5話 その頃、ジルガ勇者パーティー御一行様はというと・・・➀
「おい、ダスティン!今、何階層だ?」
「今は、19階層です」
「まだ19階層だと!?どうなってんだ、まだそこまでしか進んでねえのに、倒した魔物の数が今までの倍以上じゃねえか!」
怒声がダンジョン内に響き渡る。
「ちょっとジルガ、あんまり大声出さないでよ。また魔物に見つかっちゃうじゃない!」
「うるせえ!わかってる!」
怒声の主に対し、リリアが注意を促すも、やはり怒声を浴びせられ、リリアも黙り込んでしまった。
その怒声の主は、誰であろうジルガ様、このパーティーのリーダーである。
俺さまたち勇者パーティーはSランク昇格クエストのためダンジョン内を探索していた。
くそ、どうなってる!
まだ19階層だってのに全員ボロボロじゃねえか!
なんでこんなことになってんだ!?
そもそもダンジョンには2種類ある。
自然発生したものと何者かにより作られたもの。
後者はまれであり、現存するほとんどが自然発生したものである。
ダンジョンの最深部には魔石が存在し、それに引き寄せられるように魔物が集まってくる。
ゆえに最深部へ近づくにつれ、魔物は強くなっていく。
難易度の高いダンジョンほど、魔力の高い魔石が最深部に存在するため、そもそもの魔物が強いのだ。
その魔石を回収することはできないとされており、そのため、一定期間でダンジョン内に魔物が補充されるようになる。
魔石が回収できない理由は、ダンジョンが崩壊するからだ。
そしてダンジョンは、そのランクによって何階層まであるかが決まっている。
Fランク5階層、
Eランク10階層、
Dランク30階層、
Cランク50階層、
Bランク80階層、
Aランク100階層、
Sランク101~150階層となっている。
それぞれのダンジョンには9がつく階層にエリアボスと呼ばれる、強敵が存在し、その先へ進む道をふさいでいる。
さらに最深部へいくとダンジョンのボスがおり、そいつを倒すことでクリアとなる。
つまり、現在はDランクに相当しているということになる。
「おい、ダスティン!もっと明るくできねえのかよ!そもそも暗くて前が見えねえから魔物との戦闘が増えてんじゃねえのか?」
「そんなこと言われても、たいまつではこれが限界ですよ」
くそが!役に立たねえな。
俺さまたちは魔物との度重なる戦闘で疲弊していた。
視界が悪くなければ、もっと楽に進めてるはずじゃねえか。
「リリア、お前の魔法で明るくしろよ!」
「そんなことしたら、魔物にすぐ見つかるよ!魔法で明るくしても魔物に見つからないなんて、リアムのスキル以外無理に決まってんじゃん!剣に魔法をかけて明るくできるのなんてリアムにしかできないよ!」
リアム!?リアムだと!あんな役立たずの名前を口にしやがって、どいつもこいつも気に入らねえ。
俺さまはイラだちを隠すことなく、怒鳴り散らす。
当然だ、役立たずのリアムを追い出し、華麗にSランククエストをクリアする予定だったのが、このざまだ。
これじゃあ、まるでリアムのおかげでクエストがクリアできていたみたいじゃねえか!
「ダスティン!次の階層はまだか?」
「そう言われても、ここまで暗いとどこにいるのか。それに地図も全体が書かれているわけじゃないんです、空白の部分は実際に行ってみるしか」
「グダグダ言ってねえで、さっさと案内しやがれ!」
俺さまの怒鳴り声に全員が言葉を失い、萎縮していくのがわかる。
さすがにマズイ、こんな状態で魔物に遭遇したら、勝ち目がねえ。
そうか、そういうことか!みんな委縮してたから、魔物に苦戦していたんだ、そうに違いねえ。
「みんな、悪かった、一度落ち着こう。俺さまたちは初めてのSランククエストに挑んでいるんだ、魔物が多かったり、ダンジョン内が複雑なのはしょうがないことだ。落ち着いて進めば、俺さまたちならクリアできる」
「お、おお、そうだな。ジルガの言うとおりだ」
「そうね、Sランククエストだもんね。厳しくて当然よね」
「そうですね、落ち着いていけばいいだけですね」
みんなの表情が明るくなり、生気がみなぎってきたのが見てわかる。
そうだ、俺さまは勇者様なんだ、俺さまがひと声かけりゃ、こいつらは大丈夫だ。
その表情を見て、俺さまも少しずつ穏やかさを取り戻しつつあった。
「よし、ひとまず休憩してから状況を確認でき次第、出発しよう」
このクエストは最速でSランクに上がれるかどうかの大事なクエストだ、万にひとつも失敗はあり得ない。
もし、失敗なんかしたら、みんなの笑いものだ。
俺さまたちはダンジョンに入ってから、数多くの魔物を倒してきた。
通常のクエストの倍近い数だ。
