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47話 遺跡の探索

俺とアルク、ルルーシュは、とある遺跡の前に来ていた。

見た目には普通の遺跡と何ら変わりないように見える遺跡。

遺跡の入り口を前に、イヤな記憶が俺の脳裏をよぎる。

半年以上前に探索に入った遺跡、その中での出来事は今でも鮮明に思い出す。


ズキンと胸をえぐられるような感覚を覚えたとき、俺の手に温かい感触が伝わってきた。

見ると、やや後方にいるルルーシュの手が、俺の右手を包んでいる。

柔らかい手が、優しく俺の手を包み込み、ルルーシュの体温を俺に伝えてくる。

なぜだろう、この手に包まれていると、どこか安心する。

ルルーシュは俺と目が合うと、優しく微笑みながら言う。


「大丈夫です、もう私たちは、いなくなったりしませんよ」


その声と笑顔に、俺の心は穏やかになっていく。

自然と顔がほころびかけて、それをごまかすように首を振る。

いやいや、ダメだ。アルクとの関係を進展させる手伝いをすると決めたじゃないか。

俺よりもアルクだ、彼女がアルクとうまくいくように立ち回らなければ。


「ありがとう、ルルーシュ。もう大丈夫だ、アルクのサポートに回ってくれ」


「えっ…あ、はい」


ルルーシュは一瞬、怪訝そうな顔をしたが、すぐさま俺とアルクの後方に回る。

俺たちは遺跡に入る前に簡単な打ち合わせをした。


まず、隊列はアルク、ルルーシュ、俺の順番。

アルクが先行し、斥候役を務めながら、敵がいる場合は対処する。

ルルーシュは基本的には、戦闘には参加しない。

治癒術師である彼女は、回復の要だ。

回復魔法が使えない俺やアルクのサポートに徹してもらう。


そして、最後尾は俺が務める。

後方に気を配りながら、必要であれば前衛のアルクを援護する役だ。

ちなみにこの隊列では、ルルーシュはアルクの真後ろということになる。

アルクがよほどの失敗をしない限り、ルルーシュの目にはアルクが、さぞ頼もしく映るだろう。


簡単に打ち合わせを済ませ、俺たちは遺跡の中に足を踏み入れた。

中はやや薄暗かったが、視界がふさがれるほどではない。

遺跡に使われている石材がほのかな光を発しているのだ…これは、魔力を蓄積しているのだろうか。

だとしたら、やはり転移トラップのような魔法陣も多くあるのでは、と不安がよぎる。


俺は、不安を取り除くように周囲への警戒を強める。

アルクはエルジェイドの言っていた通り、索敵に関しては未熟だ。

ルルーシュは、特にそれには気づいていないようだが、このままなにもなければいいが。

とはいえ、遺跡はダンジョンや迷宮と違い、魔物の数は多くないはずだ。

俺も気を配っていれば問題はないだろう。


本来、遺跡や洞窟には大量の魔物はいないとされている。

しかし、なんらかの理由で内部に魔物が入り込み、増殖することがある。

その魔物が、ダンジョンに入ってきた冒険者を倒すことで、冒険者の魔力が内部に充満する。

その魔力がもとになって、洞窟や遺跡が形を変えたものが、ダンジョンや迷宮となる。


ダンジョンや迷宮は、その最深部に魔石や魔力が充満している箇所があり、そこに吸い寄せられるように魔物が入り込み、増殖する。

さらに、その魔石を目指したりギルドで討伐依頼を受けた冒険者が、そこに潜り、息絶えることで、その魔力がダンジョンや迷宮内に充満し、また魔物が増える。

そうして魔力が充満したダンジョンや迷宮は徐々にその大きさを増していくのだ。


つまり、洞窟や遺跡の探索ができないということは、すなわちダンジョンや迷宮も探索できないということ。

今のアルクの冒険者ランクはB。

ランクだけで見れば、遺跡探索は問題ないはずなのだ。


ふと、アルクが動きを止めた。

振り返ることなく、手の動きだけで俺たちを制止させる。

アルクの視線の先…前方の曲がり角に、うごめく影が見える。


「リアムさん、初級魔法を教えてもらったお礼がまだでしたね」


そう言うと、アルクは脱力し、やや前傾姿勢に構える。


