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46話 研究の合間に

初めてルルーシュの手伝いをした翌日。

俺とアルクは宿屋にある食堂で朝食をとっている。

今日の俺の予定は特にない。

アルクと一緒に転移トラップについて調べるのもいいだろう。


そう考えていると、宿屋の入り口に見覚えのある姿が…ルルーシュだ。

なぜ?…と、考えているとアルクが立ち上がる。

そしてそのままアルクは入り口のほうへと歩いていく。

やはり昨日、町で見かけたのはアルクとルルーシュだったか。

俺の心に再びモヤモヤとしたものがわき上がってくる。


俺は食事を済ませ、そのまま部屋に戻り荷物をまとめると、裏口から宿を出た。

向かった先は冒険者ギルド。

クエストボードに目を通す。

その中にある、ランクに関係なく出されている定期クエストを受注する。

内容は、スカルリザードの討伐依頼。


スカルリザードは、大トカゲのガイコツ、魔物のランクはBランク。

雨季が近づくと隣国であるガウガウから大陸を移動し、カルテリオ周辺に姿を現すらしい。


魔物のランクが高いにもかかわらず、クエストランクが設定されていないのは、依頼主が国だからだ。

討伐できれば報酬は出るが、失敗してもペナルティはない。

クエストの条件を引き下げることで、多くの冒険者に依頼を受けてもらい、結果、多くのスカルリザードの討伐に成功しているとのこと。


俺としては、鍛錬ついでにはちょうどいい依頼だった。

じっとしていると、アルクとルルーシュのことが頭をよぎる。

別にアルクのことを嫌っているわけではない。

しかし、アルクとルルーシュが親しげに話しているのを見るのは、どうにもモヤモヤした。

だから、気を紛らわせるために、身体を動かすことにしたのだ。


町を出て数時間、目の前にスカルリザードが現れる。

動きはそこまで機敏ではない、遠距離攻撃の類もないだろう。

しかし、Bランクの魔物…戦闘力は高いのかもしれない。


俺は、ゆっくりと近づいてくるスカルリザードに向け、アイシクルゲイザーを放つ。

スカルリザードの真下から鋭い氷柱が出現、そのまま串刺しに…はならなかった。

どうやらずいぶんと骨太のトカゲさんのようだ。

俺はすかさず、ライトニングバーストを追撃として放つ。

真下から立ち上る雷に打たれ、スカルリザードは砕け散った。


その砕け散った骨片から牙を1本回収する、これで討伐したことの証明になるらしい。

その後も、町の周辺に現れるスカルリザードを討伐していく。

数にして10体は倒したであろうというところで、日が傾いてきた。

俺は、最後のスカルリザードの骨を回収し、宿へ戻るため町へ向かった。


町は夕暮れ時でもにぎわいを見せている。

俺は冒険者ギルドで依頼の報酬を受け取る、報酬は金貨一枚、なかなか美味しい依頼だ。

そのまま報酬を手に向かったのは、宿とは少し離れた酒場。

療養区やらメインストリートから少し離れているためか、ややガラの悪い雰囲気ではあるが店は繁盛しているようだった。


俺は店の奥に案内され、1人で盃を傾ける。

ふと、背後から声を掛けられる…聞き覚えのある声だ。

振り向くといつかの路地裏で、ルルーシュに絡んでいた男がそこに立っていた。


「よう、兄ちゃん、久しぶりだな。いつぞやの礼をさせてもらおうか」


男は下品な笑みを張り付けながら、俺を見下ろしている。

その背後には仲間と思われる別の男が数名、同じように下品な笑みを浮かべている。

俺は男に言われるがまま、店の外へと出ていく。


「あの女はよ、俺が前々から目をつけてたんだよ。たまたま、森の中で見かけたときは、その場で食ってやろうかとも思ったが、獣人族のお守がいやがったからな。今度こそ、あの女を全裸にひん剥いてヒイヒイ言わせてやるぜ。ああ、想像しただけでたまんねえな」


男は下品なことを下品な笑みで言いながら、口元のよだれを拭う。

こんな男たちにルルーシュを汚させるわけにはいかない。

あの子はアルクに惚れているはずだ。

それならば、ルルーシュのためにもアルクのためにも、俺が一肌脱ごうじゃないか。


「お前のような男に彼女はもったいない。これ以上付きまとうなら、それなりの覚悟をするんだな」


俺の言葉に男たちの顔から下品な笑みが消えた。

各々、自分の武器を手に取り、互いに距離をとっている。

相手は5人、身なりからして全員が戦士とみて間違いはないだろう。

俺もゆっくりと剣を抜く。


俺が剣を抜き終わるのを合図に前にいた男2人が襲い掛かってくる。

遅い!すれ違いざまに剣の腹で男2人を叩き伏せる。


すかさず、もう1人が剣を振り上げ、飛び出してくる。

瞬間、ウグッという、うめき声とともに動きが止まる。

俺の剣が男ののど元に突きつけられている…ツーッと剣先に一滴の血が流れる。

男は、その場にへたり込み、足元にジョロジョロと水たまりを作った。


ふと、視界の端に動くものが見えた。

俺は、とっさに地面に伏せる。

ビュンッという音とともに俺の首があったところを何かが高速で通過する。

通過した先を見ると、奥に控えていた男が剣を抜いた状態で立っていた。

あれは、見たことがある…鋭刃流、瞬息の太刀。


男はゆっくりとこちらに向き、剣を構える。

俺も立ち上がり、剣を構えた。

勝負は一瞬だった、男は一瞬何が起きたかわからなかったかもしれない。

なにせ、自分が一歩踏み出した瞬間、天地が逆転したのだから。


俺からすれば男の瞬息の太刀は遅かった…アルクのほうが数段速かった。

だから、相手が動いた瞬間に、相手をつかみ投げ飛ばすことができた。

この男の瞬息の太刀を見ていると、いかにアルクが天才かが分かる。

それだけに慢心せずに鍛錬を続けていればと思ってしまう。

まあ、今はいい…それよりも、まずこいつらだ。


俺は下に寝転がる男を見下ろす。

男は泡を吹いて天を仰いでいる。

他の3人は、うずくまるか戦意を喪失しているかだ。

そこで俺は奥で立ち尽くしている男のところへ向かう。

男は後ずさり、建物の壁にもたれかかった。


「お前たちが、まだ彼女に手を出そうというなら、俺は今からお前たちの首を切り落とす」


その言葉を聞いて男の目に恐怖の色が浮かぶ。


「も、もうあの女にはかかわらねえ。だから、命だけは助けてくれ、頼む」


男はそう言うと足早に仲間を連れてその場を去っていった。


もう俺の心にはモヤモヤしたものはなかった。

なにが俺のモヤモヤを解消するきっかけになったのかはわからない。

でも今は、すがすがしい気持ちだ。

そうだな、俺はアルクたちを応援しよう…今までの感謝を込めて、2人の関係を進展させる手伝いをするのだ。


そう思えば、不思議と胸にストンと落ちるものがあった。

そんなことを考えながら、明日から始まる遺跡探索に思いを巡らすのだった。

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