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48話 その頃、ジルガ元勇者パーティー御一行様はというと…➆

《イゴールside》


ジルガは変わってしまった。

あの日、ザイドリッツという男に言われ、魔剣を探し出した、あの日からだ。

魔剣を手にしたジルガに敵はなかった。


ゴーレムの中でもかなりの硬度を誇るミスリルゴーレムや、単体で高ランクの魔物であるヒュドラでさえも、魔剣を手にしたジルガの敵ではなかった。


そして、魔物を切れば切るほど、ジルガは何かを切ることを強く望んでいた。

まるで、魔剣に取りつかれたように…。


「イゴォ~ルゥ、敵はどこだぁ。なにか切らねえと落ち着かねえ」


ジルガの言葉に俺も含め、一同は押し黙る。

始まってしまった…魔剣を手にしてからというもの、一定期間、剣を振るわないとジルガは情緒不安定になってしまう。


最初の頃はなんとか説き伏せたこともあったが、最近では俺たちが何を言っても聞く耳を持たないことが増えた。

酷いときには、リリアを乱暴に犯すことさえあった。

ダスティンも立ち上がれなくなるほど殴られた。

そのたび、リリアは怯え、ダスティンは恐れ、メンバーのジルガを見る目は変わっていった。


もう俺たちでは止められない…いや、俺ならばまだ何とか止められる。

俺が一番付き合いが長いからか、俺がダスティンやリリアに比べ強いからか、俺の言葉にだけは反応してくれている。

しかし、ジルガを満足させることができるのは、敵を切ること、ただそれだけだった。

俺たちはジルガが剣を振るう、そのためだけに討伐依頼を受け、魔物を倒してきた。


今日もまた、ジルガが敵を切るためだけに討伐依頼を受けている。

そして目の前には、大量の魔物…名前はたしかバーサーカーアント。

数にして30はいるだろう、ジルガを取り囲むように円を描いて構えている。


俺とリリア、ダスティンは少し離れたところで待機している。

ジルガの戦闘に巻き込まれないようにというのもあるが、下手に手を出し、ジルガの怒りを買うことを恐れてのことだ。


そして戦闘が始まる。

一撃で複数のバーサーカーアントの頭や足が宙を舞う。

バーサーカーアントも反撃しているが、ジルガは構わずに突っ込む。

最近、ジルガは致命傷になるような攻撃以外は避けなくなった。

その姿は、まさに狂乱の戦士そのものだ。


そして、最後のバーサーカーアントの胴体を真っ二つにし、その返り血を浴びて、ジルガは恍惚とした表情で天を仰いでいる。

おさまったかと安心すると同時に、ジルガのその姿に悪寒を覚える…チラと横にいるリリアとダスティンに視線をやると、やはり2人も、何とも言えない表情でジルガのことを見ていた。


「どうです、今のジルガさんは?昔よりも断然強くなったでしょう?」


突然背後から声がして、俺たち3人は振り返る。

そこには真っ黒いローブに身を包み、フードを目深にかぶった男がいた…声からしてザイドリッツだ。

真っ先に口を開いたのはリリアだった。


「あんた、いったい何なのよ!?あんたのせいでジルガがあんなになっちゃって!あたしたちがどれだけ大変な目にあってるか、わかってんの!!?」


久しぶりに聞くリリアの大音声。

俺とダスティンは思わず耳を押さえた。

しかし、ザイドリッツは平然と答える。


「おや、ジルガさんは強くなりすぎて、少々力の制御ができないようだ。もしよければ、他の方たちも、それぞれ魔道具を身に着けて、ジルガさんと対等になられたらいかがか?対等な者の言葉ならジルガさんも耳を傾けてくれるはずですよ」


