう言えば、アルクとルルーシュの関係を進展させることもできなかった。

それについては、少しホッとしている自分もいる。

本来なら、残念に思わなければならないところだろうに……。


「できた!できましたよ、リアムさん!」


考え事をしている俺にルルーシュは振り返りながら、声をかけてくる。

その表情はどこかやりきったという表情に見えた。

額に汗を浮かべながら、清々しい笑顔を俺に向けている……綺麗だ、なんて美しいのだろうか。

その笑顔を向けられると、俺の心臓は早鐘を打つのだ。


「ああ、大変だったろうによく頑張ってくれた。お疲れ様」


そう言いながら俺はルルーシュの頭を撫でた。

この実験が終わり、治療を始めてしまえば、もう彼女と一緒にいる時間も減るだろう。

そして、治療も終われば、もうお別れだ。

そんなことを考えながら、ゆっくりと頭をなでていると、ルルーシュは顔を赤くしながらも目を閉じ、俺に身をゆだねている。


その姿を見て、なにやら愛おしいものを感じながら、一瞬、胸が苦しくなるのを感じて、俺はルルーシュから離れた。


これから行うのは最後の実験だ。


「今回はいつもと少し違った実験になります」


マッドラットの檻の前でルルーシュは静かに言った。

いつにもまして真剣さが伝わってくる。

それだけ意味のある実験なのだろう。

俺もゴクリとつばをのみ、覚悟を決める。

これが1年間の集大成なのだ。


実験はルルーシュの言葉通り、いつもと違うものだった。

まず、巨大な魔法陣に俺が立つ。

その俺とルルーシュが手をつなぎ、ルルーシュのもう片方の手で、小さな魔法陣を描いた紙をマッドラットに押し当てる。


「リアムさん、私の手に魔力を流し込む要領で魔力を集中してください。マッドラットが光り輝けば実験は成功です」


俺はルルーシュの言葉に静かにうなずき、右手に魔力を集中する。

凄い勢いで魔力が吸いだされる。

足元の魔法陣が薄赤く光り始め、ルルーシュの手にある魔法陣は白い光を放っている。

徐々に吸い出される魔力の量が減っていく。

気づくとマッドラットは白く光り輝いていた。


「やった、やりました!成功です、成功ですよ!」


ルルーシュは飛び跳ねて喜んでいる。

俺も同様に飛び跳ねて喜びたかったが、足に力が入らない。

予想以上に魔力を消費したようだ。

膝が折れる、倒れる寸前、ルルーシュに抱きとめられた。

どこか懐かしい匂いを感じながら、俺は静かに目を閉じた。


頭をなでられている感触、温かい手だ。

後頭部には柔らかく温かい感触。

俺は静かに目を開けた。

目の前にはルルーシュの心配そうな顔がある。

どうやらルルーシュの膝枕で寝ていたようだ。


「すまない、魔力の消費が激しかったみたいだ」


そう言いながら、身体を起こそうとする俺を彼女はゆっくり静止した。


「大丈夫ですか?もう少し休んでいてもいいんですよ」


彼女の声、匂い、手の温もり…そのすべてが俺を安心させた。

俺はもう一度目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をする。


「もう大丈夫だ、ありがとう」


そう言いながら身体を起こす。

ルルーシュは優しい笑顔を俺に向けている。


「実験は成功したんだよな?これで、俺の腕も寿命を減らすことなく治せるということか」


「そうですね、リアムさんの寿命を減らさずに治すことができそうです。ただ、今日の実験で分かったのは、寿命の代わりに大量の魔力を消費します。治療の際は、数日は安静にしてもらわなければなりませんが、よろしいですか?」


俺は静かにうなずいた。


「ああ、よろしく頼む」


ルルーシュとの最後の実験から10日ほど経過した。

実験で消費した魔力も回復し、体調も問題ない。

いよいよ、左腕の再生治療の日を迎えた。


治療にはアルクが立ち会うこととなった。

そのほか、施術担当としてルルーシュ、その助手としてイリーニャが控えている。

俺はベッドに横になる、その下の地面には先日実験を成功させた巨大な魔法陣が描かれている。


そして俺の右手はルルーシュとつながれ、彼女のもう片方の手は、小さな魔法陣の描かれた紙とともに俺の左肩に添えられている。


「それでは、左腕の再生治療術を開始します」


イリーニャが静かに言った。

その言葉にルルーシュも静かにうなずく。


「リアムさん、施術中は動かれると危険なので魔法で眠ってもらいます。眠りに落ちる寸前まで、右手に魔力を集中していてください。そうすれば、眠っていても、こちらで魔力を吸い出すことができます」


「わかった、よろしく頼む」


イリーニャとルルーシュは、はい。とうなずく。

俺はアルクのほうへ視線を移す。


「アルク、俺に万が一のことがあったら、エルジェイドとともに俺の仲間を探し出してほしい。アイラはもう知っていると思うが、あと2人。ハイエルフのソフィリアと、人間のルーナだ。特にルーナは戦闘慣れしていない、優先的に探し出してほしい。頼んだぞ」


アルクはいつも通りのニコニコとした表情を崩さずに答える。


「万が一なんてありませんよ。目が覚めたら、無事に左手は再生しているはずですから」


俺はそのまま、目を閉じた。


「ルルーシュ、始めてくれ」

第二章完結です。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次から第三章「ルーナ・アルシノエ編」です。


第三章では、メインヒロインの1人であるルーナの物語を書いていこうと思います。


引き続き、お付き合いいただけると幸いです。


数ある小説の中から、この小説をお読みいただき、ありがとうございます。

また、ブックマークや作品への評価をしていただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。


引き続き頑張っていきますので、

下にある☆☆☆☆☆から評価、作品への応援を、どうかよろしくお願いします。


星をクリックしてもらえるだけでうれしいです。


ブックマークもしてもらえると、本当にうれしいです。


作者の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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