「僕の…鋭刃流の技、瞬息の太刀を教えます」


一瞬、アルクが何を言っているかがわからなかったが、俺は理解した。

アルクは、剣聖の瞬息の太刀を見取り稽古だけで会得した。

だから、俺にも同じことをしようというのだ。

いいだろう、瞬息の太刀…この目に焼き付けておこう。


曲がり角から姿を現したのは、俺たちの何倍もの大きさの芋虫。

その芋虫は、固い外殻に覆われ、背中には無数の針を背負っている。

ルルーシュは、スパイクキャタピラーだと俺とアルクに教えてくれた。


「よく見ていてください、大事なのは瞬発力です。全身のバネを使い、瞬間的にトップスピードまでギアを上げ、最短・最速・最高の一撃を放つ。これが瞬息の太刀の極意です」


アルクが静かに言い終わったところで、スパイクキャタピラーは俺たちに気づき、戦闘態勢に入る。

モゾモゾ動いていた今までとは違い、身体を丸め、固い外皮と無数の針を使い、転がりながら急速に近づいてくる。


キィン、という音が聞こえたときには勝負はついていた。

アルクはスパイクキャタピラーの後方で、剣を鞘に納めている。

スパイクキャタピラーは転がり続けていたが、やがてその1つの巨体は中心から左右に2つに別れ、それぞれ壁に激突し、その動きを止めた。

まさに一刀両断である。


アルクは振り返るといつものニコニコとした笑みを浮かべていた。


「どうですか?凄いもんでしょう」


アルクの言葉に俺とルルーシュは顔を見合わせて、小さく笑った。


「ああ、凄いもんだな。俺に瞬息の太刀が使いこなせるとは思えないよ」


その言葉にアルクは、満面の笑みを返してくる。


「リアムさんならできますよ。ただ、片手だと難しいので、早くルルーシュさんに治してもらわないとですね」


そんな会話をしつつ、遺跡の探索は進む。

遺跡は左右対称に作られているようだが、とにかくデカい。

入り口から通路を通り、その両脇に大小さまざまな部屋、そのひとつひとつを丁寧に調べていく。

そしてその先には、大きな広間があり、その左右には複数の小部屋が存在する。


俺たちは、その小部屋のひとつを拠点として、数日間、遺跡の探索を続けた。

その間、魔物にも遭遇しなかった。

やはり、ダンジョンや迷宮よりは、はるかに魔物の数が少ない。

しかし、探索には時間がかかった、魔物は少ないが調べなければならない場所が多いのだ。


それでも、ひと月ほどでほとんどの探索を終えた。

遺跡内での生活の間、ルルーシュは俺のサポートをしてくれることが多かった。

どうやら片腕しかない俺を不憫に思ってのことのようだ。

しかし、俺としては、もっとアルクと関係を深めてほしいとは思うのだが、やはり俺が邪魔だったか。


そうこうしているうちに最深部の調査が始まる。

遺跡の最奥、他とは違いやや薄暗い小さな部屋には、壁面になにやら文字?のようなものがびっしりと描かれている。

ルルーシュは、それをひとつずつ眺めている。

俺にはなにがなんだかわからない、これならまだ子供の落書きのほうが理解できそうな気がする。


ふと、アルクを見ると彼は自分の剣の手入れをしていた。

その仕草は、さすがB級冒険者といったところか。


ルルーシュは、壁面に書かれた文字のようなものをメモしている。

俺はおもむろにアルクに歩み寄り、そっと耳打ちした。


「アルク、俺に遠慮せず、もっと積極的に関わってもいいんだぞ?」


俺の言葉にアルクは目を見開き俺の顔を見た。

そして、やや眉をひそめ、何かを言いたそうだった。

失言だったか?俺には気づかれてほしくなかったというのか?

それならば、もうこの話題に触れるのはやめよう…やはり影から応援すればいいのだ。


「終わりました、ひとまずオーペルに帰還しましょう」


ルルーシュのひと声で、俺たちは遺跡をあとにした。

探索期間は約1か月、予定よりも順調だ。

そんなことより、そんなことよりもだ…無事に遺跡を抜けることができた。

そのことが、俺にとってはなによりの成果だった。

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