くそ、剣もいつもより重く感じるぜ。
そりゃそうか、魔物の数が多いからな、疲労も蓄積してるんだろう。
少し休めば、いつも通り戦えるはずだ。
他のやつらも疲れている様子で、黙ったまま座り込んでいた。
ふと、視線を巡らすとダスティンがアイテムの確認をしていた。いい心がけだ。
「ダスティン、アイテムのストックはどうなってる?」
「はい、回復用の薬草セットが5セット、ポーション13個、聖水9個、煙玉7個、帰還玉1個というところでしょうか」
ん?まだ19階層だろ?そのアイテムストックは少なすぎないか。
こんなんじゃ、あと131階層も進むなんて不可能じゃないか。
穏やかさを取り戻しつつあった俺さまの心が、再びざわめきだす。
「なんでそんなにアイテムが少ないんだ!ダスティン、ちゃんと補充しておかなかったのか!?」
「そんな、ぼくはちゃんと補充しましたよ!みなさんが使いすぎなんです!聖水なんて、ほとんどリリアさんが使っているじゃないですか!」
ダスティンはそう言うと、今まさに手に聖水の瓶を持っているリリアに視線を向けた。
「ハァ!?あんたバカ?戦闘で魔法使えなくなったらどうすんのよ?そんなこと言うなら、あんたがあたしの代わりに攻撃魔法使いなさいよ!」
ダスティンに責められ、リリアも必死に反論する。
さらにリリアの怒りは収まらず、続いてイゴールが標的となる。
「イゴールだって、ポーション使いすぎなんじゃないの?あんなにあったのに、まるで水でも飲むようにどんどん飲んじゃってさ!後衛の私たちなんか、体力回復は後回しにされてるってのに」
「俺は、お前たちを守っているんだ!体力の消耗が激しいのは当然だろう、そんなこともわからないのか」
イゴールは横目でリリアを見ながら言い放つ。
その口調は、冷たくやや呆れているような印象も受けた。
「あんたねぇ、いい加減にしなさいよ!!!」
イゴールの反論にリリアは顔を赤く染め、今にも掴みかかりそうな勢いで立ち上がる。
「そこまでにしろ、お前たち、みっともないぞ!」
俺さまのひと声に全員が静まり返る。
「これ以上の探索は危険だ、一度引き返そう。ただし、このまま引き返したらみんなの笑いものだ、ちょうどここは19階層。下に降りる前にエリアボスがいるはずだ、そいつを倒し、今回は様子見程度だったとでも言えばいいさ」
そうだ、そういうことにしておけば、慎重に行動し、常に次の探索に備える優秀なリーダーだと周りには見られるだろう。
我ながらいい判断だ。
「そうだな、さすがジルガだ」
「そうね、熱くなりすぎたわ、ごめんね、みんな」
「ぼくももう少しアイテムに余裕を持たせるべきでした」
ほらな、みんなも落ち着きを取り戻した、優秀なリーダーのひと声によってな、大丈夫、俺さまたちは超優秀なはずなんだ。
「さあ、みんな、反省会は後だ。エリアボスを倒しに行くぞ」
そう言いながら立ち上がり、両手をパンパンと叩いた。
俺さまたちはエリアボスがいるであろう広間に向かう。
途中、ゴブリンと遭遇したが、落ち着きを取り戻した俺さまたちは、大きな被害を受けることなく討伐し進んでいく。
「ジルガさん、そこを右に行くと大きく開けた場所があります。そこにボスがいるかと」
「よし、みんな準備はいいか?ボスを倒して堂々と帰還するぞ」
広間の奥に階段が見える、魔物は…いた。
階段の前に、あれは、ゴーレムか?
「いいか、みんな。ボスはゴーレム1体だ、体も小さいからベビーゴーレムだろう。Cランク冒険者であれば倒せるレベルだ、落ち着いていくぞ」
そう言うと俺さまとイゴール、ダスティンは先陣を切ってゴーレムとの間合いを詰める。
ドゴォン
ベビーゴーレムの渾身の一撃をイゴールの大盾が受け止める。
「ウォーターアロー!」
リリアの水属性魔法がベビーゴーレムに直撃。
「身体能力を一時的に上昇させる魔法をかけます、ジルガさん全力でいってください」
ダスティンの支援魔法が俺さまにかけられた。いける!
「くたばれ、ベビーゴーレム!」
ガキィィィン、ガラン、ガラララン。
ガキィン?ガラン??
俺さまは状況が把握できなかった。
いや、目の前の現実を認めたくなかったというべきか。
俺さまの優秀な脳みそが、目の前で起こった信じられない光景を受け入れることを拒否したのだ。
なにせ、周囲からすべてを断ち切ると言われている俺さまの剣が、ベビーゴーレムを断ち切ることなく折れてしまったからだ。
「俺さまの剣、ブラッディレインが」
「ジルガ!前だ!!」
ズドン
呆然と立ち尽くす俺さまの腹部にベビーゴーレムの強大なこぶしが、文字通りめり込む形でヒット。はるか後方の壁まで数秒でたどり着き、俺さまは全身を強打したのだった。