たしかに一理ある。

現に、俺の言葉にだけは反応している。

だったら、無理にジルガを押さえつけるのではなく、俺たちも対等な立場になって、彼を制するのがいいだろう。


「その魔道具というやつは、どこにある?」


「ちょっとイゴール!?あんた本気!??」


俺の言葉にリリアは驚きと軽蔑の視線を向けてくる。

そのリリアに視線を向け、静かにうなずいた。

その意味を理解したのか、リリアは視線を落とし黙り込んでしまった。

仕方ない、あとでちゃんと説明するとしよう。

だが、まずはジルガだ、ジルガをコントロールしなければ俺たち全員が危険なのだ。


そうして俺たちはザイドリッツから、新たな魔道具の在りかを教えてもらうのだった。



《ジルガside》


最近、よく夢を見る。

その夢では、俺さまは人々から恐怖され、蔑まれ、誰からも認めてもらえず、もがき苦しんでいる。

その苦痛から抜け出すために、俺さまは剣を振るう。

剣を振り、魔物を殺せば、みんなが俺さまのことを見てくれる、認めてくれるのだ。


目が覚めると、周りには見慣れた顔が並んでいる。

リリア、イゴール、ダスティンだ。

こいつらも、昔とは違った視線を俺に送るようになった。

なぜだ?俺は、この剣を手にしてから強くなった。

周りの人間を見返すのに十分な力を得た。


それにもかかわらず、こいつらの俺を見る目は変わってしまった。

なぜだ?わからない、わからない……。


旅を続けていると、魔物と遭遇しないときも多かった。

しかし、そのたびに頭の中に何者かの声が流れ込むようになった。


「殺せ、憎め、敵を切れ、血を浴びろ……」


この声が聞こえてくると俺さまは理性を失う。

何かを切り殺さなければ気が済まなくなる。

自分ではコントロールできないんだ…これが魔剣の力を得るということなのか。

だが、それで力が得られるなら…リアムに復讐できるなら、願ってもない。

しかし、理性を失った俺に、リリアやイゴール、ダスティンは手を焼いているようだった。


はじめのうちは、自分でもこいつらの言葉に耳を傾けてやることができた。

しかし、今はもう無理だ。


優しくなだめようとしたリリアを押し倒し、服をはぎ取る。

そして、広い草原で、木々がうっそうと生い茂る森で、時には人々が往来する街道で、リリアを何度も犯したこともある。

無理やり股を開かせ、何度も欲望をリリアに打ちつけた…何度も、何度も。

そして、リリアに欲望を吐き出した後は、制止しようとするダスティンを殴る。


そこまでして、ようやく理性を取り戻すことができる。

しかし、なぜかイゴールの声だけは理性を失っていても届いた。

それだけが唯一の救いだ。


そんなある日、イゴールが提案してきた。

どうやら、新たな魔道具を見つけ出し、リアムに復讐を果たすのだという。

いいだろう、俺さまはその提案に乗った。



《リリアside》


いつからかジルガが怖くなった。

いつからだろう…きっとあの時からだ、魔剣を手にしたあの時から。


リアムが抜けて、歯車が狂って、あたしたちは逃げるようにライラック王国で冒険者生活をしていた。

あの時のジルガは、正直見てられなかった。

自信に満ち溢れてたジルガが、挫折して、打ちひしがれて、誰かが支えてあげないと立ち直れないくらい弱っていた。


だからあたしがその役を買って出た。

もともとジルガのことは好きだったし、身体を重ねたことだってあった。

そんな私が身体を使って、ジルガを元気づけることなんて簡単だった。


そうして、ようやく調子を取り戻したところに、あいつがいきなり現れた。

ザイドリッツとかいう胡散臭い男。

そいつに言われ、魔剣を手に入れてからのジルガは変わってしまった。


「ねえ、ジルガ…最近変わったね、なんて言うか、ちょっと怖いくらいだよ?」


あたしは恐る恐るジルガに問いかけてみた。


「俺さまがか?なに言ってんだよ、リリア。俺さまは何も変わらないぜ」


ジルガは昔と変わらない笑顔で答えてくれた。

あたしの思い過ごしだったと、その時は思った。

でも違った、ジルガは一定期間、戦闘がないと発作的に殺戮衝動にかられ不安定になった。

そんなことは今までなかった。


挫折して、落ち込んでいても、仲間に当たり散らすことはなかったのに、その時、初めて仲間であるダスティンを殴った。

止めようとしたあたしは、ジルガに押し倒され、服をはぎ取られ、イゴールとダスティンの目の前で犯された。


優しく包み込むように触ってくれていたのに、力いっぱい乱暴に揉みしだかれた。

丁寧に時間をかけてくれていたのに、あたしのことなど考えずに貫かれた。

…しかも、仲間の前で。


あたしは、その日初めて行為の後に泣いた。

仲間の前でされたのも、乱暴に扱われたのも悲しかった。

その後は、ジルガが殺戮衝動にかられるたびに犯された。

あたしの気持ちは無視され、あの頃の優しかったジルガは、もうそこにはいない。


その後の日々はジルガに怯えながらの日々だった。

そんな中、またあいつが現れた…ザイドリッツ!

あいつはイゴールに何かを伝えると足早にその場を去っていった。


「リリア、ザイドリッツから魔剣以外の魔道具の在りかを聞いた。ジルガは俺だけには危害を加えない。きっと、俺がお前たち2人に比べ強いからだと思う」


たしかにジルガは発作を起こしてもイゴールを殴ることはしない。

きっと、イゴールの推測は正しい。

だから魔道具を探すというなら理にかなっている。

でも、もし、魔道具を手に入れたとして、ジルガをコントロールできるようになっても、今度はあたしたちが、あの発作に悩まされるんじゃないのか?


「でもさ、イゴール。それで、ジルガを抑えられるとしても、あたしたちまで変わっちゃうってことはない?」


イゴールは首を振りながら答える。


「いや、それはわからん。だが、このままでは、いずれ俺でもジルガを抑えきれなくなるだろう。そしたら、今まで以上に悲惨なことになりかねない」


あたしは落ち着いたイゴールに無性に腹が立った。


「今まで以上って何よ!?あたしはあんたらの前で…大勢の人の前で無理やりされてんのよ!?それ以上に悲惨なことなんてあるわけないでしょ!あんたは、なにもされてないから、あたしとダスティンの気持なんかわかんないのよ!」


あたしは怒りに任せて怒鳴り散らした。

イゴールはそんなあたしを見下ろしたまま、それを聞いている。

そして、一度だけ視線をダスティンのほうへ向ける。


「すまない。しかし、ほかに方法が…」


イゴールの言いたいこともわかる。

でも、もし魔道具を手に入れたら、イゴールやダスティンも変わってしまうかもしれない。

それは怖い。

ジルガだけならともかく、イゴールやダスティンにまで身体を許したくない。


そうだ、隙を見て逃げ出そう。

イゴールの話では、魔道具の在りかは中央大陸の王都の近くの町だって言ってた。

中央大陸だったら、あたしだけでも渡り歩くことができる。

そうだ、そうしよう。


あたしのこの決断が、あんな結末を迎えるとは想像もしていなかった。

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